表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/108

第九十七話 帰れない人々

 故郷は。


 


 残っていなかった。


 


     ◇


 


 戦争が終われば、

人は帰る。


 


 誰もが、

そう思っていた。


 


     ◇


 


 だが。


 


 帰る場所そのものが、

消えていた。


 


     ◇


 


 東部旧農村地帯。


 


 

レイン・ヴァルト

は、

難民輸送隊と共に現地へ来ていた。


 


     ◇


 


 元住民達を、

故郷へ戻すためだった。


 


     ◇


 


 馬車から降りた人々が、

前を見る。


 


     ◇


 


 そして。


 


 誰も動けなくなった。


 


     ◇


 


 村が無い。


 


     ◇


 


 家屋は焼失。


 


 井戸は崩落。


 


 畑は、

灰色の泥へ変わっている。


 


     ◇


 


 魔力汚染で、

地面が脈動していた。


 


     ◇


 


 異形植物。


 


 腐臭。


 


 灰霧。


 


     ◇


 


 もはや、

人が住める場所ではない。


 


     ◇


 


 一人の老人が、

呆然と呟く。


 


     ◇


 


「……ここが、

俺の村……?」


 


     ◇


 


 返事は無い。


 


     ◇


 


 子供が、

母親の服を引っ張る。


 


     ◇


 


「おうち、

どこ?」


 


     ◇


 


 母親は、

答えられない。


 


     ◇


 


 帰還不能区域。


 


     ◇


 


 世界中で、

同じ問題が起き始めていた。


 


     ◇


 


 焼失地帯。


 


 汚染区域。


 


 結界崩壊地域。


 


 魔獣発生域。


 


     ◇


 


 地図の上から、

“生活圏”が消えていく。


 


     ◇


 


 帰れない。


 


 戻れない。


 


 もう住めない。


 


     ◇


 


 それは。


 


 戦後難民の始まりだった。


 


     ◇


 


 仮設居住区。


 


 夜。


 


 焚き火の周囲に、

人々が座っている。


 


     ◇


 


 誰も、

故郷の話をしない。


 


     ◇


 


 話した瞬間。


 


 もう戻れない事実を、

認めることになるからだ。


 


     ◇


 


 

ノア

が、

配給帳簿を閉じながら小さく言う。


 


     ◇


 


「……みんな、

どこ行くんだろうな」


 


     ◇


 


 レインは、

少し黙る。


 


     ◇


 


 昔なら。


 


 国家が受け入れた。


 


 村が再建した。


 


 土地へ戻れた。


 


     ◇


 


 だが今。


 


 国家は壊れ。


 


 土地も死んでいる。


 


     ◇


 


 故郷という概念そのものが、

崩れ始めていた。


 


     ◇


 


 その時。


 


 一人の少女が、

レインへ尋ねる。


 


     ◇


 


「ねぇ」


 


「わたしたち、

どこへ帰ればいいの?」


 


     ◇


 


 幼い声。


 


     ◇


 


 だが。


 


 誰も答えられなかった問い。


 


     ◇


 


 レインは、

少女を見る。


 


     ◇


 


 汚れた外套。


 


 痩せた顔。


 


 それでも、

必死に不安を隠している。


 


     ◇


 


 彼は、

ゆっくり周囲を見回した。


 


     ◇


 


 仮設天幕。


 


 炊き出し。


 


 修理中の水道。


 


 臨時学校。


 


     ◇


 


 まだ、

不完全だ。


 


 故郷とは呼べない。


 


     ◇


 


 それでも。


 


 人が生きる場所には、

なっている。


 


     ◇


 


 レインは、

静かに答えた。


 


     ◇


 


「帰る場所が無いなら」


 


     ◇


 


「作るしかない」


 


     ◇


 


 少女は、

少しだけ目を丸くする。


 


     ◇


 


 遠くで、

輸送列車の汽笛が鳴った。


 


     ◇


 


 世界は壊れた。


 


 もう戻らない。


 


     ◇


 


 だから。


 


 人は、

新しい居場所を作るしかないのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ