第八十五話 王都陥落
王都は。
静かに終わった。
◇
英雄的な最終決戦は無い。
壮絶な玉砕も無い。
城門突破も。
王の演説も。
存在しなかった。
◇
ただ。
維持できなくなった。
◇
それだけだった。
◇
最初に止まったのは、
配給だった。
◇
「本日分終了!」
「もう残ってない!」
◇
怒号。
罵声。
殴り合い。
◇
だが。
倉庫は空。
どうしようもない。
◇
次に。
兵士達が消えた。
◇
逃亡。
脱走。
武器放棄。
◇
守る理由が、
もう無かった。
◇
その頃には。
宮殿も機能停止している。
◇
王族不在。
命令系統消滅。
官僚逃亡。
◇
残された書類だけが、
風に舞っていた。
◇
レイン・ヴァルト
は、
王都中央通りを歩いていた。
◇
死体。
空家。
崩れた露店。
◇
略奪すら減っている。
もう、
奪う物が無いからだ。
◇
一人の老人が、
壁際で呟く。
◇
「腹……減った……」
◇
その声には。
怒りすら無かった。
◇
限界を越えた人間は、
静かになる。
◇
遠くで鐘が鳴る。
避難鐘。
◇
だが。
逃げる場所も、
もう無い。
◇
ノア
が、
崩れた王城を見る。
◇
「これが……
王都なのか……?」
◇
昔の面影は、
ほとんど残っていない。
◇
世界最大の都市。
人類文明の象徴。
◇
その終わりが。
こんなにも、
みじめだった。
◇
その時。
外壁方向から、
ざわめきが広がる。
◇
「黒灰軍だ……」
◇
「来た……」
◇
だが。
誰も戦わない。
◇
城門には、
ほとんど兵がいない。
武器も不足。
結界も停止。
◇
防衛機能そのものが、
既に死んでいた。
◇
やがて。
巨大な門が、
ゆっくり開く。
◇
抵抗ではない。
放棄だった。
◇
黒灰軍は、
静かに進軍する。
整列。
統率。
無駄な略奪無し。
◇
逆に。
その規律が恐ろしい。
◇
イヴァン
が、
低く呟く。
◇
「……戦ってすらねぇ」
◇
そう。
王都は、
戦って負けたわけじゃない。
◇
維持できなくなった。
◇
それだけだった。
◇
食料。
輸送。
統治。
衛生。
信頼。
◇
全部が壊れた時。
国家は、
自然に死ぬ。
◇
その夕方。
王城最上部から。
レグナス王国旗が降ろされる。
◇
風に揺れながら。
静かに落ちていく。
◇
誰も歓声を上げない。
誰も泣かない。
◇
もう。
感情すら、
尽き果てていた。
◇
レインは、
灰色の空を見上げる。
◇
理解してしまう。
◇
国家とは。
理念ではない。
王でもない。
◇
維持そのものだ。
◇
それが止まった瞬間。
どれほど巨大な国でも、
終わる。
◇
こうして。
レグナス王国は。
事実上、
崩壊した。




