表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/120

第七十五話 開戦

 戦争が始まった。


 


 今度は。


 


 世界規模で。


 


     ◇


 


 停戦崩壊から五日。


 


 黒灰軍は、

全戦線で同時侵攻を開始した。


 


     ◇


 


 北方要塞陥落。


 


 東部街道遮断。


 


 西方国境突破。


 


     ◇


 


 各地から、

崩壊報告が届き続ける。


 


     ◇


 


 灰燕本部。


 


 巨大地図の前で。


 


 

レイン・ヴァルト

は、

黙って報告書を読んでいた。


 


     ◇


 


「第三輸送拠点、

難民流入限界突破!」


 


「南部備蓄都市、

食料不足発生!」


 


「巡回診療隊、

薬品不足!」


 


     ◇


 


 怒号のように、

情報が飛び交う。


 


     ◇


 


 戦争。


 


 だが。


 


 ここには剣戟の音は無い。


 


 代わりにあるのは。


 


 帳簿。


 


 輸送表。


 


 被害報告。


 


 配給計算。


 


     ◇


 


 

イヴァン

が、

乱暴に机へ地図を広げた。


 


「前線連中、

また輸送列優先奪取始めやがった」


 


     ◇


 


「軍が食料抱え込んでる」


 


「難民側へ回ってねぇ」


 


     ◇


 


 レインは即座に答える。


 


「南部線を切り替える」


 


「民間倉庫経由で流せ」


 


「軍許可待つな」


 


     ◇


 


「了解」


 


     ◇


 


 イヴァンが走る。


 


     ◇


 


 止まる暇が無い。


 


     ◇


 


 その時。


 


 一人の若い兵士が、

本部へ怒鳴り込んできた。


 


     ◇


 


「何で後方ばっか守ってんだ!」


 


「前線が落ちたら全部終わりだろ!」


 


     ◇


 


 部屋の空気が止まる。


 


     ◇


 


 兵士は興奮していた。


 


 疲労。


 


 恐怖。


 


 焦燥。


 


     ◇


 


「兵が死んでるんだぞ!」


 


「なのにあんたら、

荷物ばっか見て――」


 


「違う」


 


     ◇


 


 レインが遮った。


 


     ◇


 


 静かな声だった。


 


 だが。


 


 部屋全体が止まる。


 


     ◇


 


 レインは、

地図を見る。


 


 前線。


 


 後方都市。


 


 難民街。


 


 補給線。


 


     ◇


 


「前線は、

まだ戦える」


 


     ◇


 


「本当に先に死ぬのは、

後方だ」


 


     ◇


 


 兵士が黙る。


 


     ◇


 


 レインは続ける。


 


「水が止まる」


 


「食料が尽きる」


 


「薬が切れる」


 


「避難先が無くなる」


 


     ◇


 


「そうなった瞬間、

都市は終わる」


 


     ◇


 


 王都で見た。


 


 ドラクエラでも見た。


 


     ◇


 


 都市は。


 


 敵軍より先に、

維持崩壊で死ぬ。


 


     ◇


 


「戦争ってのはな」


 


 レインが低く言う。


 


     ◇


 


「前線だけでやってるわけじゃない」


 


     ◇


 


「運ぶ奴がいる」


 


「治す奴がいる」


 


「修理する奴がいる」


 


「逃がす奴がいる」


 


     ◇


 


「そいつらが止まった時、

国が死ぬ」


 


     ◇


 


 沈黙。


 


     ◇


 


 若い兵士は、

何も言えなくなる。


 


     ◇


 


 その時。


 


 新たな報告が飛び込む。


 


     ◇


 


「北部避難街道、

難民五千追加!」


 


「輸送能力超過!」


 


     ◇


 


 レインは即座に指示する。


 


「第七倉庫開放」


 


「孤児院区画拡張」


 


「巡回医療班追加」


 


「鉄道資材、

避難車両へ転用!」


 


     ◇


 


 全員が動く。


 


     ◇


 


 剣ではない。


 


 だが。


 


 ここも戦場だった。


 


     ◇


 


 窓の外。


 


 灰空の下。


 


 無数の荷車が動いている。


 


 食料。


 


 薬。


 


 毛布。


 


 人。


 


     ◇


 


 文明そのものが、

運ばれていた。


 


     ◇


 


 レインは、

静かに空を見る。


 


     ◇


 


 英雄は前線に立つ。


 


 だが。


 


 世界を支えるのは、

後方だ。


 


     ◇


 


 それを。


 


 彼だけは、

知っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ