第七十二話 破談
停戦協定調印式当日。
◇
空は曇っていた。
重い灰雲。
雪の気配。
◇
会議場には、
異様な静けさが漂っている。
誰もが理解していた。
◇
今日で、
決まる。
◇
戦争継続か。
停戦か。
◇
レイン・ヴァルト
は、
署名用文書を見つめていた。
あと少しだった。
本当に。
◇
街道中立化。
難民輸送。
配給保護。
◇
完全な平和ではない。
だが。
人が生き残るための線は、
作れたはずだった。
◇
その瞬間。
◇
爆発音。
◇
世界が揺れた。
◇
窓ガラスが砕ける。
悲鳴。
机が倒れる。
◇
「敵襲!!」
◇
護衛兵が叫ぶ。
次の瞬間。
会議場外で炎が上がった。
◇
武装集団。
人類側の紋章。
◇
「魔王軍を殺せ!」
「停戦反対!」
「裏切り者を処刑しろ!」
◇
怒号。
矢。
魔導火炎。
◇
完全な襲撃だった。
◇
イヴァン
が、
即座にレインを引く。
「伏せろ!」
◇
机が吹き飛ぶ。
記録官が倒れる。
血。
煙。
◇
護衛達が剣を抜く。
黒灰兵も動く。
◇
そして。
会議場中央で。
空気が凍った。
◇
ギルゼア
が、
静かに立ち上がる。
◇
その顔から。
感情が完全に消えていた。
◇
「……なるほど」
◇
低い声。
だが。
それが逆に恐ろしい。
◇
シエラ
が、
即座に周囲を確認する。
「人類側強硬派」
「事前潜伏」
「交渉破壊目的」
◇
淡々とした報告。
だが。
黒灰側護衛達の空気が変わっていた。
◇
殺気。
◇
停戦会談そのものが、
襲撃された。
それは。
単なるテロじゃない。
◇
交渉否定。
和平否定。
全面敵対宣言。
◇
レインは、
崩れた机を見つめる。
◇
「……またか」
◇
掠れた声だった。
◇
王都でも。
物流改革でも。
何度も見た。
◇
壊れる。
積み上げた物が。
感情と憎悪で。
◇
レインの胸に、
強い疲労感が広がる。
◇
人は。
どうして維持できない。
◇
その時。
ギルゼアが、
レインを見る。
◇
「だから人類は維持できない」
◇
静かな声。
断定。
◇
「感情を優先する」
「短期衝動で破壊する」
「全体より、
個人思想を優先する」
◇
「だから崩壊する」
◇
レインは、
反論できなかった。
◇
実際。
あと少しで止まれた戦争を。
人類側が壊した。
◇
黒灰側ではない。
人類自身が。
◇
会議場外では、
既に戦闘が始まっている。
怒号。
剣戟。
炎。
◇
停戦は、
死んだ。
◇
レインは、
砕けた署名文書を拾い上げる。
血で濡れていた。
◇
あと少しだった。
本当に。
◇
だが。
世界は、
そこまで壊れていた。




