第百話 灰の子供達
子供が増えていた。
◇
だが。
産まれた訳じゃない。
◇
残されたのだ。
◇
戦争で。
疫病で。
飢饉で。
◇
親を失った子供達が、
世界中から流れ着いていた。
◇
ドラクエラ外縁区。
かつて倉庫だった建物が、
今は孤児施設になっている。
◇
中では。
子供達の声が響いていた。
◇
「違う!
そこ三だろ!」
「地図見ろって!」
◇
机代わりの木箱。
石板。
手書き地図。
◇
そこで教えているのは。
ノア
だった。
◇
「はい、
ここ」
「北へ行くなら?」
◇
小さな獣人の少女が、
恐る恐る答える。
◇
「……川沿い?」
◇
「正解」
◇
ノアが頷く。
◇
教えているのは、
普通の学問だけじゃない。
◇
読み書き。
計算。
地理。
避難経路。
保存食。
危険地帯。
浄水方法。
◇
つまり。
生き残るための知識だった。
◇
窓の外では、
灰雪が降っている。
◇
世界は壊れたままだ。
子供だけでは、
生きていけない。
◇
だから。
知識が必要だった。
◇
一人の少年が、
手を上げる。
◇
「先生」
「なんで、
こんなの覚えるの?」
◇
ノアは、
少しだけ考えた。
◇
昔の自分なら。
答えられなかったかもしれない。
◇
孤児だった。
腹を空かせて。
逃げ回って。
文字も読めなかった。
◇
でも。
レイン達に拾われ。
学んだ。
知った。
世界を覚えた。
◇
その結果。
今、
生きている。
◇
ノアは、
静かに答えた。
◇
「知識は、
奪われないからだ」
◇
教室が静かになる。
◇
「金は無くなる」
「家も燃える」
「国も壊れる」
◇
「でも、
覚えたことは残る」
◇
「だから、
生き残れる」
◇
その言葉は。
昔、
レインがノアへ教えたことでもあった。
◇
第二部。
雪の中。
文字を覚え始めた、
小さな獣人の少年。
◇
今度はその少年が。
誰かへ、
知識を渡している。
◇
授業後。
子供達が帰っていく。
◇
笑い声。
小さな喧嘩。
走る足音。
◇
壊れた世界でも。
子供達は、
ちゃんと生きていた。
◇
レイン・ヴァルト
は、
入口からその光景を見ていた。
◇
「先生、
板足りねぇぞ!」
◇
「地図もう一枚くれ!」
◇
ノアが、
慌ただしく走り回っている。
◇
その姿を見て。
レインは、
少しだけ目を細めた。
◇
世界は変わった。
国家は壊れた。
英雄の時代も終わった。
◇
それでも。
知識は残る。
人から人へ、
受け継がれる。
◇
文明とは。
結局、
そういうものなのかもしれなかった。




