第八十八話 聖剣解放
空が。
裂けた。
◇
世界規模決戦。
人類連合軍、
最終防衛線。
◇
灰色の大地。
燃える都市。
崩壊した結界。
◇
黒灰軍主力が、
押し寄せていた。
◇
空を埋める魔導艦。
大地を覆う軍勢。
終わりの見えない侵攻。
◇
人類側防衛線は、
既に限界だった。
◇
「第三防壁突破!」
「西部戦線壊滅!」
「結界出力低下止まりません!」
◇
通信が飛び交う。
悲鳴。
怒号。
爆発。
◇
レイン・ヴァルト
は、
後方補給司令車で地図を見ていた。
◇
赤い印が、
止まらない。
防衛線が崩れていく。
◇
もう。
維持できない。
◇
その時だった。
◇
前線全域へ、
巨大な魔力反応が走る。
◇
空気が震える。
大地が軋む。
◇
誰もが、
空を見上げた。
◇
そこにいた。
◇
ザイン
。
◇
灰色の空の下。
傷だらけの勇者。
痩せた体。
血の滲む包帯。
◇
もう、
神々しい存在ではない。
◇
壊れかけた人間。
それでも。
立っている。
◇
ザインは、
静かに聖剣を抜いた。
◇
瞬間。
世界が、
発光する。
◇
白。
圧倒的な白。
◇
空間そのものが、
軋み始める。
◇
「……まずい」
レインが呟く。
◇
理解してしまった。
◇
これは。
人間が扱っていい力じゃない。
◇
ザインの周囲で、
魔力嵐が発生する。
◇
暴風。
雷光。
空間振動。
◇
大地が浮き上がる。
岩盤が砕ける。
◇
そして。
勇者は、
剣を振り下ろした。
◇
次の瞬間。
空が割れた。
◇
――空裂断。
◇
巨大な白閃が、
大陸を横断する。
◇
黒灰軍主力。
魔導艦隊。
要塞。
全部。
光の中へ消える。
◇
遅れて。
衝撃波が来た。
◇
山脈崩壊。
森林消失。
雲蒸発。
◇
世界そのものが、
悲鳴を上げる。
◇
人類軍も、
立っていられない。
結界塔が砕ける。
都市窓硝子が一斉に割れる。
◇
そして。
空。
◇
灰色だった空が。
今度は。
白く焼けた。
◇
誰も声を出せない。
◇
ただ。
巨大すぎる破壊だけが、
そこに残る。
◇
数分後。
黒灰軍側戦線。
壊滅。
◇
魔力反応、
ほぼ消失。
軍勢消滅。
◇
確かに。
勇者は、
敵を滅ぼした。
◇
だが。
同時に。
世界も傷付けた。
◇
空から、
灰が降り始める。
◇
いや。
灰ではない。
焼けた魔力粒子。
◇
空間そのものの残骸。
◇
セラフィナ
が、
震える声で呟く。
◇
「こんなの……
治せない……」
◇
自然が壊れていた。
土地が死んでいた。
風まで歪んでいる。
◇
そして。
戦場中央。
ザインが、
膝をつく。
◇
聖剣は、
ひび割れていた。
◇
勇者の体も。
限界を超えている。
◇
レインは、
崩壊した空を見上げる。
◇
勝利。
だったのかもしれない。
◇
だが。
代価が大きすぎた。
◇
世界は。
もう。
元には戻らない。




