22 唯斗の疑問
小安全地帯で休息しながら、商人から買ったバターパンでお腹を満たした。
ブブたん貯金は8586045ガル。
「これ、もし割れたらシャレにならない……」
中身はあくまで小銅貨なんだから。858万枚以上の小銅貨が地面にぶちまけられる。
ブッブブブ──‼
……ん?
ブブたん、なんだか怒ってる?
「いやいや、ちゃんと割れないように守るよ?」
初日から予想以上の大儲けだ。
ガルを少しギルドに預けておきたい。
エイジと地図を覗き込む。
「中央安全地帯に出張ギルドがあるな」
「ここから6キロか。6×10分。1時間くらいで行けるね」
最短ルートは、ミノタウロス区域を突っ切る道だ。
「クー、行ける?」
僕が尋ねると、先にロイが答える。
「一度帰還して、新たにポーターを雇った方が良いかもしれません」
「行けます! 最後まで行けます!」
クーは必死な表情で訴えた。
クーはきっと、安全地帯でキャンプをしながらをじっくりと魔物を狩るようなパーティーに入りたかったはずだ。荷物番やテント設営だけで済む、そんなパーティーに。
本来なら、体力も戦闘力もあるポーターを雇うのが一番だ。
迷っている僕に、クーは深く頭を下げた。
「もう少しで大人になれるんです。そうしたら冒険者になりたいんです! お願いします!」
「え? 18歳になるの?」
「はい! 連れて行ってください! お願いします」
そのまま土下座までしてしまう。僕より年上とは驚きだ。
すると、エイジが手を挙げた。
「俺に考えがある」
「どんな?」
「俺、多分【パーソナル倉庫】を持ってると思う。変身すると、持ち物は全部そこへ一時的に入るんだ」
「なるほど。それで?」
「変身してる間は俺が荷物を預かる。クーにはドロップ回収を任せればいい」
「ポーターの意味。ない」
ラスがぼそっと呟く。
「いや。【気配消失】もあるから。……僕もクーでいいと思う」
「私たちはユイト様に従います」
ロイも賛成してくれたので決定だ。
「このメンバーのまま中央を目指そう」
「ありがとうございます!」
エイジは最初からクーを庇護している。
それは、何かを【察知】しているように思えた。
そして僕もクーを突き放す気にはなれなかった。
◇
エイジがワンコに変身すると、背負っていた荷物が一瞬で消える。
「本当にエイジの言った通りだ」
「ワン! ワン!」
ワンコは僕に頭を摺り寄せる。
『ほら、俺の言った通りだろう?』と、言いたげに。
僕は頭を撫でた。
「……よしよし。ワンコは万能犬だね」
先頭を駆けるワンコを追いかけながら、僕たちは中央安全地帯を目指して走り出した。
◇
ミノタウロスの縄張りを突破した僕たちは、長い吊り橋へたどり着いた。
橋の下には大きな川。前方には、大きな町が見えている。
変身が解けたエイジは、クーに荷物を渡しながら、後ろを振り返った。
「ミノタウロスはデカいだけで、経験値は旨くなかったなー」
「群れないから、倒したのは25匹だけ」
「とりあえず全エリアを回ってみようぜ」
「最終エリアはレベル100以上ですよ? 大丈夫ですか?」
「う~ん。危なければ、速歩で逃げるしかないよね」
「お、なんだか旨そうな匂いがするー!」
そんな話をしながら吊り橋を渡る。
ゲートを通過して中央安全地帯に入ると、そこは大きな町だった。
「へえ~。結構広いね」
「ギルド。あった」
ラスが駆け出し、僕も後を追う。
ギルドでラスに分配金を渡した。
ここまでで270万ガルほど渡したけど、借金完済まではまだ遠いな。
まあ、僕への5千万ガルはロイも頑張ってるし、返さなくてもいいと思ってる。
受付にいたのは、老犬獣人のケントさんだった。
黄金熊の肝を差し出し、オークションへの出品をお願いする。
「おお、これは素晴らしい。魔石とセットで出せばかなりの高額になりますよ」
「あ……魔石はちょっと必要で」
「悪いな……」
隣でエイジが小さく謝った。
結局、肝だけをオークションに出してもらうことにした。
最後に黒のPTカードへ500万ガルチャージ。
残高は2500万ガル。
ブブたん貯金は3760630ガルに減った。
その後は屋台で夕食を買い込み、キャンプ場でみんなと分け合って食べる。
焼き肉を食べていると、ふと思った。
「この肉って、まさか、あのオークのドロップ肉?……」
「オークの肉は高級なので屋台では扱いません。普通の鳥とか、熊や猪の肉です」
ロイの説明に、僕は普通の肉で良かったと思った。
では今日、大量にドロップした鋼鉄熊の肝はどうなんだろう。
「鋼鉄熊の肝も食料になるの?」
「主に回復薬調合に使われます。できれば商人かギルドで換金した方が、世間の役に立ちます」
「回復薬は薬草から作るんじゃないの?」
「薬草に混ぜる調合薬に、魔物の肝などが使われるんです」
「……そうなんだ」
この世界は、ダンジョンと深く結びついている。
スクロールの原料などには、魔石が必要なんだそうだ。
──そんな場所を封印して、本当に大丈夫なんだろうか。
僕は初めて、そんな疑問を抱いた。
読んでいただいて、ありがとうございました。




