表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/114

第六十九話 正しさの代価

 夜。


 


 黒灰圏滞在区。


 


     ◇


 


 窓の外では、

巡回灯が規則的に動いている。


 


 一定間隔。


 


 一定速度。


 


 狂いなく。


 


     ◇


 


 静かだった。


 


 あまりにも。


 


     ◇


 


 

レイン・ヴァルト

は、

机に広げた資料を見つめていた。


 


 配給率。


 


 犯罪率。


 


 労働維持率。


 


 人口推移。


 


     ◇


 


 数字は美しい。


 


 合理的。


 


 安定。


 


 継続。


 


     ◇


 


 王都とは、

比較にならない。


 


     ◇


 


 なのに。


 


 胸の奥が、

ずっと重かった。


 


     ◇


 


「……何なんだよ」


 


 小さく漏れる。


 


     ◇


 


 黒灰圏は、

間違いなく人を生かしている。


 


 飢えさせない。


 


 暴れさせない。


 


 崩壊させない。


 


     ◇


 


 王国には出来なかったことだ。


 


     ◇


 


 それなのに。


 


 どこか、

息苦しい。


 


     ◇


 


 その時。


 


 通信魔導具が淡く光った。


 


     ◇


 


 レインが顔を上げる。


 


 接続。


 


 映像が揺れる。


 


     ◇


 


 映ったのは。


 


 

セラフィナ


 


     ◇


 


 少し疲れた顔。


 


 だが。


 


 以前よりは、

ちゃんと眠れている目だった。


 


     ◇


 


「……生きてた」


 


 セラフィナが小さく言う。


 


     ◇


 


「そっちこそ」


 


 レインも返す。


 


     ◇


 


 少しだけ、

沈黙。


 


     ◇


 


 それから。


 


 セラフィナが、

レインの顔を見て眉を寄せた。


 


「顔色悪い」


 


     ◇


 


「そうか?」


 


「そう」


 


     ◇


 


 即答だった。


 


     ◇


 


 レインは、

少し迷ってから言う。


 


「……黒灰圏を見た」


 


     ◇


 


「驚いたよ」


 


「飢えてない」


 


「秩序がある」


 


「孤児も保護されてる」


 


     ◇


 


「王都より、

ずっとまともだ」


 


     ◇


 


 口にしていて、

苦かった。


 


     ◇


 


 セラフィナは、

静かに聞いている。


 


     ◇


 


「でも、

分からなくなる」


 


 レインが続ける。


 


「自由で崩壊するのと」


 


「管理されて生き残るのと」


 


「どっちが正しいのか」


 


     ◇


 


 セラフィナは、

少しだけ目を伏せた。


 


     ◇


 


 それから。


 


 ぽつりと言う。


 


     ◇


 


「でも」


 


     ◇


 


「あそこには、

笑顔が無かった」


 


     ◇


 


 レインの呼吸が止まる。


 


     ◇


 


 その言葉。


 


 妙に、

胸へ刺さった。


 


     ◇


 


 脳裏に、

黒灰圏の街が浮かぶ。


 


 整列する人々。


 


 静かな配給列。


 


 規律正しい子供達。


 


 均一な灰色服。


 


     ◇


 


 確かに。


 


 誰も飢えていない。


 


 誰も暴れていない。


 


 だが。


 


     ◇


 


 誰も、

笑っていなかった。


 


     ◇


 


 ドラクエラを思い出す。


 


 市場。


 


 怒鳴る商人。


 


 騒ぐ子供。


 


 失敗して怒られる新人。


 


 酒場の喧嘩。


 


     ◇


 


 面倒で。


 


 非効率で。


 


 騒がしくて。


 


     ◇


 


 でも。


 


 あそこには、

人間の生活があった。


 


     ◇


 


 セラフィナが、

静かに続ける。


 


「人って、

無駄なことするから」


 


「寄り道するから」


 


「失敗するから」


 


「笑えるんじゃない?」


 


     ◇


 


 通信越しの声は小さい。


 


 だが。


 


 黒灰圏で聞いたどの理論より、

重かった。


 


     ◇


 


 レインは、

ようやく気付く。


 


     ◇


 


 この国には。


 


 余白が無い。


 


     ◇


 


 無駄が無い。


 


 非効率が無い。


 


 逸脱が無い。


 


     ◇


 


 だから。


 


 崩れない。


 


     ◇


 


 そして同時に。


 


 人間が、

息をつく場所も無い。


 


     ◇


 


 ヴェルガ達は正しい。


 


 少なくとも、

維持という意味では。


 


     ◇


 


 だが。


 


 正しさだけでは。


 


 人は、

生きていけないのかもしれない。


 


     ◇


 


 通信が切れる。


 


 部屋に静寂が戻る。


 


     ◇


 


 窓の外。


 


 灰色の街は、

今日も正確に動き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ