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世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


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第九十八話 冬の街道

冬が。


 


 世界を殺しに来ていた。


 


     ◇


 


 灰雪。


 


 暴風。


 


 極寒。


 


     ◇


 


 かつての冬とは、

別物だった。


 


     ◇


 


 魔力循環崩壊後。


 


 気候は完全に狂っている。


 


     ◇


 


 昼でも氷点下。


 


 街道は凍結。


 


 吹雪は、

視界すら奪う。


 


     ◇


 


 そして。


 


 止まれば死ぬ。


 


     ◇


 


 北部輸送街道。


 


 灰燕輸送隊は、

猛吹雪の中を進んでいた。


 


     ◇


 


 馬車十七台。


 


 燃料。


 


 食料。


 


 薬品。


 


 防寒布。


 


     ◇


 


 積荷は、

全部“生存”だった。


 


     ◇


 


 先頭を歩くのは。


 


 

イヴァン


 


     ◇


 


 凍った外套。


 


 白く染まる髭。


 


 剣すら霜で軋んでいる。


 


     ◇


 


「止まるな!」


 


     ◇


 


 吹雪へ怒鳴る。


 


     ◇


 


「足を動かせ!」


 


「止まった奴から死ぬぞ!」


 


     ◇


 


 隊員達が、

歯を鳴らしながら進む。


 


     ◇


 


 寒い。


 


 痛い。


 


 感覚が消える。


 


     ◇


 


 だが。


 


 戻れない。


 


     ◇


 


 この輸送が止まれば。


 


 先の避難所が凍死する。


 


     ◇


 


 途中。


 


 一台の荷車が、

雪へ沈んだ。


 


     ◇


 


「車輪割れた!」


 


     ◇


 


 隊員が叫ぶ。


 


     ◇


 


 吹雪が強くなる。


 


 視界三歩。


 


     ◇


 


 イヴァンは、

即座に判断した。


 


     ◇


 


「燃料降ろせ!」


 


「荷重減らす!」


 


     ◇


 


「でも、

配給が――!」


 


     ◇


 


「死んだら全部届かねぇ!」


 


     ◇


 


 怒鳴り声。


 


 即座に作業開始。


 


     ◇


 


 指先の感覚は無い。


 


 手袋越しでも皮膚が裂ける。


 


     ◇


 


 それでも。


 


 誰も作業を止めない。


 


     ◇


 


 夜。


 


 臨時野営。


 


     ◇


 


 火が小さい。


 


 燃料不足。


 


     ◇


 


 一人の若い隊員が、

震えながら呟く。


 


     ◇


 


「……なんで、

ここまでして運ぶんすかね」


 


     ◇


 


 返事は、

すぐ来た。


 


     ◇


 


 イヴァンだった。


 


     ◇


 


「向こうで待ってる奴がいるからだ」


 


     ◇


 


「それだけだ」


 


     ◇


 


 単純な言葉。


 


 だが。


 


 それが全てだった。


 


     ◇


 


 翌朝。


 


 輸送隊は、

再出発する。


 


     ◇


 


 そして。


 


 目的地避難所へ到着した瞬間。


 


 人々が、

泣き崩れた。


 


     ◇


 


「来た……!」


 


「燃料だ!」


 


「助かった……!」


 


     ◇


 


 凍えた子供達。


 


 青い顔の老人。


 


 痩せた母親達。


 


     ◇


 


 彼らは。


 


 この輸送が無ければ、

死んでいた。


 


     ◇


 


 

レイン・ヴァルト

は、

後続隊と共に到着する。


 


     ◇


 


 積荷が降ろされる光景を見て。


 


 静かに理解する。


 


     ◇


 


 剣ではない。


 


 英雄でもない。


 


     ◇


 


 この世界を繋いでいるのは。


 


 凍った街道を、

進み続ける人間達だ。


 


     ◇


 


 物流とは。


 


 単なる輸送じゃない。


 


     ◇


 


 命綱だった。

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