表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/108

第六十六話 勇者の価値

交渉二日目。


 


 議題は、

捕虜交換から戦略評価へ移っていた。


 


     ◇


 


 会議室中央。


 


 広げられた地図。


 


 補給線。


 


 遠征経路。


 


 戦力配置。


 


     ◇


 


 その中に。


 


 一つだけ、

異質な記号がある。


 


     ◇


 


 “勇者”。


 


     ◇


 


 

レイン・ヴァルト

の視線が止まる。


 


     ◇


 


 王国では。


 


 その存在は特別だった。


 


 希望。


 


 救世主。


 


 人類最後の光。


 


     ◇


 


 だが。


 


 黒灰側の資料では。


 


 まるで、

兵站資材の一つみたいに記載されていた。


 


     ◇


 


「……ずいぶん簡単に書くんだな」


 


 レインが低く言う。


 


     ◇


 


 

ギルゼア

は、

資料をめくりながら答えた。


 


「事実だからだ」


 


     ◇


 


「勇者個体、

戦術能力A」


 


「広域制圧能力あり」


 


「士気向上効果極大」


 


「維持コスト過大」


 


     ◇


 


 その分析は、

あまりにも冷たい。


 


     ◇


 


 

イヴァン

が顔をしかめる。


 


「人間の評価じゃねぇな」


 


     ◇


 


 ギルゼアは、

淡々と返した。


 


「戦争において、

個人崇拝は危険だ」


 


     ◇


 


「能力評価を誤る」


 


「運用を誤る」


 


「維持限界を無視する」


 


     ◇


 


 レインの脳裏に、

あの男が浮かぶ。


 


 

ザイン


 


     ◇


 


 壊れた目。


 


 震える手。


 


 吐きながら剣を握っていた夜。


 


     ◇


 


 王国は。


 


 あいつを、

人間として扱っていなかった。


 


     ◇


 


 その時。


 


 

シエラ

が静かに言う。


 


「勇者とは、

兵器ではない」


 


     ◇


 


 レインが顔を上げる。


 


     ◇


 


「社会安定装置だ」


 


     ◇


 


 空気が止まる。


 


     ◇


 


 シエラは続ける。


 


「人類国家は崩壊寸前だった」


 


「飢餓」


 


「格差」


 


「腐敗」


 


「戦争疲弊」


 


     ◇


 


「そこへ勇者が現れた」


 


「だから民衆は縋った」


 


     ◇


 


「勇者がいる限り、

まだ終わっていないと」


 


     ◇


 


 レインは、

言葉を失う。


 


     ◇


 


 確かにそうだった。


 


 勇者ザイン登場以降。


 


 王国は、

全てを勇者中心へ組み替えた。


 


     ◇


 


 予算。


 


 兵力。


 


 宣伝。


 


 信仰。


 


     ◇


 


 全部。


 


 “勇者が勝つ物語”

のために。


 


     ◇


 


 ギルゼアが資料を指で叩く。


 


「勇者遠征軍崩壊後も、

王国は敗北を公表しなかった」


 


「何故だと思う」


 


     ◇


 


 レインは答えられない。


 


     ◇


 


 シエラが静かに告げる。


 


「勇者が壊れたと認識した瞬間、

国家も壊れるからだ」


 


     ◇


 


 背筋が冷える。


 


     ◇


 


 王都暴動。


 


 飢餓。


 


 虚偽報道。


 


 全部、

繋がる。


 


     ◇


 


 王国は。


 


 民衆へ、

現実を見せられなかった。


 


     ◇


 


 だから。


 


 勇者を神格化し続けた。


 


     ◇


 


 レインは、

ようやく理解する。


 


 あれは、

信仰じゃない。


 


     ◇


 


 延命だった。


 


     ◇


 


 ギルゼアが、

感情の薄い声で言う。


 


「象徴は便利だ」


 


     ◇


 


「壊れるまでは」


 


     ◇


 


 静寂。


 


     ◇


 


 レインの脳裏に。


 


 最後に見たザインの姿が浮かぶ。


 


 折れた聖剣。


 


 血塗れの身体。


 


 助けを求める声。


 


     ◇


 


 あの瞬間。


 


 勇者はもう、

壊れていた。


 


     ◇


 


 なのに王国は。


 


 壊れたまま、

使い続けた。


 


     ◇


 


 レインは、

拳を握る。


 


     ◇


 


 怒りなのか。


 


 哀れみなのか。


 


 もう、

自分でも分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ