第六十二話 黒灰孤児院
孤児院。
その言葉から、
レインが思い浮かべるものは決まっていた。
◇
薄暗い建物。
足りない食料。
泣く子供。
病気。
暴力。
諦めた目。
◇
王都でも。
辺境でも。
孤児施設とは、
“生き残れなかった子供達の集積所”
だった。
◇
だが。
黒灰圏の孤児施設は違った。
◇
「ここが第七育成区画だ」
シエラ
が淡々と言う。
◇
建物は巨大だった。
石造三階建て。
窓は多い。
外壁補修も行き届いている。
◇
中へ入る。
暖かい。
薪暖房。
清掃済み床。
消毒臭。
◇
そして。
子供達の声。
◇
教室では、
十数人の子供達が授業を受けていた。
読み書き。
計算。
地図。
配給知識。
◇
さらに別室。
簡易工具を使った修理訓練。
運搬訓練。
識別札管理。
◇
ノア
が、
呆然と周囲を見る。
「……飯、
食えてる」
◇
全員、
顔色が良い。
痩せてもいない。
服も清潔。
◇
王都孤児院では、
考えられなかった。
◇
レインは、
小さな食堂を見る。
子供達へ、
均等に配給される食事。
栄養計算済み。
量も十分。
◇
その瞬間。
脳裏に、
ドラクエラの冬が浮かぶ。
凍えながら、
パンを奪い合っていた孤児達。
盗みで殴られていた子供。
痩せ細った小さな手。
◇
ここには、
それが無い。
◇
だが。
違和感もあった。
◇
静かすぎる。
◇
教師が歩くと、
全員が即座に姿勢を正す。
私語も少ない。
勝手に動く子供もいない。
◇
さらに。
壁面に、
奇妙な表があった。
年齢。
能力。
適性。
評価。
◇
レインの視線が止まる。
◇
「輸送適性 中」
「事務能力 高」
「労働耐久 低」
「魔力適性 無し」
◇
子供一人一人に、
細かな査定。
◇
「これは?」
レインが聞く。
シエラは当然のように答えた。
「能力査定記録」
「将来配置を決めるためのものだ」
◇
ノアが振り向く。
「将来配置?」
◇
「適性ごとに育成する」
「事務能力が高い者は管理局」
「身体能力が高い者は輸送・警備」
「魔力適性者は技術区」
◇
「効率的だ」
◇
言葉に迷いが無い。
◇
ノアの顔が引きつる。
「……最初から、
決まってんのか」
◇
「適性に合わない配置は、
本人にも社会にも損失だ」
シエラが答える。
◇
ノアは、
しばらく何も言えなかった。
◇
レインも、
言葉を失っていた。
◇
合理的だ。
間違いなく。
◇
孤児を放置しない。
教育する。
仕事を与える。
飢えさせない。
◇
人類国家より、
遥かに生存率が高い。
◇
だが。
人生が、
最初から制度へ組み込まれている。
◇
夢ではなく。
適性。
自由ではなく。
配置。
◇
その時。
一人の少女が、
帳簿を抱えて歩いていく。
小さな眼鏡。
真面目そうな顔。
◇
シエラが説明する。
「管理適性A」
「将来は地方配給局候補」
◇
次。
木箱を運ぶ少年。
「運搬適性A」
「輸送管理区配属予定」
◇
まるで。
部品選別だった。
◇
ノアが、
ぽつりと呟く。
「人生、
最初から決められてる」
◇
その声には、
怯えが混じっていた。
◇
レインは、
窓の外を見る。
整然と歩く子供達。
飢えていない。
殴られていない。
捨てられていない。
◇
そして。
ふと思ってしまう。
◇
――生き残れるのは、
こっちだ。
◇
王都の孤児達は、
自由だった。
だから。
死んだ。
◇
黒灰圏の子供達は、
管理されている。
だから。
生きている。
◇
レインは、
その事実を否定できなかった。




