第百十五話 待つ人
昼過ぎの駅舎は、
少し騒がしかった。
◇
蒸気機関車が、
ゆっくりホームへ入ってくる。
白い蒸気。
軋む車輪。
長い汽笛。
◇
列車が止まる前から。
ホームには、
大勢の人が集まっていた。
◇
商人。
家族。
子供。
老人。
◇
みんな、
同じ方向を見ている。
◇
列車。
帰ってくる人達を。
◇
「父ちゃん!」
◇
扉が開く。
荷物を抱えた男へ、
小さな少女が飛びついた。
◇
「おぉ、
大きくなったな」
◇
男は、
ぎこちなく笑う。
長距離商隊の護衛だった。
半年ぶりの帰還。
◇
少し離れた場所では。
一人の老婆が、
不安そうに乗客を見ていた。
◇
やがて。
若い女性が、
列車から降りてくる。
◇
「母さん」
◇
老婆の顔が、
崩れるように笑った。
◇
「生きてた……」
◇
抱き合う二人。
泣き声。
◇
戦争の頃なら。
“帰ってくる”なんて、
当たり前じゃなかった。
◇
出発は、
そのまま別れだった。
◇
だから今。
帰還は奇跡に近い。
◇
駅舎窓口では、
手紙整理が行われていた。
◇
「南部農業区行き!」
「北街道中継隊宛!」
◇
束になった封書。
配送待ちの荷袋。
◇
内容は、
どれも小さい。
◇
無事だ。
今年は種が育った。
来月帰る。
風邪を引くな。
◇
そんな、
生活の言葉。
◇
でも。
それが途切れないことが、
今の世界では大事だった。
◇
夕方。
西方商隊が到着する。
◇
馬車列。
積荷。
疲れた旅人達。
◇
ホームで待っていた人々が、
一斉に立ち上がる。
◇
「兄ちゃん!」
「帰ってきた!」
◇
抱き合う家族。
泣く子供。
笑う商人。
◇
その光景を。
レイン・ヴァルト
は、
駅舎二階の窓から見ていた。
◇
隣で、
ノア
が呟く。
◇
「駅ってさ」
「待つ場所なんだね」
◇
レインは、
少しだけ考える。
◇
戦争中。
駅は違った。
避難。
負傷兵。
飢餓。
絶望。
◇
誰も、
未来を待っていなかった。
◇
だが今。
人々は待っている。
◇
帰ってくる人を。
荷物を。
手紙を。
明日を。
◇
レインは、
静かに言った。
◇
「文明ってのは」
「多分、
誰かが帰ってくる前提で出来てる」
◇
ノアが、
黙って聞く。
◇
「道も」
「駅も」
「家も」
◇
「全部、
帰る場所があるって信じてるから作るんだ」
◇
ホームでは。
また一つ、
再会の声が上がる。
◇
夕陽が、
駅舎を赤く染めていた。
◇
その光景を見ながら。
レインは、
小さく息を吐く。
◇
世界はまだ、
完全じゃない。
壊れた場所も多い。
◇
でも。
人が誰かを待てるなら。
きっと、
まだ終わってはいないのだと思えた。




