表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を救ったのは勇者ではなく補給だった  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/120

第百十三話 残された灰

 その森には。


 


 鳥の声が無かった。


 


     ◇


 


 風だけが吹いている。


 


 灰を巻き上げながら。


 


     ◇


 


 旧中央汚染地帯。


 


 かつて、

大規模決戦が行われた場所。


 


     ◇


 


 今もなお。


 


 人の立ち入りは禁止されている。


 


     ◇


 


 空は暗い。


 


 昼なのに薄曇り。


 


 地面には、

灰色の粉雪のような沈殿物。


 


     ◇


 


 木々は、

半分石化していた。


 


     ◇


 


 葉は無い。


 


 枝は黒く捻じれ。


 


 幹には、

魔力侵食の亀裂が走っている。


 


     ◇


 


 灰化森林。


 


 戦後、

そう呼ばれるようになった場所だった。


 


     ◇


 


 

レイン・ヴァルト

は、

調査隊と共に森を進む。


 


     ◇


 


「濃度上昇してる」


 


「長時間滞在危険」


 


     ◇


 


 技師が、

測定器を見ながら言う。


 


     ◇


 


 昔よりマシだ。


 


 だが、

安全ではない。


 


     ◇


 


 森を抜ける。


 


 その先に、

都市が現れた。


 


     ◇


 


 無人都市。


 


     ◇


 


 崩れた石造建築。


 


 窓の割れた集合住宅。


 


 止まった時計塔。


 


     ◇


 


 通りには、

誰もいない。


 


     ◇


 


 市場跡には、

風が吹き抜けるだけ。


 


     ◇


 


 かつてここには、

数万人が暮らしていた。


 


 笑い声もあった。


 


 生活もあった。


 


     ◇


 


 今はもう、

何も残っていない。


 


     ◇


 


 隊員の一人が、

小さく呟く。


 


     ◇


 


「……街が死んでる」


 


     ◇


 


 レインは、

答えなかった。


 


     ◇


 


 その時。


 


 遠くで、

低い唸り声が響く。


 


     ◇


 


 全員が武器へ手をかけた。


 


     ◇


 


 瓦礫の奥。


 


 そこから現れたのは、

異形の獣だった。


 


     ◇


 


 狼に似ている。


 


 だが。


 


 皮膚は灰色に硬化し。


 


 眼球は赤く濁り。


 


 背中から、

黒い結晶が突き出している。


 


     ◇


 


 変異魔獣。


 


 汚染地帯特有の生物。


 


     ◇


 


 かつての戦争が、

生態系そのものを変えてしまった証。


 


     ◇


 


 魔獣は、

しばらくこちらを見る。


 


 だが。


 


 襲ってこなかった。


 


     ◇


 


 静かに、

瓦礫の奥へ消えていく。


 


     ◇


 


 誰も追わない。


 


     ◇


 


 レインは、

崩れた街を見渡した。


 


     ◇


 


 春は来ている。


 


 街道も戻り始めた。


 


 市場も復活している。


 


     ◇


 


 でも。


 


 全部が戻る訳じゃない。


 


     ◇


 


 失われた都市。


 


 壊れた自然。


 


 変わってしまった世界。


 


     ◇


 


 戦争の跡は、

消えない。


 


     ◇


 


 同行していた若い調査員が、

ぽつりと言う。


 


     ◇


 


「いつか、

元に戻るんですかね」


 


     ◇


 


 レインは、

少しだけ考えた。


 


     ◇


 


 昔の世界。


 


 青い空。


 


 平和だった街。


 


 壊れる前の景色。


 


     ◇


 


 そして。


 


 静かに首を横へ振る。


 


     ◇


 


「……戻らない」


 


     ◇


 


 調査員が、

目を伏せる。


 


     ◇


 


 だが。


 


 レインは続けた。


 


     ◇


 


「傷は残る」


 


「消えないものもある」


 


     ◇


 


「でも、

残った世界で生きることはできる」


 


     ◇


 


 風が吹く。


 


 灰が舞う。


 


     ◇


 


 死んだ都市の向こう。


 


 遠くの地平線には。


 


 小さく、

新しい街道の灯火が見えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ