第八十四話 最後の王都
王都は。
まだ存在していた。
◇
だが。
もう、
国ではなかった。
◇
レグナス王都。
かつて人類最大を誇った首都。
◇
今は。
巨大な飢餓都市だった。
◇
黒灰軍、
外周包囲完了。
街道封鎖。
物流停止。
◇
都市は、
ゆっくり窒息していた。
◇
レイン・ヴァルト
は、
外縁丘陵から王都を見下ろしていた。
◇
灰色の空。
崩れた外壁。
煙。
沈黙。
◇
かつて。
世界の中心だった場所。
◇
だが今は。
死にかけている。
◇
城門前。
避難希望民が群がっていた。
◇
「外へ出せ!」
「子供だけでも!」
◇
泣き叫ぶ声。
怒号。
押し合い。
◇
だが。
門兵達も限界だった。
◇
「出したら食料が減る!」
「都市が保たない!」
◇
誰も正しくない。
誰も間違いきれない。
◇
市街地へ入る。
そこに広がっていたのは。
“終末の生活”だった。
◇
市場。
だが商品が無い。
◇
腐りかけの根菜。
黒パンの欠片。
汚れた水。
◇
値段だけが異常に高い。
◇
一人の母親が、
干し芋一枚を握りしめている。
その隣で。
子供が倒れていた。
◇
宮殿区画。
◇
豪奢な白亜宮殿。
だが。
人がいない。
◇
廊下は静か。
使用人も消え。
灯りも少ない。
◇
まるで。
王国そのものが、
既に逃げ出しているみたいだった。
◇
ノア
が、
小さく呟く。
◇
「……空っぽだな」
◇
レインは、
否定できない。
◇
王都にはまだ人がいる。
だが。
国家機能はもう無い。
◇
税も。
軍も。
統治も。
全部、
崩壊済みだった。
◇
残っているのは。
飢えた市民だけ。
◇
灰燕臨時司令所。
そこで、
緊急会議が開かれる。
◇
「王都へ大規模支援を送るべきです!」
「まだ数十万人いる!」
◇
「無理だ!」
「補給路が持たない!」
「他都市まで死ぬ!」
◇
怒鳴り合い。
◇
誰も答えを持っていない。
◇
王都を救えば。
他が死ぬ。
他を優先すれば。
王都が死ぬ。
◇
第十二話。
あの問いが、
また戻ってくる。
◇
“全部は救えない”
◇
セラフィナ
が、
静かに言う。
◇
「まだ、
助けられる人はいる」
◇
その声は震えていた。
だが。
諦めてはいない。
◇
イヴァン
は、
険しい顔で地図を見る。
◇
「でも、
ここに固執したら」
「灰燕ごと沈む」
◇
沈黙。
◇
レインは、
窓の外を見る。
◇
崩壊した市場。
飢えた民。
灰色の空。
◇
ここは。
かつて、
世界の中心だった。
◇
だが今は。
巨大な墓場へ変わりつつある。
◇
救援か。
撤退か。
◇
その選択が。
ついに。
彼の前へ突き付けられていた。




