26 ワンコ、ケルベロスになる
──第3エリアに足を踏み入れた。
数メートル歩いたところで、みんなの足が止まる。
「【雪狼の襟巻】を付けてても暑いな……」
見渡す限りの砂漠。
遥か先には、黒煙を噴き上げる火山が見えていた。
他の冒険者の姿はない。
砂漠を抜けた先で狩りをしているのか。
このエリアのモンスターはレベル85~95。
雪狼や鋼鉄熊とは危険度が違う。
足元から伝わる熱気に、僕たちの足は止まったままだ。
その時だった。
ピッ!
ピッ!
ピッ!
ブブたん光線が走る。
次の瞬間、砂の中から現れたサソリ3匹が一瞬で消え去った。
ドロップはサソリの尻尾と極小魔石ⓢ。
「ここ、経験値マズいね。鋼鉄熊や雪狼とは雲泥の差だ」
「いや、そうでもないぞ」
エイジがワンコへ変身する。
同時に――
ザザァーーッ!!
巨大なサソリ2匹が砂を巻き上げながら姿を現した。
体長は尻尾の先まで約7メートル。
「散って!」
僕の号令で、全員が一斉に四方へ飛び退く。
即座にブブ光線3連射。
だが巨大サソリは素早かった。ギラリと赤い目が僕を捉える。
(──来る!)
ガシンッ!!
ガシンッ!!
巨大なハサミが連続で振り下ろされるのをアンギスの盾で受け止める。
「ぐぅっ!」
重い!
押し潰されそうな衝撃。
その隙を逃さず、ロイが駆け抜けた。
アイスソードが一閃! 巨大サソリの尻尾が宙を舞った。
さらにブブ光線が頭部へ直撃。
バシュッ!!
頭を吹き飛ばされた巨大サソリは、そのまま光の粒となって消えていった。
別の1匹は尻尾を高く掲げていた。
無数の毒針がワンコとロイに向かって飛ばされるが、二人は軽々と回避する。
ワンコの口が大きく開いた。
「ガァァァッ──!」
灼熱のブレスが巨大サソリを包み込む。
焼け焦げたところへロイの剣が閃き、尻尾を切断。
最後はラスの高圧水撃。
巨大サソリは砂上で消滅した。
ここまではよかった。
だけど――巨大サソリを倒した直後。
ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーー!!
大地が激しく揺れる。
「地震だ!?」
立っていられない。
膝をついた瞬間、僕の体が流砂へ沈み始めた。
「まずい!」
さらに――
砂を突き破り、巨大なサンドワームが2匹、姿を現す。
地上に出ている部分だけで10メートル以上。
真っ赤な口が大きく開く。
僕たちを吸引する気だ!
「速歩!」
慌てて唱えた。
僕はなんとか流砂から抜け出すと、一目散にクーを助けに走った。
ピシュッ!
ピシュッ!
こんな状況でも、ブブたん光線は止まらない。
「クー! 動かないで……」
腕を掴み、力いっぱい引っ張る。
なんとか流砂から救い出し、サンドワームの背後へ回り込んだ。
そこで既に、ワンコとラスの攻撃が始まっていた。
ブブ光線、炎ブレスと高圧水撃でサンドワームが後方に倒れると、ロイのアイスソードが仕留める。
残った1匹に向かってロイが駆け出す。
手にはエゴソード。
「一刀両断!」
閃光が走る。
瞬く間に、巨大なサンドウォームの体が真っ二つに切り離された。
切断面から光が溢れ出し、巨体はゆっくりと光の粒へ変わっていく。
「さすがソードマスター!」
「いえ、エゴ様がクリティカルを発動したようです」
「おお、エゴ様が役に立ってる」
ラスが僕の背を叩いた。
「ユイト、逃げる!」
「また現れたら厄介です」
「エイジ、退却だ!」
僕たちはドロップ品をかき集めると、吊り橋へ向かって全力疾走した。
……なるほど。
冒険者が誰もいないわけだ。
サンドワームは厄介すぎる。
て、いうか――
僕たちが挑戦するには、まだちょっと早かった。
◇
橋の上。ドロップ品を確かめる。
サソリの甲殻の一片 1個 8000x2=16000▲ 4000*ラス分
サンドワームの牙20個x6000x2=24万▲ 60000*
茶色の大きな石1個 50000x2=10万▲ 25000*
(【アースクエーク】のスクロールの材料)
中魔石Ⓛ2個 40万△ 100000*
大魔石ⓢ2個 30万△ 75000*
ブブ光線500x30=15000▼
▲合計341000 ラス合計●264000
ラスに27万ガルを渡した。
残高は557万以上。
そして僕とエイジはLv62、ラスは69、ロイは72になった。
僕の【速歩】も1日3回まで使えるようになった。
その代わり、消費ガルは一気に30万へ跳ね上がったけど。
そうしている間に、ワンコが魔石の吸収を終える。
すると――また進化が始まった。
体がぐんぐん大きくなっていく。
もう見上げるほどデカい。
それから。
……うん。
予想はしてた。
僕以外のみんなは「信じられない!」って顔で見守っている。
ムクッ……ムクッ……。
ワンコに――3つ目の頭が生えてきた。
「地獄の番犬ケルベロスだ」
「ワォォォオオオオオーーーーーン!!」
喜びの雄叫びが橋の上に響き渡る。
おお、強そうだ。
でも――
やっぱり僕の顔を舐めるんだね……。
「よしよし……って、ヤメロ!」
3つ目の頭。
押しのけた僕の手を、ガジガジとかじってないか?
甘噛みのつもり? 痛いんだけど。
なんかもう、メチャクチャ……。
ラスもロイもクーも、完全にドン引きしている。
そして時間切れ。
ワンコは突然エイジの姿へ戻った。
「汚ねぇー! 唯斗……ベチョベチョだ」
「お前がやったんだろ!」
【クリーン・スクロール】で綺麗にして、みんなで中央安全地帯へ戻る。
順調。
いい感じだ。
このままどんどん強くなれる。
僕はこの時そう信じていた。
読んでいただいて、ありがとうございました。




