第七十七話 補給都市
戦争が長引くほど。
前線より先に、
後方が変わり始める。
◇
国家は遅い。
だが。
飢えは待ってくれない。
◇
だから人は。
自分達で生き残り始める。
◇
北方中継都市、
ラグナベル。
かつては、
ただの街道宿場町だった。
◇
今は違う。
難民五万人。
輸送隊百二十列。
臨時診療所十三棟。
◇
巨大補給都市へ変わっていた。
◇
レイン・ヴァルト
は、
都市中央の仮設司令所で地図を見ていた。
◇
「東倉庫、
食料回転率低下」
「南区、
薪不足」
「医療区画、
感染症増加傾向」
◇
報告が飛び交う。
◇
ここはもう。
普通の都市じゃない。
◇
“維持装置”だった。
◇
レインは、
巨大地図へ印を打つ。
「第四街区を宿舎化」
「共同炊事場を増設」
「北側空き地へ燃料集積所」
◇
「あと、
食料配給を地区別循環へ切り替える」
◇
補給官が驚く。
「循環?」
◇
「一箇所集中だと崩れる」
レインは即答する。
「奪い合いも起きる」
「流れを分散しろ」
◇
食料。
燃料。
水。
薬。
◇
全部、
循環させる。
◇
都市そのものを、
一つの生き物みたいに動かす。
◇
それが今。
生き残る条件だった。
◇
外へ出る。
街の景色が変わっていた。
◇
広場では、
共同炊き出し。
寺院跡地は診療所。
貴族屋敷は難民宿舎。
◇
商人。
鍛冶師。
避難民。
元兵士。
全員が働いている。
◇
そこへ。
一人の地方官が、
疲れた顔で近付いてきた。
◇
「王都から通達が……」
「税徴収強化を優先しろと」
◇
周囲の空気が冷える。
◇
今さら。
そんなものを守れる状況じゃない。
◇
レインは、
短く言った。
「無視しろ」
◇
地方官が固まる。
「し、しかし……王命です」
◇
「王命で腹は膨れない」
◇
静かな声。
だが。
絶対に揺れない。
◇
「今優先するのは、
ここで生きてる人間だ」
◇
地方官は、
何も言えなくなる。
◇
もう始まっていた。
国家の時代の終わりが。
◇
王都は遠い。
命令も遅い。
助けも来ない。
◇
だから。
地域が、
自分達で回り始める。
◇
共同倉庫。
共同医療。
共同防衛。
共同輸送。
◇
国家ではなく。
街が、
生きようとしていた。
◇
イヴァン
が、
街道側を見ながら呟く。
「もう、
国じゃねぇな」
◇
レインも、
同じ景色を見る。
◇
そこには。
王旗より。
灰燕の旗の方が多かった。
◇
理由は単純だった。
あの旗は。
食料を運ぶ。
薬を運ぶ。
人を生かす。
◇
だから人は、
そちらを信じる。
◇
レインは、
静かに理解する。
◇
国家より先に。
都市が、
新しい世界を始めている。




