第七十一話 強硬派
停戦合意まで、
あと一歩だった。
◇
だからこそ。
壊したい者達が動き始める。
◇
夜。
人類側滞在区。
石畳を、
一台の馬車が走っていた。
◇
乗っているのは、
停戦推進派の官僚。
補給局次官。
王都崩壊後、
数少ない現実派。
◇
彼は理解していた。
もう、
王国に戦争継続体力は無い。
停戦しなければ。
本当に終わる。
◇
だから。
合意文書へ署名する予定だった。
◇
だが。
馬車が細道へ入った瞬間。
◇
矢が飛んだ。
◇
御者が崩れる。
次の瞬間。
黒装束の男達が現れた。
◇
「裏切り者を殺せ!」
◇
短剣。
火炎瓶。
怒号。
◇
馬車は横転した。
◇
翌朝。
交渉区域全体へ、
その情報が広がる。
◇
「停戦派官僚、
襲撃」
「重傷」
「護衛数名死亡」
◇
会議場の空気が、
一気に冷える。
◇
レイン・ヴァルト
は、
報告書を読みながら眉を寄せた。
「……始まったか」
◇
イヴァン
が、
壁へ寄りかかる。
「停戦が近いほど、
邪魔したい連中は増える」
◇
「戦争で飯食ってる奴もいるからな」
◇
武器商人。
強硬派貴族。
軍部急進派。
宗教勢力。
◇
“敵と戦い続けること”
そのものが、
存在理由になっている者達。
◇
その頃。
別室では。
人類側使節団が、
激しく対立していた。
◇
「だから言っただろう!」
「魔王軍など信用できん!」
◇
「違う!
襲撃は人類側内部犯だ!」
◇
「停戦など売国行為だ!」
◇
怒号。
机を叩く音。
責任転嫁。
◇
レインは、
その様子を見て疲労を覚える。
◇
またこれだ。
◇
王都でも見た。
崩壊寸前でも。
人は、
敵より先に内側で争う。
◇
その時。
一人の軍務貴族が、
レインへ詰め寄った。
◇
「貴様も騙されるな!」
「魔王軍と共存など不可能だ!」
◇
「奴らは人類の敵だ!」
◇
レインは、
静かに答える。
「じゃあ聞くが」
◇
「今の王国は、
人類を守れてるのか?」
◇
男の顔が歪む。
◇
「それとこれとは――」
「同じだ」
レインが遮る。
◇
「飢えてる民を放置して」
「補給を腐敗させて」
「戦争継続だけ叫ぶ」
◇
「それで何万人死んだ?」
◇
沈黙。
◇
だが。
強硬派の目は、
揺らがない。
◇
「それでも、
魔王軍とは相容れん」
◇
思想だった。
◇
現実ではない。
損得でもない。
信念。
憎悪。
恐怖。
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だから厄介だった。
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その夜。
さらに追撃の報告が入る。
◇
停戦派議員失踪。
交渉支持新聞社放火。
黒灰接触者への襲撃。
◇
空気が変わる。
◇
停戦直前だったはずの会談は。
急速に、
疑心暗鬼へ飲み込まれていった。
◇
窓の外。
雪が降り始める。
◇
白いはずの雪は。
どこか灰色に見えた。




