23 アンギスの大盾 / 閑話(祥子)
夜の中央安全地帯キャンプ場は、冒険者の街よりずっと静かだった。
屈強なギルド員が巡回していて、騒ぎを起こせばギルド追放。そのおかげで安心して眠れる。
隣にはクーの一人用テントが建っていた。
僕はエイジに尋ねる。
「クーが気になるの? 最初から味方してるよね?」
「ああ。匂いがラスやロイと同じ系統なんだ」
「匂い?」
「似たような匂い。悪人じゃない。一生懸命生きている人の匂いだ」
「匂いで人を見分けられるの? 僕はどんな匂い?」
「いい匂いだよ。狭いテントじゃなかったら、今すぐ変身したいくらい」
「……どんな匂いなんだよ」
「美味しそう──」
「ヤメロ」
いつかワンコ姿のエイジに、ガブッと噛まれそうで怖い。
「理性だけは保ってよね」
「いつまで我慢できるかな~」
エイジはケラケラ笑う。絶対、僕で遊んでる。
話題を変えた。
「僕たちの1年後って、いつなんだろう」
「ギルドに入った日から1年後で、いいんじゃないか? もう1ヶ月過ぎたな」
「うん」
この世界の暦は地球と似ている。
新月から次の新月までが1ヶ月。30日で1ヶ月になる。
今は『暑い8番目の月』。つまり8月だ。
「1年以内に義彦たちがミッションをクリアしてくれればいいけど、俺は期待してない」
「同感」
「それにしても、この世界の神様のセンスを疑うよな。なんで義彦が勇者なんだよ」
「あははは」
二人で笑い合う。
エイジと一緒なら、テント生活も案外悪くない。
◇
翌朝。
武器防具屋の前を通りかかった。
すると、
エイジの足が不意に止まった。
「ここ、何かありそうだ」
店に入ると隅に大盾が立て掛けてあって『アンギス』と名が付いている。
鑑定しても【アンギスの大盾】とだけしか分からない。
「ブブたんと同じ。取り扱いが分からない盾だ」
「300万だってさ。やめておけよ」
店主が言うには、オークションに出され、何度も人手に渡り、最終的にこの店に買い取られたそうだ。
「重すぎて誰も扱えない、埃モンだ。デザインも地味だしな。150万ガルで売ってもいいぞ」
「150万か……」
エイジが察知したのは、多分コレだよね。
「言っておくが、返品はお断りだぞ?」
僕が軽々とアンギスの盾を持つと、声も出ないほど店主を驚かせた。
レベルに関係なくどんな装備も手に馴染む。──これは僕のチートだ。
体中に力がみなぎる感覚がする。
「コレ、買います!」
黒のPTカードから150万ガル支払う。
その際、鞄の底に【銀の髪飾り】を見つけて、クーに渡した。
体力が5%アップするアクセサリーだ。
「あげるよ……あっ、あ、それは女性用だった!」
慌てたけれど、クーは普通に装備できていた。
「嬉しいです。ありがとうございます!」
「君は女の子だったのか」
「自分はまだ、どっちでもないです」
「はぁ?」
ロイが笑いながら説明してくれる。
「成人するまで、この子は何者でもありません」
「自分は男性になりたいんです」
「そっか」
そういえば前にも聞いたな。まさか、そういう意味だったとは。
おまけにオウレリアン族、男女どちらの装備も身につけられるのか。
店を出ると。
「さて、どこへ行く?」
エイジに聞かれ、僕は地図を広げた。
「順番に第2エリアに行こうか。ここも魔獣が多いし、相性が良さそう」
Lv75~90のモンスターエリアだ。
入り口付近は雪原・雪狼出没と記載があった。
「よし、行こうぜ!」
僕たちは第2エリアのゲートへと向かった。
◇閑話(祥子)◇
青のダンジョン7階に到達した。
……もういやになる~。
ダンジョンって歩く距離、長すぎ!
「到達した階層に、次から自動的に来れるようにならないの?」
「なりません」
「ヤダもう~~」
ほんと勘弁してほしい。
それに、藤崎君にも全然会えない。
もっと強くなったらラリア王女にお願いするつもりだ。
――藤崎君を私のペットにしたいって。
そうすれば、ずっと私のそばに置いておけるもん。
休憩中、ムー将軍から釘を刺された。
『ボス部屋には行かないように』
あ~あ……そんなの、義彦に「行け」って言ってるようなものよ。
案の定、サラマンダーやダチョウを倒しながら進んでボス部屋前へ着くと、義彦は誰の制止も聞かず、さっさと中へ入っていった。
私は聖女チートがあるから精神攻撃は効かない。
でも義彦は違う。
入った途端に【魅了】されて、私たちへ攻撃してきた。
ホント、バカなんだから。
まあ、ムー将軍に一撃で殴り飛ばされて、そのままひっくり返ったけど。
「全員帰還!」
将軍の指示で、私たちは帰還スクロールを使ってダンジョンの外へ脱出した。
ムー将軍なら任せて大丈夫。
そう思っていたら、予想通りすぐに気絶した義彦を担いで戻ってきた。
「彼に怪我はない。君達も絶対に、勝手な行動は控えるように」
相変わらず冷たい声。
義彦の面倒を見るの、もううんざりなんだろうな。
義彦は学校でも先生をナメた態度だったし、この世界でも自己中心的なのは全然変わらない。
ムー将軍もプライドが高そうだから、義彦を嫌っているのは明らか。
「義彦は絶対、ボスを倒すまで諦めへんで」
「言えてる~」
「はあ……」
ムー将軍は深い溜め息をついた。
ラリア王女からの苦情まで受けてるんだから大変そう。
まさに悲しい中間管理職って感じ。
結局、義彦のせいで青のダンジョン攻略はここで終了。
次は赤のダンジョンへ向かうらしい。
……それはいいけどさ。
もっと楽で簡単に強くなれる方法ってないの?
全員レベル41になったけど、これって本当に強くなってるの?
読んでいただいて、ありがとうございました。




