第九十九話 灯火計画
世界は。
まだ死んでいなかった。
◇
灰雪は降る。
飢餓も続く。
疫病も消えていない。
◇
それでも。
人は、
生きようとしていた。
◇
だからこそ。
レイン・ヴァルト
は、
理解する。
◇
もう、
場当たり的な救援では足りない。
◇
必要なのは。
世界そのものを、
繋ぎ直すことだった。
◇
ドラクエラ中央会議所。
巨大地図が、
壁一面へ広げられている。
◇
旧国家境界線。
崩壊都市。
汚染地帯。
輸送路。
◇
だが。
レインが見ているのは、
国境じゃない。
◇
人の流れだった。
◇
「ここは生きてる」
◇
地図へ印を付ける。
◇
「農地が残ってる」
「水源もある」
「街道再建可能」
◇
さらに別地点。
◇
「ここは避難民が集中してる」
「中継都市化できる」
◇
ノア
が、
地図を覗き込む。
◇
「……国ごとに戻すんじゃないのか?」
◇
レインは首を振った。
◇
「もう無理だ」
◇
「国家単位じゃ、
広すぎる」
◇
「維持できない」
◇
静かな断言。
◇
かつての王国。
巨大国家。
中央集権。
◇
全部、
崩壊した。
◇
必要なのは、
もっと小さい単位。
◇
人が実際に、
生活できる範囲。
◇
生活圏。
◇
そこを繋ぎ続けること。
それが、
新しい文明になる。
◇
会議室中央へ、
新しい図面が置かれる。
◇
タイトル。
◇
《灯火計画》
◇
内容。
街道修復。
鉄道延伸。
中継都市群建設。
浄化炉設置。
物流網再編。
◇
一つ一つは小さい。
だが。
繋がれば、
人が生きられる。
◇
イヴァン
が、
腕を組む。
◇
「……世界再建って顔してねぇな」
◇
レインは、
少しだけ笑った。
◇
「再建じゃない」
◇
「維持だ」
◇
「生き残れる場所を、
増やす」
◇
その言葉に。
部屋が静かになる。
◇
誰も、
理想論だとは言わなかった。
◇
全員、
理解している。
◇
もう。
昔の世界には戻れない。
◇
だから。
新しい形で、
生きるしかない。
◇
数日後。
各地で工事が始まる。
◇
崩れた橋。
埋まった街道。
壊れた線路。
◇
技師達が動き。
労働隊が土を運び。
浄化炉へ火が灯る。
◇
夜。
レインは、
高台から工事現場を見下ろしていた。
◇
暗い世界。
その中で。
ぽつぽつと灯る光。
◇
作業灯。
駅灯。
避難所の火。
◇
まるで。
消えかけた文明の残り火みたいだった。
◇
それでも。
光は、
確かに存在している。
◇
レインは、
静かに呟く。
◇
「全部救えなくてもいい」
◇
「でも」
◇
「灯火は、
残せる」




