12 エイジの高速自動回復
「他のダンジョンですか? う~ん……」
異世界転移33日目のこの日、言い淀んでいるのはジニーさん。
エイジは、ゴーレムやサラマンダーと相性が悪いから、
他のダンジョンに行きたいと言い出した。
「他のダンジョンだとラスボスを倒さないと上級ダンジョンに行けません。例えば【赤のダンジョン】だと、ラスボスは鋼鉄熊Lv75が3匹です」
そう言って地図を差し出してくる。
見れば、王都からは遠い。
「辺鄙な場所で途中からは町もありません。野宿しながら行けます?」
「唯斗はどう思う?」
「行かない」
──却下。
野宿なんて虫が出るじゃん。地面に寝るのは不潔そうだし。
絶対に嫌だ。
「鋼鉄熊Lv75を3匹も、俺達じゃ倒せないかもな」
するとジニーさんが、不意に尋ねてきた。
「お二人の資金繰りは大丈夫なのですか?」
「それは、まあ……なんとか」
現在残高は777070ガルだ。
僕が返事すると、離れた場所から、
「素晴らしい槍を持っているな。君、譲ってくれないか?」
貴族風の男性が声を掛けてきた。
豪華な装備で全身ピカピカ。
いかにもお金持ちです、という感じ。
「お断りします」
「300万ガルでどうかな?」
──ハルバード! 300万の価値があるのか。覚えておこう。
「それでもお断りです」
男は残念そうに肩を落とし、今度はエイジへ視線を向けた。
「君、いいねぇ。私のファミリーに入れてあげるよ」
ここにもいたよ……
ゴリアドみたいなのが。
「俺は――」
エイジが返事をしようとした時。
「その二人ダメだぜ。ゴリアド様のお気に入りだ」
誰かが横から口を挟んだ。
「む、それは残念だな」
男はあっさり諦めて去っていく。
おっと、これは。
ゴリアド様が、虫除け効果を発揮している。
便利かもしれない。
「唯斗」
「ん?」
「青のダンジョンでいいよ。牙集めの方が簡単だ」
「うん、ドロ率は最悪だけどね」
「こうなったら金を集めて、ブブたんにジャンジャン倒してもらおう!」
……なんか情けない作戦だ。
「早く上級ダンジョンに行きたいからな」
開き直ったな、エイジ。
そうやって前向きなのが、エイジの強さだと思う。
「今はお金に余裕があるから……いいけど」
「俺にいい考えがある!」
エイジはギルドの掲示板に依頼書を貼った。
『元気な初級冒険者募集!
3時間歩けば3千ガル支給。
参加者には3百ガル支給。
ただしリタイアした場合は支給なし』
すると翌朝。34日目
応募が8人集まった。
午前9時から12時まで、6人パーティで街道を歩くことにする。
午後1時から4時まで別の4人と交代して歩いた。
結果は――リタイア者ゼロ。
参加者8人全員が2万歩以上歩いてくれた。
スキル【健脚】はPTメンバーにも効力があると判明。
僕とエイジは6時間歩いた。
支給額を差し引いて、貯金は約25万ガル以上増えた。
◇◆◇◆◇
異世界生活35日目。
7階層で再びサラマンダー狩りだ。
ブブたん光線を乱射。ジャンジャン倒していく。
ただし、この階層にいるのはサラマンダーだけじゃない。
大型のダチョウみたいな魔物が突進してくるし、超小型の茶色ドラゴンは石つぶてを飛ばしてくる。
「ブブたん、サラマンダーだけ倒して! 他は僕とエイジでやるから!」
ダチョウは僕。
茶色ドラゴンはワンコ。
ワンコは攻撃を華麗にかわしながら火を吐き、次々と茶色ドラゴンを倒していく。
一方の僕はハルバードの扱いにも慣れ、
ダチョウの突進に合わせてカウンターを叩き込み、とどめを刺す。
……油断は禁物。
ダチョウの蹴りは洒落にならない。
一発まともに食らっただけで、意識が飛びそうになった。
アーマーにもヒビが入って、
ブブたんがすぐ倒してくれなかったら、危なかった。
エイジの変身も解けたので、僕たちは急いで階段へ駆け込んだ。
「いててて、あのダチョウめ……」
「大丈夫か?」
「肋骨、折れたかな?」
痛みで、思わず目をきつく閉じた。
すると。
【高速自動回復/エイジPT内発動中】
瞼の裏に金色の文字が浮かんで、体の痛みが引いていく。
「治ったみたい。エイジのパッシブ能力だ。助かったよ」
「俺の? へえ~知らなかった」
知らない間にスキル【高速自動回復】がエイジに発現していた。
「僕は【自動回避】が欲しい……」
痛いのはもう嫌だ。
サラマンダー70匹は倒したと思う。
ブブたんは1階から合計100匹以上倒してる。
「牙は5個だけ……はぁ……」
「あと10回挑戦すれば50個だ。行ける!」
ポジティブだな、エイジは。
僕はウンザリだよ。
まだ10回もここに来るのか……泣きそう。
読んでいただいて、ありがとうございました。




