第九十二話 灰燕
灰は。
今日も降っていた。
◇
空は灰色。
大地も灰色。
遠くの山脈すら、
霞んで見える。
◇
世界は、
傷付いたままだ。
◇
空間障害。
魔力汚染。
崩壊した国家。
失われた農地。
◇
昔の世界には、
もう戻れない。
◇
それでも。
街道には、
音があった。
◇
鉄道の汽笛。
馬車の車輪。
人の声。
◇
灰燕輸送列。
今日も、
世界を横断している。
◇
北部行き列車。
荷台には。
穀物。
薬品。
浄化材。
毛布。
◇
兵器ではない。
生活そのものだった。
◇
駅では。
炊き出しが行われている。
◇
大鍋から、
湯気が立つ。
子供達が列を作る。
疲れた母親達が、
静かに頭を下げる。
◇
「ありがとう……」
◇
その言葉へ。
灰燕職員は、
慣れた様子で頷くだけだった。
◇
特別な事じゃない。
必要だからやっている。
◇
外縁工房区。
技師達が、
壊れた結界装置を修理していた。
◇
火花。
鉄槌音。
怒鳴り声。
◇
「出力管持ってこい!」
「そこ固定しろ!」
◇
誰も諦めていない。
◇
畑では。
農夫達が、
灰を払いながら土を耕している。
◇
学校では。
ノア
が、
子供達へ文字を教えていた。
◇
「読めれば、
騙されにくくなる」
「地図も見れる」
「仕事も増える」
◇
子供達が、
真剣に黒板を見る。
◇
知識が残る。
技術が残る。
人が残る。
◇
だから。
文明も残る。
◇
夕方。
レイン・ヴァルト
は、
高架鉄道の上に立っていた。
◇
灰空の下。
輸送列が走る。
無数の灯りが、
街道を繋いでいる。
◇
かつて。
彼は、
勇者に憧れた。
◇
世界を救う存在。
悪を倒す英雄。
◇
だが。
現実は違った。
◇
世界は、
一人じゃ救えない。
剣だけじゃ守れない。
◇
必要だったのは。
運ぶこと。
繋ぐこと。
支えること。
◇
壊れた後でも。
人が生き続けられるようにすること。
◇
遠くで。
汽笛が鳴る。
◇
輸送列車が、
灰の中を進んでいく。
◇
止まらない。
世界が壊れても。
空が燃えても。
◇
それでも。
人は、
前へ進む。
◇
レインは、
灰色の空を見上げた。
◇
静かに。
だが確かに、
言葉を落とす。
◇
「滅びない世界じゃなくていい」
◇
「それでも」
◇
「人が生き続けられるなら」




