第七十三話 全面戦争
停戦崩壊から。
三日後。
◇
戦線全域で、
黒灰軍が進軍を開始した。
◇
だが。
それは、
レインが知る“侵略”とは違っていた。
◇
村が燃えない。
略奪が少ない。
無秩序な虐殺も無い。
◇
代わりに。
街道が即座に確保される。
配給所が接収される。
住民登録が始まる。
◇
侵攻なのに。
まるで行政移行だった。
◇
レイン・ヴァルト
は、
丘の上から進軍を見ていた。
◇
黒灰軍輸送列。
一定間隔。
整然とした荷車。
護衛配置。
後方補給。
◇
狂いが無い。
◇
イヴァン
が、
低く呟く。
「……軍ってより、
都市運営だな」
◇
本当にそうだった。
◇
黒灰軍は。
ただ攻めているんじゃない。
占領後の維持まで、
最初から組み込んでいる。
◇
村へ到着した部隊が。
まず行ったのは。
井戸管理。
食料在庫確認。
配給線設定。
◇
住民達は、
恐怖している。
だが。
黒灰兵は必要以上に暴れない。
◇
「登録しろ」
「配給証を発行する」
「夜間外出は禁止」
◇
事務的。
機械みたいに。
◇
ノア
が、
顔を青くする。
「怖ぇ……」
◇
「静かすぎる」
◇
レインも同感だった。
◇
普通の侵略軍なら。
もっと混乱する。
兵士は略奪する。
酒を漁る。
女を追う。
統制が崩れる。
◇
だが。
黒灰軍は違う。
◇
感情より、
維持を優先している。
◇
だから逆に恐ろしい。
◇
一方。
人類側戦線。
◇
そこは地獄だった。
◇
撤退命令が届かない。
補給が止まる。
貴族軍が独自行動。
街道封鎖。
物資横流し。
◇
さらに。
難民が溢れる。
兵士が逃げる。
住民が略奪を始める。
◇
統制が無い。
◇
王都崩壊と、
同じだった。
◇
レインは、
崩れた関所を見る。
人類兵同士が、
食料を奪い合っていた。
◇
敵が来る前に。
自分達で壊れている。
◇
その光景に。
胸が重くなる。
◇
第四部を通して、
レインは見てきた。
人類国家。
黒灰圏。
自由。
管理。
◇
そして今。
結論が、
戦場へ現れている。
◇
黒灰軍は、
冷たい。
管理的だ。
息苦しい。
◇
だが。
維持できる。
◇
人類側は、
自由だった。
感情があった。
欲望も希望もあった。
◇
そして。
崩壊した。
◇
遠くで。
黒灰軍の旗が、
ゆっくり上がる。
灰色の旗。
風も無いのに。
不気味なくらい真っ直ぐだった。
◇
レインは、
その旗を見ながら思う。
◇
敵は本当に悪か。
◇
もう。
簡単には答えられなかった。




