14 4人パーティを組もう
たくさんの奴隷の中で、1億ガルという値段は別格だった。
そして、彼だけが体に酷い傷を負ったまま、手当もされていない。
僕は見過ごせなかった。
「……ラス」
声を掛けるとラスは僕の方を見た。
「唯斗!」
エイジが止める。
「ラス、いくら持ってるの?」
「……」
答える気はないらしい。
「もし5千万ガル持ってるなら、僕が5千万ガル貸してあげるよ?」
「よせ!」
エイジが慌てて僕の腕を引っ張った。
「ブブたんの2倍がどこまで成功するか分からないんだ。やめておけ」
「やってみないと分からないよ」
ラスの目は明らかに警戒している。
「そんな大金を、オレに貸すだって? あんたが?」
「うん。ただし、君も5千万ガル持ってるならね」
「なら、先に見せてみろ。【中金貨】5枚!」
──なるほど、そう来たか。
「信用できないなら別にいいよ」
僕は踵を返した。
知り合ったばかりだ。疑われても仕方ない。
「待て!」
──おっ、呼び止められた。
「5千万ガルあれば、本当に貸してくれるんだな」
僕は鞄からブブたんを取り出した。
「もちろん。この中から出せるよ。利息もいらない」
「分かった。ギルドに行ってくる」
「やめろ、そんなうまい話あるものか!」
檻の中の青年が叫ぶ。
それでもラスはギルドに向かい、数十分で戻ると【中金貨】5枚を僕に差し出した。
「一人で貯めたの? すごいね」
「いいから、早く」
「じゃあ、この貯金箱に入れて。倍にして渡すから」
「は?」
当然の反応だ。
「もし嘘だったら、割ってお金を取り戻していいよ」
「当然そうする。持ち逃げしたらコロス」
物騒だなぁ。
ラスは数秒迷ったあと、
一か八かって顔で【中金貨】5枚をブブたんの中へ入れた。
チャリーン!
僕はブブたんに祈る。
「ブブたん。【中金貨】10枚だけ出してくれる? お願い! お願いだ!」
そう言いながら鞄を広げて、ブブたんを逆さにすると――
チャリン、チャリン……チャリン!
出た!
【中金貨】10枚!
ラスとエイジは大きく目を見開いた。
ちなみに、
お金を出しては入れ、出しては入れを繰り返せば、無限に増えるんじゃないかって?
もちろん試したさ。
でも増えなかった。
ブブたんから出た硬貨は、もう2倍にならない。
そこまでブブたんは甘くなかった。
「これで彼を解放できるね」
ラスに金貨を握らせると、ラスは僕の腕を引いて店の奥へ向かった。
そこには、大量の料理をテーブルに並べて食べている、でっぷり太った奴隷商の店長がいた。
「店先の奴隷を買う。1億ガルだ」
「はいはい」
店長はのっそりと立ち上がる。
「奴隷の主。この人だ!」
え?
僕?
「いや、僕は──」
「借金を返すまで、あんたが主人だ」
「しかし……」
「オレが主になる場合。もし借金返せなくなると、主従二人とも奴隷になる」
「それは……」
「頼む!」
こうして奴隷のロイを、僕が買うことになった。
てっきりロイとラスは兄弟と思っていた、髪と目の色が同じだったから。
──違った。
二人は従兄弟、しかも、恋人同士だ。
ロイが解放されるとラスはバッグから上着を出して彼の肩に掛け、強く抱きしめた。
主従契約を結ぶと、ロイは床に額をつけた。
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません!」
ロイはラスを見て目を潤ませる。
「迷惑かけて、本当に済まない」
そりゃそうだ。
ラスは5千万もの借金を背負ったんだから。
「どうして奴隷になったの?」
もし危険な犯罪者だったら怖い。
その時はラスに返そうと思った。
でも、ロイは違った。
彼は、一ヶ月前までは高位貴族の息子の護衛だったと説明した。
「ダンジョンの中で坊ちゃんは私の言うことを聞いてくれなくて。勝手に動いて罠にはまり、大怪我をしたんです」
「そんな理由で奴隷になったの?」
「はい。平民なんてそんな扱いです」
しかも高位貴族は奴隷商人に『ロイを毎日鞭打ち10回せよ』と、命令を出していた。
──理不尽すぎるな、この世界の貴族。
酷い拷問を受けてロイの体はボロボロだ。
「大変だったね。もう自由だから安心してよ」
「これからどうするんだ?」
エイジが尋ねる。
「どうもしないよ? 二人で仲良く暮らせばいいよ」
「そうはいきません! 私はユイト様の奴隷ですから。必ずお役に立ちます」
「そんなの気にしないで」
どれだけ断っても、ロイは引き下がらない。
ラスも同じだった。
「それなら、いっそパーティを組もうか?」
護衛をしていたなら実力もあるはずだ。
しかも奴隷なら裏切る心配もない。
無口なラスなら、余計なトラブルも起こさないだろう。
僕としては良い案だと思った。
だけど──
エイジは不機嫌な顔だ。
「エイジ、勝手に決めてごめん」
「いいよ。リーダーは唯斗だから従うよ」
うわ。
絶対に怒ってる。
「いや、リーダーはエイジだから!」
「エイリアンズのボスは唯斗だ。命運を託す」
「そんな……」
夕暮れの街をエイジはスタスタと、先を歩いていく。
「ごめん。エイジ、本当にごめん」
慌てて後を追いながら、僕は何度も謝った。
ラスは弱ったロイを支えながら、僕の後をついて来る。
到着したのは、いつもの宿屋。
「まずはロイを休ませてあげよう」
「エイジ……」
優しい。
やっぱり僕はエイジが好きだ。
読んでいただいて、ありがとうございました。




