表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/114

第十四話 飢える街

 最初に消えたのは、

パンだった。


 


「……売り切れ?」


 


 朝の市場。


 


 主婦が呆然と立ち尽くす。


 


 棚には何もない。


 


 いつも山積みだった黒パンが、

一つも残っていなかった。


 


「昨日のうちに全部出たよ」


 


 店主が疲れた顔で言う。


 


「次はいつ入るんだ!?」


 


「知らねぇよ!

こっちだって入荷来てねぇんだ!」


 


 怒鳴り声。


 


 周囲でも似たようなやり取りが起きている。


 


 干し肉。


 塩。


 薬草。


 


 何もかも足りない。


 


     ◇


 


 原因は明白だった。


 


 主要街道封鎖。


 


 北街道壊滅。


 東側橋梁崩落。


 南補給路襲撃。


 


 魔王軍遊撃隊と冬嵐が、

物流を叩き潰していた。


 


 そして。


 


 

自由都市群ドラクエラ

は物流都市だ。


 


 運ばれてこなければ、

都市そのものが死ぬ。


 


     ◇


 


 

灰燕運送ギルド

の事務室。


 


 空気は最悪だった。


 


「在庫確認!!」


 


 

ダグラス

が怒鳴る。


 


「保存食七日分!」

「いや六日切ります!」

「薬品在庫三割以下!!」


 


「他ギルドは!?」


 


「輸送停止だそうです!」


 


 舌打ち。


 


 誰も顔色が良くない。


 


 物流が止まる。


 


 それはつまり。


 


 街が飢えるということだ。


 


     ◇


 


 三日後。


 


 市場価格は倍になった。


 


 更に翌日、

三倍。


 


 人々の目つきが変わる。


 


「全部買っとけ!!」

「今のうちだ!!」


 


 買い占め。


 


 袋を抱え、

人々が走る。


 


 余裕のある者は、

食料を倉庫へ隠した。


 


 余裕のない者は、

奪われる側になった。


 


     ◇


 


 夜。


 


 南区画で暴動が起きた。


 


「食わせろ!!」

「隠してるんだろ!!」


 


 群衆が商店へ押し寄せる。


 


 窓ガラス破壊。


 


 商品強奪。


 


 悲鳴。


 


 警備兵が駆け込む。


 


「下がれ!!」

「鎮圧しろ!!」


 


 怒号。


 


 殴打音。


 


 誰かが倒れる。


 


 子供が泣く。


 


 辺境の秩序は薄い。


 


 飢えれば、

簡単に壊れる。


 


     ◇


 


「また倉庫襲撃だ!」


 


 灰燕ギルドにも報告が飛び込む。


 


「北側保存庫、

略奪未遂!!」


 


「怪我人は!?」


 


「警備が二人やられました!」


 


 ダグラスが机を叩く。


 


「クソが……!」


 


 皆、

疲弊していた。


 


 街全体が、

少しずつ壊れていく。


 


     ◇


 


 その中で。


 


 

レイン・ヴァルト

だけが静かだった。


 


 事務室の隅。


 


 地図を広げ、

何かを書き込んでいる。


 


「……レイン」


 


 

イヴァン

が声をかける。


 


「聞いてるか?

街かなりヤバいぞ」


 


「知ってる」


 


「なら――」


 


「まだ終わってない」


 


 レインは地図から目を離さない。


 


 その視線は、

古びた山岳地図へ向いていた。


 


 普通なら使わない。


 


 百年以上前の旧街道図。


 


 消えた物流路。


 


 誰も気にしない紙切れ。


 


 だが。


 


 レインだけは見ていた。


 


 生き残れる可能性を。


 


     ◇


 


 窓の外。


 


 夜のドラクエラでは、

まだ怒鳴り声が響いている。


 


 飢え。


 恐怖。


 焦燥。


 


 都市が、

ゆっくり壊れていく音だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ