第二十二話 新街道
最初に集まったのは、
腹を空かせた人間達だった。
灰燕運送ギルド
前広場。
朝早くから、
人が並んでいる。
難民。
失業者。
帰還兵。
痩せた顔。
疲れた目。
皆、
仕事を探していた。
◇
「本当に雇うのか?」
ラッカ
が小声で聞く。
広場の人数は、
予想より遥かに多い。
百人近い。
しかも状態が悪い。
栄養失調。
怪我。
まともな装備もない。
普通なら使い物にならない。
だが。
レイン・ヴァルト
は地図を見たまま答えた。
「人手は必要だ」
「いやでも、
街道工事って危険でしょ?」
「だから人数がいる」
淡々としている。
だがその視線の先には、
一本の線があった。
旧西部街道。
あの冬、
命懸けで越えた廃道。
今、
ドラクエラを支える唯一の物流路。
だが現状では、
あまりに脆い。
雪崩。
崩落。
魔物。
一つ事故が起きれば、
また都市が飢える。
だから。
作り直す必要があった。
◇
「作業内容を説明する」
広場前へ立ったのは、
イヴァンだった。
イヴァン
の低い声が響く。
「旧街道改修だ」
ざわめき。
誰もが知っている。
灰牙の森。
魔物領域。
死地。
「崩落処理」
「除雪」
「石畳修復」
「防壁設置」
イヴァンは続ける。
「危険だ。
死人も出るかもしれねぇ」
空気が重くなる。
だが。
「日給は払う」
その瞬間。
皆の目が変わった。
「食料配給付きだ」
沈黙。
誰かが唾を飲み込む。
今のドラクエラで、
仕事と食料は命だった。
◇
「救済じゃねぇ」
イヴァンが静かに言う。
「働いた分、
食って生きろ」
その言葉は冷たく聞こえる。
だが。
実際には逆だった。
ただ配るだけでは、
人は増え続ける。
街も持たない。
必要なのは。
生きる循環。
働き。
稼ぎ。
食う。
そういう仕組みだった。
◇
数日後。
旧街道工事が始まる。
地獄だった。
雪を掘る。
石を運ぶ。
崩れた道を繋ぐ。
寒い。
重い。
危険。
「うわっ!?」
突然、
斜面が崩れる。
悲鳴。
転落しかけた男を、
レインが引き戻した。
「足場見ろ」
「す、すまねぇ……」
男は震えていた。
元農民だった。
こんな仕事、
本来やる人間じゃない。
だが今は、
やるしかない。
◇
さらに問題は、
魔物だった。
夜。
森奥から遠吠えが響く。
皆、
顔色が変わる。
「来るぞ!!」
イヴァンが叫ぶ。
護衛隊が前へ出る。
雪狼。
灰毛猿。
森から赤い目が覗く。
工事現場は、
常に命懸けだった。
◇
それでも。
人は集まり続けた。
理由は単純。
ここには、
仕事があったからだ。
食えるからだ。
◇
昼休憩。
焚火周辺で、
作業員達がパンを齧っている。
「久しぶりだな、
働いて飯食うの」
誰かが笑う。
隣の男も苦笑した。
「最近まで盗み寸前だった」
「俺もだ」
乾いた笑い。
だが。
少しだけ、
空気が明るい。
ただ配給されるだけではない。
自分で働き、
自分で稼いだ飯。
それが、
人間を少し立たせる。
◇
夕方。
レインは改修された街道を見る。
まだ途中だ。
石畳は不完全。
防壁も足りない。
だが。
確実に道が出来始めている。
物流の道。
人が生きる道。
その横で。
難民達が、
明日の作業確認をしていた。
帰還兵が、
護衛配置を相談している。
子供達が、
運搬の真似をして遊んでいる。
少しずつ。
本当に少しずつ。
都市が、
立ち直り始めていた。




