表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/114

第二十三話 数字の戦争

 値段が、

おかしかった。


 


 

自由都市群ドラクエラ

中央市場。


 


 小麦袋の前で、

女が店主へ怒鳴っている。


 


「昨日の倍じゃないか!!」


 


「仕入れ値が上がってんだよ!!」


 


 店主も怒鳴り返す。


 


 周囲では、

似たような口論が続いていた。


 


 塩。


 干し肉。


 薬草。


 


 全部高い。


 


 冬越え後、

物流は戻り始めている。


 


 それなのに、

物価だけが異常に跳ねていた。


 


     ◇


 


「買い占めですね」


 


 灰燕ギルド事務室。


 


 

ミレナ

が帳簿を見ながら言う。


 


「しかも複数商会」


 


 

ラッカ

が顔をしかめた。


 


「でも街道戻ってきてるのに?」


 


「だからだ」


 


 

レイン・ヴァルト

が淡々と答える。


 


「戻り始めた今が、

一番儲かる」


 


 机上には、

大量の帳簿が並んでいた。


 


 市場価格。


 


 在庫量。


 


 輸送速度。


 


 商会別仕入れ記録。


 


 普通の人間なら、

見るだけで頭が痛くなる。


 


 だがレインは、

ページを捲る速度が異常だった。


 


     ◇


 


「……あ」


 


 ラッカが声を漏らす。


 


「同じ商会が、

別区画で値段変えてる」


 


「意図的だ」


 


 レインは即答した。


 


「供給不足を演出してる」


 


「えげつな……」


 


 実際、

市場は不安定だった。


 


 人々はまだ、

飢餓を恐れている。


 


 だから少しでも値段が上がると、

買い溜めに走る。


 


 さらに物不足。


 


 さらに価格上昇。


 


 悪循環。


 


 そこへ商会が乗る。


 


 意図的に。


 


     ◇


 


「……舐められてんな」


 


 

イヴァン

が低く言う。


 


 レインは答えない。


 


 ただ、

別帳簿を広げた。


 


「灰燕の現在在庫は」


 


「保存食二百七十」

「塩八十」

「薬草百二十束」


 


 ミレナが即答する。


 


 最近、

彼女も帳簿を読むようになっていた。


 


「十分だ」


 


 レインは短く言った。


 


「価格調整を始める」


 


     ◇


 


 三日後。


 


 市場価格が急落した。


 


「なんだこれ!?」

「急に安いぞ!!」


 


 市場が騒然となる。


 


 理由は単純。


 


 灰燕が、

大量放出した。


 


 しかも。


 


 適正価格で。


 


     ◇


 


「ふざけるな!!」


 


 怒鳴り込んできたのは、

大商会《バルゼ商会》の男だった。


 


 豪華な外套。


 


 肥えた腹。


 


 

バルゼ商会


 


 冬以前から、

辺境物流を握っていた既得権益商会。


 


「相場を壊す気か!?」


 


 事務室へ怒声が響く。


 


 だが。


 


 レインは帳簿を書いたまま答えた。


 


「壊れてるのはそっちだ」


 


「何?」


 


「在庫を抱えすぎだ」


 


 男の顔が変わる。


 


「西倉庫、

まだ満載だろ」


 


 沈黙。


 


 ラッカが目を丸くした。


 


「え、なんで分かるの……?」


 


「輸送量が不自然だった」


 


 淡々としている。


 


 だが。


 


 商会男の額には汗が浮いていた。


 


     ◇


 


「市場を混乱させれば、

次の飢餓で死人が出る」


 


 レインは静かに言う。


 


「だから潰す」


 


「貴様……!」


 


 男が怒鳴る。


 


 しかし。


 


 その時、

後ろでイヴァンが立ち上がった。


 


 重い音。


 


 片腕の巨体。


 


 空気が変わる。


 


「話終わりか?」


 


 低い声。


 


 商会男は顔を引き攣らせた。


 


     ◇


 


 その夜。


 


 灰燕はさらに動く。


 


 配送再編。


 


 不足区域優先供給。


 


 中継倉庫分散。


 


 価格固定。


 


 輸送路時間統一。


 


 レインは、

地図と帳簿だけで戦っていた。


 


 剣も魔法も使わない。


 


 だが。


 


 都市の命運を左右する戦争だった。


 


     ◇


 


「……怖ぇな」


 


 ラッカがぽつりと呟く。


 


 事務室中央。


 


 大量の数字を書き続けるレインを見る。


 


「何が?」


 


 ミレナが聞く。


 


「この人、

数字だけで都市動かしてる」


 


 冗談みたいな話。


 


 だが現実だった。


 


 食料。


 


 薬。


 


 燃料。


 


 全部、

運ばれなければ意味がない。


 


 つまり。


 


 物流を握る者が、

都市を握る。


 


     ◇


 


 深夜。


 


 市場通り。


 


 値札を書き換える店主達。


 


 安堵する市民。


 


 久しぶりに、

普通の値段でパンを買う母親。


 


 少しずつ。


 


 都市の呼吸が整い始めていた。


 


 一方その頃。


 


 潰された商会側では、

別の動きも始まっていた。


 


「……灰燕を放置するな」


 


 暗い部屋。


 


 誰かが低く呟く。


 


「辺境物流を、

あの男に握らせるな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ