第七十四話 敵
雪が降っていた。
◇
白。
そして灰。
◇
空から落ちる雪は、
戦場の煙に汚れている。
灰雪。
◇
街道は泥濘み。
踏み潰された轍が、
延々と続いていた。
◇
レイン・ヴァルト
は、
その街道を一人で歩いていた。
◇
左側。
黒灰軍輸送列。
整然。
沈黙。
規律。
◇
兵士達は無駄話をしない。
荷車は一定速度。
負傷者搬送も、
狂いなく続く。
◇
維持されている。
冷たく。
正確に。
◇
右側。
人類側撤退路。
壊れた荷車。
略奪。
怒鳴り声。
飢え。
◇
兵士達は疲弊し。
住民達は怯え。
補給隊は混乱している。
◇
崩れている。
感情のままに。
◇
レインは、
両方を見る。
◇
どちらも知っている。
◇
黒灰圏には、
秩序があった。
飢餓が少なかった。
維持能力があった。
◇
だが。
息苦しかった。
余白が無かった。
笑顔が少なかった。
◇
人類側には、
自由があった。
欲望があった。
希望があった。
◇
そして。
腐敗し。
奪い合い。
壊れた。
◇
風が吹く。
灰雪が舞う。
◇
イヴァン
が後ろから来る。
「……考え込んでんな」
◇
レインは、
少しだけ笑った。
「答えが出なくてな」
◇
「敵って何だろうなって」
◇
イヴァンは、
しばらく黙る。
それから。
遠くの黒灰軍を見る。
◇
「少なくとも、
あいつらは真面目に生き残ろうとはしてる」
◇
「俺達より上手くな」
◇
否定できない。
◇
レインは、
ゆっくり空を見る。
◇
昔は単純だった。
魔王軍は悪。
勇者は正義。
倒せば終わる。
◇
そう信じられた。
◇
だが。
現実は違った。
◇
人類も壊れていた。
黒灰軍にも秩序があった。
◇
善悪だけでは、
世界は説明できない。
◇
レインは、
ようやく理解する。
◇
敵だから悪なのではない。
◇
ただ。
生き残り方が違うだけだ。
◇
遠くで。
角笛が鳴る。
◇
黒灰軍が前進する。
人類側が迎撃準備を始める。
◇
停戦は終わった。
戦争が再開する。
◇
雪が降る。
灰が混じる。
空は暗い。
◇
それでも。
人は進む。
壊れながら。
間違えながら。
生き残るために。
◇
レインは、
白と灰に染まる街道を見つめた。
◇
「正しさだけでは、」
◇
「人は生き残れない」




