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臆病な僕と、リングの約束 ーAパート 放課後サイドー  作者: 叶畑シュウ
第一章

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第三十一話 ふたりのあいだで②

 二日目の朝、ユキは「昨日よりはマシ……たぶん」と自分に言い聞かせながら家を出た。

 一歩ごとに、腿とわき腹がぎしぎし言う。

 日曜の昼にはピークを越えたはずの筋肉痛が、まだしぶとく居座っていた。


(これで学校まで歩くのかぁ……)


 そう思いながら、いつもの通学路をよろよろ進んでいくと、角を曲がった先に見慣れた制服のブレザー。


「……ライ?」


 振り向いたライが、ほっとしたように笑った。


「迎えにきたとこ」


 さらっと言って、ユキの手からカバンをひょいと取る。


「完全に運動初心者なんだよなぁ。無理そうだったら、途中で引き返すから」


 からかうような言い方だけど、カバンの持ち手を握る手つきは優しい。

 ライは歩幅をユキに合わせてくれる。いつものスピードの七割くらいのゆっくりしたペース。


 校門が見えてくるころには、さすがにユキの息も上がっていた。


「はぁ……はぁ……」

「ほら、もうちょい。あと十メートル」

「マラソンみたいに言わないで……」


 そんなやりとりをしていると、校門の脇に、ひとり制服姿の一年が立っているのが見えた。

 肩に鞄をかけて、手には紙袋をぶらさげて、門の向こうをぼんやり眺めている見慣れた横顔。


「……雨宮」


 ライが小さくつぶやく。ユキに気づいたレンの顔が、ぱっと明るくなる。


「あ、ユキ先――」


 そこまで言って、隣にライがいるのに気づく。表情が、そのままスッと渋いものに変わった。


「……おはようございます、副会長」

「おう」


 ライも短く返す。その声は、日曜の家の中でのものより少し硬い。ユキは二人の間に挟まれて、妙に居心地が悪い。


「レン、おはよ……」

「おはようございます。なんか、顔色よくないっすけど」

「ちょっと、筋肉痛」


 表情が曇ったレンに、ユキは慌てて「平気だよ」と微笑みかける。ライが、すかさずレンのほうを見る。

 

「お前、やりすぎ」


 淡々とした口調。

 

「……強く当ててはないっすよ」


 レンは一応、言い返す。でもその声にも、どこか力がない。ライはため息をついた。


「強くじゃなくても、慣れてないやつには十分くるんだよ」


 ライはそう言ってから、ユキのほうを見る。

 まだ少しぎこちない足取り。階段を見るだけで辛そうな顔。


「ユキのこと、一番わかってんの、俺だから」


 レンのほうに視線を戻す。目がまっすぐにぶつかる距離。その言い方に、レンの眉がぴくっと動く。

 

「……幼なじみ、特権アピールっすか」

「そう。幼なじみなめんな」

 

 にやり、とライは笑った。王子様みたいな笑顔じゃなくて、すこし意地悪な顔。

 

 レンは「あー、だる」と空を見上げる。

 ユキは、二人の間でおろおろしながらも――胸のどこかが、少しだけあたたかくなるのを感じていた。


(ライも、レンも)


 見ている景色は違う。守り方も、殴り方も、全然違う。

 それでも、二人とも、自分のことを気にかけてくれているという事実だけは、筋肉痛の身体にじわじわと染みていった。

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