第九十三話 戦後
戦争は。
終わった。
◇
正式な終戦宣言は、
静かに各地へ届けられた。
◇
黒灰軍主力壊滅。
大規模侵攻停止。
人類連合、
生存確認。
◇
紙の上では。
確かに、
戦争は終わっていた。
◇
だが。
誰も歓喜しなかった。
◇
鐘は鳴らない。
祝賀も無い。
勝利の歌も無い。
◇
人々には。
それを喜ぶ余力が、
残っていなかった。
◇
北部街道。
レイン・ヴァルト
は、
輸送列車の窓から外を見ていた。
◇
焼け野原。
◇
かつて村だった場所。
今は、
黒く焦げた骨組みしかない。
◇
井戸は埋まり。
畑は灰に覆われ。
家畜もいない。
◇
生活そのものが、
消えていた。
◇
駅跡には、
帰還兵達が座っている。
◇
痩せた顔。
包帯。
虚ろな目。
◇
誰も、
戦争の話をしない。
◇
生き残った。
ただそれだけ。
◇
一人の兵士が、
小さく呟く。
◇
「……帰ってきたのに」
◇
その先が続かない。
◇
帰る場所が、
無かった。
◇
列車は、
さらに南へ進む。
◇
別の村。
そこでは、
共同墓地が作られていた。
◇
簡素な木札。
名前すら無い墓も多い。
◇
老人が、
黙って土をかけている。
◇
隣には、
小さな子供。
◇
「お母さん、
帰ってくる?」
◇
老人は、
答えられない。
◇
戦争は終わった。
でも。
失った人は戻らない。
◇
夕方。
ドラクエラ臨時会議所。
◇
報告書が積まれている。
◇
「北部、
飢餓拡大」
「帰還民、
受け入れ超過」
「灰肺症患者増加」
◇
終戦直後なのに。
状況は悪化していた。
◇
ノア
が、
疲れた顔で言う。
◇
「……平和になったんじゃないのかよ」
◇
誰も、
すぐには答えない。
◇
セラフィナ
は、
医療記録を閉じる。
◇
「怪我は減った」
「でも、
病人は増えてる」
◇
静かな現実。
◇
戦争が終われば、
全部終わる訳じゃない。
◇
むしろ。
本当に苦しいのは、
ここからだった。
◇
夜。
レインは、
外縁高台へ立っていた。
◇
遠くに見える灯り。
避難所。
炊き出し。
修理工房。
◇
人はまだ生きている。
だが。
生活は壊れたままだ。
◇
その時。
遠くで、
汽笛が鳴った。
◇
輸送列車。
終戦後も、
止まらず走り続けている。
◇
レインは、
灰空を見上げる。
◇
そして。
ようやく理解する。
◇
戦争が終わっても。
生活は戻らない。
◇
終戦は、
終わりじゃない。
◇
始まりなのだ。
壊れた世界を、
もう一度生かすための。




