第七十九話 灰燕鉄道隊
馬車では、
もう間に合わなかった。
◇
食料。
薬。
避難民。
燃料。
◇
世界が壊れる速度に。
従来の輸送能力が、
追いつかない。
◇
灰燕本部。
巨大地図の前で。
レイン・ヴァルト
は、
輸送報告を見ていた。
◇
「北方輸送、
往復十八日」
「その間に配給都市二つ崩壊」
◇
「馬が足りねぇ!」
「飼料も限界だ!」
◇
怒号が飛ぶ。
◇
限界だった。
◇
戦線が広すぎる。
避難民が多すぎる。
輸送量が、
戦前の数十倍になっている。
◇
その時。
レインは、
地図の一点を見る。
◇
古い線。
灰色で消えかけた印。
◇
旧魔導鉄道。
◇
戦前。
王国全土を繋いでいた、
巨大輸送網。
だが今は。
大半が放棄され、
崩壊していた。
◇
レインは、
静かに言った。
「鉄道を復活させる」
◇
全員が止まる。
◇
「……は?」
◇
「今さらか?」
「線路なんて半分吹き飛んでるぞ」
「魔力炉も無ぇ」
◇
当然の反応だった。
◇
魔導鉄道は、
国家事業。
維持費が莫大。
平時ですら困難だった。
◇
今は戦争中。
普通なら不可能。
◇
だが。
レインは断言する。
◇
「馬車輸送だけじゃ、
世界が先に死ぬ」
◇
「なら、
無理でもやるしかない」
◇
沈黙。
◇
その翌日。
灰燕は、
旧鉄道区画へ調査隊を送った。
◇
そして。
現実を見る。
◇
崩落した橋。
錆びた線路。
魔物の巣。
破壊された駅舎。
◇
文明の死骸だった。
◇
イヴァン
が、
瓦礫を蹴る。
「こりゃ酷ぇな……」
◇
だが。
そこで待っていた者達がいる。
◇
油まみれの作業服。
煤けた顔。
工具箱。
◇
旧鉄道技師団。
◇
国家崩壊後も。
線路だけは見捨てなかった連中。
◇
先頭の老人が、
レインを見る。
◇
「……本当に、
鉄道を動かす気か?」
◇
レインは頷く。
◇
「必要だ」
◇
「人を運ぶ」
「都市を繋ぐ」
「世界を維持する」
◇
「今、
一番必要なのは速度だ」
◇
老人技師は、
しばらく黙る。
◇
それから。
笑った。
◇
「いい目してる」
◇
「じゃあやるか、
文明の延命を」
◇
その日から。
灰燕鉄道隊が発足した。
◇
工兵。
鍛冶師。
魔導技師。
護衛兵。
避難民。
◇
全員で、
線路を掘り返す。
◇
魔物を排除。
橋を修理。
砕けたレールを繋ぐ。
◇
昼夜関係無く。
作業は続いた。
◇
その途中。
最大問題が発覚する。
◇
魔力炉不足。
◇
列車を動かす心臓部。
それが圧倒的に足りない。
◇
「王都製造区、
既に壊滅」
「新品供給は不可能だ」
◇
技師達が絶望する。
◇
だが。
レインは即答した。
◇
「壊れた炉を全部集めろ」
「修理する」
◇
「動けばいい」
◇
完全じゃなくていい。
綺麗じゃなくていい。
◇
生き残るためなら、
繋ぎ合わせればいい。
◇
その思想が。
今の世界そのものだった。
◇
数週間後。
ついに。
一本の線路が繋がる。
◇
ボロボロの魔導列車。
煙を吐く車体。
軋む鉄輪。
◇
だが。
動いた。
◇
轟音と共に。
列車が進む。
◇
避難民達が、
呆然と見る。
子供達が歓声を上げる。
◇
文明が。
再び動き出した瞬間だった。
◇
レインは、
走り去る列車を見る。
◇
戦争は、
世界を壊す。
◇
だが同時に。
人間は。
壊れながら、
新しい方法を作り出す。
◇
文明は。
滅びるだけじゃない。
◇
生き残るために、
進化する。




