表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/114

第三十五話 春

 最初に落ちたのは、

雫だった。


 


 屋根端から、

ぽたりと水が落ちる。


 


 次に。


 


 雪が崩れた。


 


 白かった路地に、

黒い石畳が見え始める。


 


 冬が終わる。


 


     ◇


 


 

自由都市群ドラクエラ

中央市場。


 


 長く閉じていた露店が、

一つずつ開き始めていた。


 


「魚だ!!」

「南便戻ったぞ!!」


 


 久々の喧騒。


 


 商人達の声。


 


 荷車の音。


 


 怒鳴り声ですら、

どこか明るい。


 


     ◇


 


「……生き残ったな」


 


 

イヴァン

が呟く。


 


 市場入口。


 


 灰燕護衛達も、

どこか気が抜けていた。


 


 冬越え。


 


 あの地獄を、

本当に越えた。


 


     ◇


 


 

灰燕運送ギルド

中央倉庫も、

ようやく落ち着きを取り戻し始めていた。


 


 荷物。


 


 帳簿。


 


 配送票。


 


 山積みの仕事。


 


 なのに。


 


 皆、

少し笑っている。


 


     ◇


 


「ノア!!

それ北便!!」


 


「分かってる!!」


 


 

ノア

が荷箱を抱えて走る。


 


 前より動きが速い。


 


 帳簿も読める。


 


 地図も分かる。


 


 怒鳴り返す余裕まで出てきた。


 


「字読めるようになったなぁ」


 


 

ラッカ

が笑う。


 


「馬鹿にすんな!!」


 


 周囲から笑いが起きた。


 


     ◇


 


 倉庫横。


 


 以前作られた、

輸送孤児院。


 


 そこから、

子供達の声が聞こえる。


 


「そっち持って!!」


 


「地図こっち!!」


 


「違う!!

北は上!!」


 


 笑い声。


 


 喧嘩。


 


 走る音。


 


 冬前には、

無かった音だった。


 


     ◇


 


 

セラフィナ

は、

その声を診療所窓から聞いていた。


 


 春風が入る。


 


 久しぶりに、

薬臭さが薄い。


 


 治療待機列も、

以前より減った。


 


「眠れてます?」


 


 

ミレナ

が聞く。


 


 セラフィナは少し考えた。


 


「……前よりは」


 


 微笑む。


 


 今度の笑顔は、

ちゃんと人間のものだった。


 


     ◇


 


 夕方。


 


 灰燕屋上。


 


 レインは、

都市を見下ろしていた。


 


 

レイン・ヴァルト

の視線の先。


 


 煙。


 


 市場。


 


 荷車。


 


 往来。


 


 人の流れ。


 


 都市が動いている。


 


 生きている。


 


     ◇


 


「ここにいた」


 


 後ろから、

イヴァンが来る。


 


 酒瓶片手。


 


「探したぞ」


 


「仕事は」


 


「今日は終わりだ」


 


 珍しく、

強引に酒瓶を押し付ける。


 


     ◇


 


「……終わったな」


 


 イヴァンが呟く。


 


「まだ冬越えしただけだ」


 


 レインはいつもの調子で返す。


 


 だが。


 


 イヴァンは笑った。


 


「それを終わったって言うんだよ」


 


 しばらく沈黙。


 


 街の音だけが聞こえる。


 


     ◇


 


「変わったな、

この街」


 


 イヴァンが言う。


 


 レインは下を見る。


 


 思い出す。


 


 最初に来た時。


 


 荒れた街道。


 


 飢え。


 


 諦め。


 


 壊れた人間達。


 


 今も問題は山積みだ。


 


 差別。


 


 貧困。


 


 戦争。


 


 何も終わってない。


 


 でも。


 


 少なくとも。


 


 ここには、

帰ってこられる場所がある。


 


     ◇


 


 その時。


 


 下から、

子供達の声が聞こえた。


 


「レインー!!」


 


 見下ろく。


 


 ノア達が手を振っている。


 


「飯!!」

「早く来い!!」


 


 騒がしい。


 


 うるさい。


 


 でも。


 


 どこか暖かい。


 


     ◇


 


 レインは、

少しだけ目を細めた。


 


 昔。


 


 自分には、

そういう場所が無かった。


 


 勇者パーティでも。


 


 王都でも。


 


 ずっと、

必要だからいただけだった。


 


 でも今は違う。


 


 役割だけじゃない。


 


 帰れば、

誰かがいる。


 


     ◇


 


 春風が吹く。


 


 雪解け水が流れる。


 


 市場に人が戻る。


 


 子供達が笑う。


 


 荷車が進む。


 


 生きている音がする。


 


 そして。


 


 ドラクエラは、

いつの間にか変わっていた。


 


 辺境都市ではない。


 


 ただ生き延びる場所でもない。


 


 傷ついた人間が、

帰ってこられる場所。


 


 それが今の。


 


 

自由都市群ドラクエラ

だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ