第七十八話 壊れる国家
国家が死ぬ時。
それは。
城が落ちる瞬間ではない。
◇
もっと静かに。
もっと現実的に。
壊れていく。
◇
まず。
税が止まった。
◇
徴税官が来ない。
来ても、
払える者がいない。
農地は焼け。
商路は途絶え。
金貨そのものが、
意味を失い始める。
◇
次に。
軍が割れた。
◇
中央軍。
地方軍。
貴族私兵。
全部が別行動。
◇
命令系統は崩壊。
補給奪い合い。
都市防衛放棄。
◇
そして。
王族が逃げた。
◇
東方王国ルーヴェ。
王都陥落前夜。
王族専用列車だけが、
真っ先に出発した。
◇
残された市民は、
城門前で暴徒化。
兵士達は命令を拒否。
地方領主は独立宣言。
◇
国が。
終わった。
◇
レイン・ヴァルト
は、
各地報告書を読み続けていた。
◇
「南部連合、
中央徴税停止」
「西方三都市、
自治同盟成立」
「北方貴族軍、
王命拒否」
◇
紙の上で。
世界地図が、
崩れていく。
◇
ノア
が、
不安そうに聞いた。
◇
「国って……
無くなるのか?」
◇
レインは、
少し考える。
◇
「無くなる」
◇
「人が維持できなくなれば、
何でも壊れる」
◇
ノアが黙る。
◇
レインは、
窓の外を見る。
◇
街道。
輸送列。
避難民。
修理班。
◇
国旗は減っていた。
代わりに増えているものがある。
◇
灰燕の旗。
◇
輸送拠点。
共同倉庫。
避難都市。
診療所。
◇
全部、
灰燕経由で繋がっていた。
◇
イヴァン
が、
笑う。
「笑えるよな」
「国は潰れてんのに、
うちは忙しくなってる」
◇
事実だった。
◇
灰燕は、
戦争が激化するほど拡大している。
◇
理由は単純。
◇
生きるのに必要だから。
◇
国が消えても。
人は食べる。
怪我をする。
逃げる。
眠る。
◇
だから。
物流は消えない。
◇
レインは、
ようやく理解し始めていた。
◇
国家は、
絶対じゃない。
◇
王も。
貴族も。
法律も。
全部。
維持できなければ消える。
◇
だが。
人の生活だけは、
最後まで残る。
◇
だから。
世界は、
そこから再構築される。
◇
国ではなく。
街から。
共同体から。
生き残った人間達から。
◇
その夜。
レインは、
崩れた世界地図を前に座っていた。
◇
国境線が、
意味を失っていく。
◇
代わりに。
補給線だけが、
世界を繋いでいた。
◇
国家は永遠じゃない。
◇
だが。
人は、
それでも生き続ける。




