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世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


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第五十三話 都市暴走

 最初の暴動は、

まだ“事件”だった。


 


 配給所襲撃。


 


 倉庫放火。


 


 帰還兵の乱闘。


 


 局地的混乱。


 


 そう呼べる段階だった。


 


 だが。


 


 もう違う。


 


     ◇


 


 

王都レグナリア

は、

都市そのものが暴れ始めていた。


 


     ◇


 


 夜明け前。


 


 東市場区から、

鐘が鳴る。


 


 火災警鐘。


 


 直後。


 


 別方向でも鐘。


 


 さらに西区。


 


 南区。


 


 連鎖。


 


 止まらない。


 


     ◇


 


 街が燃えていた。


 


 あちこちで。


 


     ◇


 


「倉庫が襲われた!!」


 


「衛兵隊が押し返されてる!!」


 


「武器庫が破られた!!」


 


 伝令が怒鳴りながら走る。


 


 だが。


 


 誰も全体を把握していない。


 


     ◇


 


 王都南街区。


 


 食料商会前。


 


 数百人規模の群衆が、

扉を叩いていた。


 


「出せぇ!!」


 


「隠してんだろ!!」


 


「子供が死んでんだぞ!!」


 


 棒。


 


 石。


 


 斧。


 


 もう、

ただの市民じゃない。


 


     ◇


 


 扉が破れる。


 


 人々が雪崩れ込む。


 


 小麦袋を奪い合う。


 


 踏み倒される老人。


 


 悲鳴。


 


 殴打。


 


 奪われた食料を、

さらに奪い返そうとする者。


 


     ◇


 


 食料は。


 


 今や、

通貨より価値があった。


 


     ◇


 


 一方。


 


 西兵営区では、

さらに酷い事態が起きていた。


 


     ◇


 


 帰還兵達が、

武器庫を襲撃したのだ。


 


「止まれ!!」


 


 衛兵が叫ぶ。


 


 だが。


 


 帰還兵達は止まらない。


 


 戦場帰りの目だった。


 


     ◇


 


「もう守る国なんかねぇ!!」


 


「生きるためだ!!」


 


 槍が振られる。


 


 剣が抜かれる。


 


 血飛沫。


 


 衛兵が倒れる。


 


     ◇


 


 武器庫が開かれる。


 


 剣。


 


 弓。


 


 矢束。


 


 鎧。


 


 群衆へ流れていく。


 


     ◇


 


 最悪だった。


 


 飢餓状態の都市へ、

武器が流れ始めた。


 


     ◇


 


 

レイン・ヴァルト

は、

中央治安室で地図を見ていた。


 


 赤印だらけだった。


 


 暴動区域。


 


 火災。


 


 武器庫襲撃。


 


 配給停止。


 


 都市全域。


 


 もう、

部分鎮圧の段階じゃない。


 


     ◇


 


「衛兵隊稼働率は」


 


「四割以下です」


 


「離脱者多数」


 


「帰還兵と合流した者も……」


 


 治安官の声が震える。


 


     ◇


 


 当然だった。


 


 衛兵だって、

腹は減る。


 


 家族もいる。


 


 国家の命令より。


 


 生存が優先され始めていた。


 


     ◇


 


 午後。


 


 北貴族街。


 


 ついに民衆が、

本格突入を始める。


 


 豪邸。


 


 私兵。


 


 高い塀。


 


 全部。


 


 飢えた群衆の前では、

止めきれなかった。


 


     ◇


 


「焼け!!」


 


 誰かが叫ぶ。


 


 炎が投げ込まれる。


 


 屋敷が燃え上がる。


 


 悲鳴。


 


 逃げ惑う使用人。


 


 泣き叫ぶ子供。


 


     ◇


 


 暴動は。


 


 もう、

正義でも革命でもない。


 


 飢えと恐怖が暴走した結果だった。


 


     ◇


 


 

ザイン

は、

王城上階からその光景を見ていた。


 


 燃える王都。


 


 赤い夜。


 


 怒号。


 


 無数の煙。


 


     ◇


 


「……止めないのか」


 


 ザインが呟く。


 


 隣の将軍が、

力なく笑った。


 


「何で止めるんです」


 


「兵がいません」


 


「命令も通りません」


 


「皆、

自分が生き残るので必死だ」


 


     ◇


 


 王国軍は、

もう存在しない。


 


 残っているのは、

飢えた人間だけだった。


 


     ◇


 


 夜。


 


 王都中央通り。


 


 かつて祝祭が行われた場所。


 


 今は死体が転がっている。


 


 略奪。


 


 私刑。


 


 殺し合い。


 


 誰も止めない。


 


     ◇


 


 子供が、

倒れた母親を揺らしていた。


 


「お母さん」


 


「ねぇ」


 


 返事は無い。


 


     ◇


 


 遠くで。


 


 また鐘が鳴る。


 


 火災か。


 


 暴動か。


 


 もう区別も付かない。


 


     ◇


 


 レインは、

燃える都市を見つめながら理解する。


 


 これは内乱ですらない。


 


 国家という秩序を失った都市が。


 


 生存本能だけで、

暴走しているのだと。

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