第三十一話 閉ざされた空
最初に止まったのは、
北便だった。
灰燕運送ギルド
中央倉庫。
「第三中継地、
連絡途絶です!」
若い伝令が飛び込んでくる。
事務室空気が止まった。
レイン・ヴァルト
が顔を上げる。
「原因は」
「吹雪です!
視界ゼロ、
護衛隊も動けません!」
冬末期。
本来なら、
もう少し雪は弱まる時期だった。
だが今年は違う。
寒波が異常だった。
◇
「西便も止まりました!!」
別の伝令。
「崩落です!!」
「南街道、
魔物群出現!!」
「東部橋梁、
氷結崩壊!!」
次々飛び込む報告。
最悪だった。
街道が、
全部死に始めている。
◇
「……全部か」
イヴァン
が低く呟く。
レインは地図を見る。
赤線。
遮断。
遮断。
遮断。
物流線が、
一つずつ消えていく。
最後に残った西部補助路線にも、
黒印が付いた。
完全封鎖。
自由都市群ドラクエラ
は、
外界から切り離された。
◇
数時間後。
都市中へ噂が広がる。
「街道が全部死んだ」
「食料来ないぞ」
「また飢える!!」
市場空気が一変した。
人々が走る。
店へ殺到する。
買い占め。
怒鳴り声。
悲鳴。
「全部寄越せ!!」
「一人一袋だ!!」
「ふざけんな!!」
殴り合いまで始まる。
◇
中央市場。
商人達は、
慌てて値札を書き換えていた。
小麦。
二倍。
三倍。
塩。
薬草。
燃料。
全部跳ね上がる。
恐怖が、
市場を壊していく。
◇
「また始まったか……」
ラッカ
が顔を青くする。
冬飢餓。
あの悪夢を、
皆覚えている。
だから余計に早い。
人間は、
飢えを知ると変わる。
◇
診療所でも混乱が始まる。
「薬が足りません!!」
「次便は!?」
「来ません!!」
セラフィナ
は窓外を見ていた。
吹雪。
白い世界。
完全停止。
その光景だけで、
過去の記憶が蘇る。
死者。
凍傷。
飢餓。
彼女の指先が震えた。
◇
一方。
灰燕事務室だけは、
異様に静かだった。
皆、
レインを見ている。
どうする。
どうなる。
誰も口にしない。
だが空気が聞いていた。
◇
レインは、
地図を見続けていた。
そして。
「現在備蓄量」
ミレナが慌てて帳簿を開く。
ミレナ
の声が震える。
「都市全体で約十八日……」
「配給制なら二十四日……」
「医薬品」
「重症対応は十日限界」
「燃料」
「不足区域あり」
静かな確認。
戦場みたいだった。
実際、
これは戦争だった。
数字の戦争。
飢餓との戦争。
◇
「……終わりか?」
誰かが呟いた。
小さい声。
でも。
皆、
同じことを思っている。
街道が死ねば、
都市も死ぬ。
物流都市の宿命だった。
◇
その時。
レインが、
一本の古い線を指した。
地図端。
ほとんど消えかけた旧線。
「まだある」
イヴァンが目を細める。
「……まさか」
「空路跡だ」
ラッカが困惑する。
「空路?」
レインは古い記録を開く。
「帝国時代、
飛竜輸送路があった」
部屋が静まる。
「今は廃止されてるぞ」
「だから残ってる」
静かな声。
「誰も使ってない」
◇
吹雪の外。
白い空が、
都市を閉ざしている。
だが。
レインだけは、
まだ線を探していた。
人を生かすための道を。




