表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/120

第三十六話 王都からの使者

 春。


 


 

自由都市群ドラクエラ

は、

止まらなくなっていた。


 


     ◇


 


 中央街道。


 


 馬車列が続く。


 


 商隊。


 


 移民。


 


 傭兵。


 


 難民。


 


 職人。


 


 全部が、

ドラクエラへ流れ込んでくる。


 


「西便通過!!」


 


「第三倉庫空けろ!!」


 


「北区積荷確認!!」


 


 怒号。


 


 車輪音。


 


 荷運び。


 


 灰色の旗。


 


 都市そのものが、

巨大な物流機械みたいに動いていた。


 


     ◇


 


 

灰燕運送ギルド

本部。


 


「南連邦から定期契約です!」


 


「帝国商会も中継申請!」


 


「海路接続案も来てる!!」


 


 

ラッカ

は、

もはや半泣きだった。


 


「仕事多すぎるってぇぇぇ!!」


 


 だが顔は笑っている。


 


 誰も想像していなかった。


 


 辺境だったこの街が。


 


 大陸物流中心地へ、

変わり始めているなんて。


 


     ◇


 


「全部、

灰燕経由だな」


 


 

イヴァン

が地図を見る。


 


 新街道。


 


 中継拠点。


 


 護衛網。


 


 配給路。


 


 全部、

一本に繋がっている。


 


 そして中心には、

レインがいた。


 


     ◇


 


 同時に。


 


 各国も動き始めていた。


 


「ドラクエラを押さえろ」

「物流を握った都市が勝つ」

「灰燕と関係構築を」


 


 戦争時代。


 


 兵站を握る者が、

世界を握る。


 


 その現実を、

各国は理解し始めている。


 


     ◇


 


 そして。


 


 王都も。


 


     ◇


 


 その日。


 


 灰燕本部へ、

豪奢な馬車が止まった。


 


 王国紋章。


 


 周囲がざわつく。


 


「王都……?」

「なんで辺境に……」


 


 扉が開く。


 


 降りてきたのは、

痩せた官僚だった。


 


 

レグナス王国

中央政務院所属。


 


 だが。


 


 服は高級なのに、

顔色が悪い。


 


 疲弊している。


 


     ◇


 


 応接室。


 


 レインは静かに座っていた。


 


 

レイン・ヴァルト

の前。


 


 王都官僚が、

深く頭を下げる。


 


「……本日は、

お願いがあり参りました」


 


 周囲が息を呑む。


 


 王都の官僚が。


 


 辺境ギルドへ頭を下げている。


 


     ◇


 


「王国物流網は現在、

崩壊状態です」


 


 官僚は淡々と語った。


 


「前線補給断絶」

「街道維持不能」

「輸送隊消失」


 


 さらに。


 


「勇者パーティは、

既に実戦機能を失っています」


 


 空気が重くなる。


 


 ついに。


 


 王都側も認めた。


 


 勇者神話の崩壊を。


 


     ◇


 


「……ザインは」


 


 レインが聞く。


 


 官僚は少し沈黙した。


 


 

ザイン


 


 かつて世界の希望だった男。


 


「療養中です」


 


 短い答え。


 


 それだけで十分だった。


 


     ◇


 


「率直に申し上げます」


 


 官僚が真っ直ぐ言う。


 


「あなたが必要です」


 


 部屋が静まる。


 


「王国は、

あなたを失ったことで崩れ始めました」


 


 正直すぎる言葉だった。


 


「補給」

「維持」

「管理」

「調整」


 


「勇者パーティを支えていたのは、

あなただった」


 


 レインは何も言わない。


 


     ◇


 


「どうか、

王都へ戻っていただきたい」


 


 深く頭を下げる官僚。


 


 かつて、

雑用係として追放された男へ。


 


 王国が頭を下げている。


 


     ◇


 


 沈黙。


 


 長い沈黙。


 


 レインは、

すぐには答えなかった。


 


 窓外を見る。


 


 馬車。


 


 市場。


 


 人の流れ。


 


 この街。


 


     ◇


 


「……少し、

考えます」


 


 それだけ言った。


 


 官僚は、

安堵とも絶望ともつかない顔で頷いた。


 


     ◇


 


 夜。


 


 城壁上。


 


 春風が吹いている。


 


 レインは、

都市を見下ろしていた。


 


 煙。


 


 市場。


 


 往来。


 


 馬車列。


 


 酒場の灯り。


 


 子供達の笑い声。


 


 帰ってくる商隊。


 


 帰ってくる兵士。


 


 帰ってくる人々。


 


 第一部の頃には、

無かった光景だった。


 


     ◇


 


 思い出す。


 


 勇者パーティ時代。


 


 自分は、

ただ維持していた。


 


 壊れないように。


 


 死なないように。


 


 帰れるように。


 


 でも。


 


 あの場所には、

居場所が無かった。


 


     ◇


 


 今は違う。


 


 ここには。


 


 人が戻ってくる。


 


 疲れた兵士も。


 


 孤児も。


 


 壊れた治癒士も。


 


 獣人も。


 


 皆。


 


 生きて帰ってくる。


 


     ◇


 


 その時。


 


 下から声が聞こえた。


 


「レイーン!!」


 


 ノアだった。


 


 

ノア

が城壁下で手を振っている。


 


「飯冷めるぞー!!」


 


 さらに。


 


「早く来い!!」


 


 ラッカ。


 


「今日は飲むぞ!!」


 


 イヴァン。


 


「ちゃんと食べてくださいね!」


 


 ミレナ。


 


 騒がしい。


 


 本当に騒がしい。


 


 でも。


 


 レインは、

少しだけ笑った。


 


     ◇


 


 そして。


 


 ようやく理解する。


 


 自分が作りたかったものを。


 


 勇者じゃない。


 


 英雄でもない。


 


 ただ。


 


 人が生きて帰れる場所。


 


 それだけだったのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ