第百十話 育った子供達
朝の駅舎は騒がしい。
汽笛。
荷車の軋み。
怒鳴り声。
笑い声。
◇
ローデン中継駅。
かつて戦争物流の要だった辺境駅舎は、
今では小さな都市の中心になっていた。
◇
「北線、
出発五分前!」
「積荷固定急げ!」
◇
ホームを、
一人の若い女性が走っていく。
濃紺の制服。
制帽。
腰には時刻板。
◇
「第三貨車確認!」
「客車連結完了です!」
◇
新人車掌。
名前はミナ。
◇
十年前。
避難所で泣いていた孤児だった。
◇
今は、
毎日列車を動かしている。
◇
機関区では。
一人の青年技師が、
蒸気炉を叩いていた。
◇
「圧力弁交換!」
「このままだとまた止まるぞ!」
◇
煤だらけの顔。
油に汚れた手。
◇
彼もまた、
元孤児だった。
◇
戦後、
何も持っていなかった少年。
だが今は、
鉄道を維持する技師になっている。
◇
駅舎隣の学習棟。
木造の簡素な教室。
◇
中では、
若い教師が子供達へ文字を教えていた。
◇
「“道”はこう書く」
「人が通るから、
道になる」
◇
黒板へ文字を書く手は、
まだ少し不慣れだ。
◇
だが。
その教師も、
昔は字を読めなかった。
◇
避難民孤児。
食べることだけで精一杯だった子供。
◇
それが今。
別の子供へ、
文字を教えている。
◇
南部再生農地。
若い農業主任が、
畑を見回っていた。
◇
「浄化土、
東側優先!」
「水路確認忘れるな!」
◇
以前なら。
こんな若者へ、
農地管理を任せる者はいなかった。
◇
だが。
戦争後の世界には、
“家柄”より必要なものがあった。
◇
生きる力。
維持する力。
◇
そして。
支える意志。
◇
ノア
は、
教室の外からその様子を見ていた。
◇
昔。
地図を抱えて震えていた少年。
誰より、
“生き残る方法”を知りたがっていた子供。
◇
その彼が。
今では、
大勢の子供達へ知識を繋いでいる。
◇
隣へ来た
レイン・ヴァルト
が言う。
◇
「随分増えたな」
◇
ノアは、
少し笑った。
◇
「……うん」
「みんな、
大きくなった」
◇
視線の先。
働く若者達。
笑う子供達。
走る列車。
◇
あの冬。
死にかけていた子供達だった。
◇
だが今。
誰かを支える側へ回っている。
◇
ノアは、
静かに呟く。
◇
「助けられた人ってさ」
「そのまま終わる訳じゃないんだね」
◇
レインは、
ホームを見る。
◇
荷を運ぶ元孤児。
切符を確認する元孤児。
畑を守る元孤児。
教える元孤児。
◇
世界は、
まだ壊れている。
でも。
壊れた世界の中で。
次の支え手は、
ちゃんと育っていた。
◇
レインは、
小さく頷く。
◇
救われた側が。
今度は、
誰かを生かしている。
◇
それがきっと。
文明が続くということだった。




