表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/120

第百十八話 それでも

 火が、

小さく揺れていた。


 


     ◇


 


 崩壊した地下区画。


 


 外では、

灰混じりの風が吹いている。


 


     ◇


 


 

ヴェルガ

は、

静かに壁へ寄りかかっていた。


 


     ◇


 


 呼吸は弱い。


 


 もう、

時間は残っていない。


 


     ◇


 


 それでも。


 


 その目だけは、

まだレインを見ていた。


 


     ◇


 


「お前は、

まだ人を信じるのか」


 


     ◇


 


 掠れた声。


 


 責める響きではない。


 


     ◇


 


 純粋な問いだった。


 


     ◇


 


 

レイン・ヴァルト

は、

少しだけ考える。


 


     ◇


 


 長い時間だった。


 


 戦争。


 


 飢餓。


 


 崩壊。


 


 絶望。


 


     ◇


 


 人の醜さも、

何度も見た。


 


     ◇


 


 奪い合い。


 


 見捨てる者。


 


 腐敗。


 


 狂気。


 


     ◇


 


 理想だけでは、

誰も生きられないことも知っている。


 


     ◇


 


 だから。


 


 昔みたいに、

綺麗事では返さなかった。


 


     ◇


 


 レインは、

静かに口を開く。


 


     ◇


 


「……また壊れると思う」


 


     ◇


 


 ヴェルガは、

黙って聞いている。


 


     ◇


 


「争いも無くならない」


 


「人はまた、

間違える」


 


     ◇


 


「多分、

何度でも」


 


     ◇


 


 否定しない。


 


 否定できない。


 


     ◇


 


 全部、

見てきたからだ。


 


     ◇


 


 レインは、

ゆっくり火を見る。


 


     ◇


 


 小さな炎。


 


 今にも消えそうな灯火。


 


     ◇


 


 それでも。


 


 誰かが薪を足せば、

また燃える。


 


     ◇


 


 レインは、

静かに続けた。


 


     ◇


 


「でも」


 


     ◇


 


「飯を作って」


 


「誰かを待つ人間がいる限り」


 


     ◇


 


「世界は終わらない」


 


     ◇


 


 ヴェルガの目が、

僅かに揺れる。


 


     ◇


 


 レインは、

もう前だけを見ていた。


 


     ◇


 


「大したことじゃない」


 


「英雄でもない」


 


     ◇


 


「畑を耕す奴がいる」


 


「道を直す奴がいる」


 


「帰りを待つ奴がいる」


 


     ◇


 


「それを、

何回でも繰り返す」


 


     ◇


 


 火の音。


 


 静かな地下室。


 


     ◇


 


「壊れても」


 


「また作る」


 


     ◇


 


「多分、

人間ってそれしか出来ない」


 


     ◇


 


 ヴェルガは、

長く黙っていた。


 


     ◇


 


 やがて。


 


 小さく息を吐く。


 


     ◇


 


「……愚かだな」


 


     ◇


 


 その声には、

もう冷笑は無かった。


 


     ◇


 


 レインは、

少しだけ笑う。


 


     ◇


 


「あぁ」


 


     ◇


 


「でも、

それで続いてきた」


 


     ◇


 


 沈黙。


 


     ◇


 


 長い長い沈黙。


 


     ◇


 


 そして。


 


 ヴェルガは、

ゆっくり目を閉じた。


 


     ◇


 


 かつて世界を管理しようとした男。


 


 人類を否定した支配者。


 


     ◇


 


 その最後は、

静かだった。


 


     ◇


 


 怒りも。


 


 憎しみも。


 


 無かった。


 


     ◇


 


 ただ。


 


 遠い場所を見るような、

穏やかな顔だった。


 


     ◇


 


 火が揺れる。


 


 灰が舞う。


 


     ◇


 


 レインは、

しばらくその場を動かなかった。


 


     ◇


 


 敵だった男。


 


 理解できなかった男。


 


 でも。


 


 最後には、

少しだけ分かり合えた気がした。


 


     ◇


 


 やがて。


 


 レインは静かに立ち上がる。


 


     ◇


 


 崩壊した地下区画を後にし。


 


 地上へ出る。


 


     ◇


 


 空はまだ灰色だった。


 


 でも。


 


 雲の向こうに、

薄く光が差していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ