第八十七話 勇者再起
勇者は。
もう、
神話ではなかった。
◇
かつて。
ザイン
は、
希望だった。
◇
聖剣を掲げ。
魔物を斬り。
民衆を救う。
◇
誰もが信じた。
この男が、
世界を救うのだと。
◇
だが。
現実は違った。
◇
王都崩壊。
遠征軍壊滅。
飢餓。
難民。
灰色の空。
◇
勇者一人では、
何も止められなかった。
◇
そして。
その事実が、
ザイン自身を壊した。
◇
ドラクエラ外縁。
静かな療養区画。
◇
ザインは、
窓際へ座っていた。
◇
痩せ細った体。
伸びた髪。
包帯だらけの腕。
◇
かつての輝きは、
もう薄い。
◇
ただ。
疲れ切った人間がいるだけだった。
◇
扉が開く。
レイン・ヴァルト
が入る。
◇
「調子は」
◇
ザインは、
少し笑った。
◇
「最悪だ」
◇
乾いた声。
◇
以前のような。
熱も。
理想も。
もう無い。
◇
しばらく沈黙。
◇
窓の外では。
避難民の列車が、
静かに到着している。
◇
ザインが、
その光景を見つめる。
◇
「……見たよ」
◇
「全部」
◇
王都。
飢餓。
死体。
崩壊した国家。
◇
「俺は、
何も救えなかった」
◇
その言葉に。
英雄の響きは無い。
◇
ただ。
現実を知ってしまった男の声。
◇
レインは、
否定しない。
◇
綺麗事では、
もう届かない場所まで来ている。
◇
ザインは、
ゆっくり聖剣へ視線を落とす。
◇
布に包まれた剣。
かつて世界を熱狂させた象徴。
◇
だが今は。
それを見ても、
誰も歓声を上げない。
◇
英雄の時代が、
終わったからだ。
◇
「怖いんだ」
ザインが呟く。
◇
「また振れば、
また壊れる気がする」
◇
聖剣の力。
あまりに巨大すぎる力。
◇
敵だけじゃない。
世界そのものまで、
傷付け始めている。
◇
だから。
彼は止まっていた。
◇
その時。
遠くで子供達の声が聞こえる。
◇
笑い声。
走る音。
◇
ザインは、
静かに目を閉じた。
◇
「……でも」
◇
「まだ、
残ってる」
◇
帰れる場所。
生き残った人達。
支え続ける人間達。
◇
レイン達が、
守り続けたもの。
◇
ザインは、
ゆっくり立ち上がる。
◇
足はまだ不安定。
体も壊れかけている。
◇
それでも。
彼は聖剣を掴んだ。
◇
英雄としてではない。
救世主としてでもない。
◇
ただ。
壊れた一人の人間として。
◇
ザインは、
静かに言った。
◇
「もう一度だけ戦う」
◇
その言葉には。
昔みたいな輝きは無い。
◇
だが。
空虚でもなかった。
◇
絶望を見た上で。
それでも立ち上がる意思。
◇
それだけが。
今の勇者に、
残された本物だった。




