第百十二話 繋がる街道
春の街道を。
一台の馬車が走っていた。
◇
荷台には、
乾燥果実。
保存肉。
布材。
農具。
◇
御者席の男が、
何度も前を見る。
◇
「本当に通れるんだな……」
◇
感嘆のような声だった。
◇
かつて。
この道は、
世界を繋ぐ大陸横断街道だった。
◇
だが戦争で崩壊。
橋は落ち。
駅舎は焼け。
街道は魔獣と灰雪に埋もれた。
◇
長い間。
誰も、
遠距離移動など考えなかった。
◇
生き残るだけで、
精一杯だったからだ。
◇
しかし今。
その街道が、
少しずつ戻り始めていた。
◇
丘の先。
補修済みの石橋。
◇
橋脚には、
新しい補強材。
側面には、
灰燕の輸送標識。
◇
橋を渡る馬車列。
人。
荷物。
家畜。
◇
流れが戻っている。
◇
途中の中継駅舎では、
煙が上がっていた。
◇
駅員達が、
積荷確認をしている。
◇
「北行き荷物こっち!」
「燃料樽、
後方車両へ回せ!」
◇
忙しい。
だが。
この忙しさは、
崩壊ではなく循環の音だった。
◇
街道脇。
道路補修隊が、
砕石を運んでいる。
◇
「こっち埋めろ!」
「雨季前に固めるぞ!」
◇
元兵士。
元難民。
若い技師。
◇
様々な人間が、
黙々と道を直している。
◇
その先には。
新しく建てられた灯火標識。
◇
夜間街道用の導灯。
かつて失われた、
旅人の目印。
◇
夕暮れになると、
一つずつ火が灯る。
◇
ぽつり。
ぽつり。
長い街道へ、
灯りが繋がっていく。
◇
まるで。
世界そのものへ、
血が戻っていくみたいだった。
◇
レイン・ヴァルト
は、
街道沿いの高台からそれを見ていた。
◇
隣には、
イヴァン
が立っている。
◇
「随分戻ったな」
◇
イヴァンが言う。
◇
「前は、
誰も外なんか歩かなかった」
◇
「あぁ」
◇
戦後直後。
街道は死だった。
凍死。
略奪。
飢餓。
魔獣。
◇
人は閉じこもり。
地域は孤立した。
◇
だが今。
また、
人が行き来している。
◇
遠い土地の話が届く。
物資が届く。
手紙が届く。
人が帰ってくる。
◇
レインは、
ゆっくり街道を見渡した。
◇
商隊列。
補修隊。
中継駅。
灯火。
歩く旅人。
◇
それは単なる道路じゃない。
◇
切断された世界を。
もう一度、
繋ぎ直すための血管だった。
◇
イヴァンが、
ふと笑う。
◇
「世界ってさ」
「案外、
道から戻るんだな」
◇
レインは、
静かに頷いた。
◇
王が世界を作るんじゃない。
英雄でもない。
◇
人が歩く。
荷が流れる。
誰かが待っている。
◇
その繰り返しで。
世界はまた、
繋がっていく。
◇
夕暮れの街道。
灯火標識が、
遠くまで続いていた。




