秘事
船から降りて吸った空気はとても美味しくなかった。
いかにマーリアの空気が汚いかがわかる。
魔動機を使うとどうしても廃棄物が出る。
それは空気を汚染したり土や植物に影響を出したり…しまいには人間にも影響を出すこともある。
「なんか久々に帰ってきましたね。ここどこら辺なのかな?」
小さな港に降ろしてもらったので現在地がわからない。
ちゃんとした港に降ろしてもらいたかったが…まぁ、それでも感謝だ。
「街の人に聞いたらマーリア最北端の村だって」
ライルさんの疑問にエリウスさんが答える。
僕たちは地図を広げて位置を確認した。
「…すごい上だな」
ドバルが驚いて言う。
ダイチさんのいた病院がある街からず~っと上にある場所だった。
少し冷たい風が吹いていて、都会に比べるとまだ森林が見える。
でもところどころにある機械が目に入るのはここがマーリアだという証なのかもしれない。
「とりあえずこの村で休みませんか?海での戦いで消耗した体力も回復しないと」
「そうだな」
僕たちは村にあった小さな宿へとお邪魔した。
部屋が一部屋しかなく、皆で雑魚寝することになった。
疲れがたまっていたので今日は皆がすぐに布団に入った。
……………。
(これよりプライバーシー保護のため音声のみでお送りいたします)
「ねぇ、あんたどうなのよ」
「何が?」
「エリウスの事よ、好きなんでしょ?」
「ばっ!何言ってんだよっ!!心臓に悪い…」
「図星ね♪まぁ、見てりゃぁすぐわかるけど」
「…そんなに?」
「ええ。馬鹿でもわかるわよ。意外にも顔や態度に出やすいタイプなのね」
「まじかよ。あーお前にだけは見つかりたくなかった!」
「ちょっと、それどういう意味よ!」
「だってお前に知られたらぜってぇちょされて面倒なことになるもん」
「今がそうだっていうのかしら?」
「う~ん、まぁ。予想よりはいいけど」
「あっそ。でも私としてはあんたがあいつの事を好きでいてくれることはありがたいことなんだけど?」
「…ラズの事好きだから?」
「わかってるなら話は早いわ♪ラズ様との間にあいつがいっつ~も入ってきて邪魔をするのよ!ホント憎たらしいっ!!」
「といいながらもかなり仲いいと思うんだけど」
「あ゛?何か言った?」
「いいえ、何も。で、それがなんだって?」
「あんたとエリウスがくっつけるように協力してあげるから頑張ってよ」
「…また直球で来たな。おまえとしたらラズと付き合えるから一石二鳥ってこと?」
「そういうこと~♪ね、悪くないでしょ」
「う~ん、でもそれはラズに申し訳ないよ」
「どうしてよ。このままだとラズ様とあのピンクがくっついちゃうかもしれないのよ?私が許さないっ!!」
「ラズはエリウスと仲いいし、きっとラズも俺と同じ気持ちをエリウスに対して持ってると思うんだよ。それなら正々堂々と戦うべきだと思わねぇ?」
「私、あんたがそんなに古臭い人間だと思わなかったわ」
「失敬な!でもそういうことだから俺はお前に手を貸せませ~ん。はい、終わりっ!おやすみな」
「無理やりまとめたわね!…いいわよ、また今度別な案持っていくわ。ラズ様が嫌がることはしたくないもの」
「…偉い、偉い」
「こ、子供扱いしないでくれるっ!?」
「いいじゃん、したかったんだもん。ほら寝るぞ」
「…馬鹿、あんたが私に優しくしてどうすんのよ」
「ん?」
「なんでもない、おやすみ」
「あいよー」
……………。
えーっと、なんで僕を間に挟んでこんな話をするんでしょう。
次の朝、僕たちは上から施設を破壊していくことにした。
のは、いいのだが…。
「施設の場所わかんないのはどうしょうもないよな」
とドバルに痛い所を突かれ僕たちは頭を抱えていた。
「今までどうやって施設を見つけていたんですか?」
「ただひたすら人気のないところを歩いて見つけたり、少しだけ感じる星水で見つけてました」
「すごいですね…!」
ライルさんが僕の答えを聞いて目を丸くした。
「じゃぁ、それで見つけてけばいいんじゃないの?」
「先は遠そうだけど確実だよね。旅しているうちにいい方法思いつくかもしれないし♪」
というメリッサさんとエリウスさんの意見で話はまとまった。
…昨日の会話の事は黙っておこう。
「決まったな。出発しよう」
森の中を歩くこと数時間。
施設は見つからないし、しまいには迷ったしで皆は疲れ切っていた。
「なかなか見つからないね、施設も出口も」
「あー、ドバル疲れた。おんぶして」
ライルさんは歩き疲れてラインさんに交換した。
でも肉体的疲労は引き継がれるらしく流石のラインさんもへばっていた。
「おんぶか?いいぞー」
「やったぁ!!」
ラインさんは物凄い勢いでジャンプしてドバルの背中に飛びついた。
それを上手くキャッチしてドバルは歩きだした。
元気だな、ドバルは…。
「…あのさ、ラズ」
「どうした?」
僕の隣ではダイチさんとラズさんが会話をしている。
「俺さ、エリウスの事…好きなんだよ」
「…それで?」
ラズさんはいつものように言った。
「ラズがどう思ってるのか知りたい。俺は小学の時にあいつに会ってなかったら今みたいに外に出れなかったし、人と話をする楽しさとか学べなかったと思うんだ…。俺は戦えないけど心の支えにはなれるつもり。だから…」
「ダイチの気持ちはよくわかった。…というかメリッサがやたらとダイチとエリウスがお似合いだと言うからなんとなくそうだろうと思っていた」
「…あの野郎」
ダイチさんが遠くでエリウスさんと話をしているメリッサさんを睨んだ。
「俺もいつかお前に言わなければと思っていたんだ。ダイチ、お前はとても誠実な奴だ…だから待って欲しいんだ。エリウスの事はまだ守っていたいと思うんだ。初めて会ったあの時からずっと。できればこの先も」
「やっぱりエリウスのこと好きなんだな」
「好きという気持ちは俺にはよくわからない。メリッサのようになるものではないということぐらいは知っているが…」
そして二人でメリッサさんを見る。
「…!!ラズ様の視線を感じるっ」
といって彼女が振り返った時には二人は目を木の方に向けていた。
「危ねぇ~。ああいうのは手がつけられねぇよ。厄介なもんに捕まったな、ラズも…」
「言うな」
酷いことを言われて…。
「で、話戻すけど…ラズはエリウスのこと好きなんだよ!いや、自分でこういうのもちょっと抵抗あるけど絶対にそう!」
「はぁ」
「ラズが待って欲しい、って言ってくれた時は嬉しかった。俺もそう言おうと思ってたから…」
ダイチさんとラズさんは顔を見合わせた。
「この旅が終わってゆっくりできるようになるまではこの勝負はお預けでいいよな?どちらかが先にエリウスに告白することは無しで」
「ああ。もちろんだ。それにエリウスが一生懸命になっているのは邪魔したくない」
「そうだな俺も同意。あのさ、仮にもライバルにこういうのもどうかと思うけどエリウスの事、守ってくれる?悔しいけど俺は何もできないから…」
「もちろんだ。俺の望みでもあるからな。…俺からのお願い聞いてくれるか?」
ダイチさんはきょとんとした顔でぎこちなく頷いた。
「もしあいつがくじけそうになったり、心が折れそうになった時はダイチが救ってやってくれないか?その点はダイチの方が長けていると思うからな」
「わかったよ。二人で守ろう。エリウスの悲しむ顔は見たくないしね」
「頼んだぞ。俺も全力でエリウスを守ろう!そしてダイチのことも。だからなるべく近くにいてくれ。まだまだ力不足だが特訓して二人を守れるようになる」
「ラズって本当にいい奴だね。ラズみたいなライバルができたことは俺の誇りだよ」
そう言ってダイチさんは右手をラズさんにさしだした。
そしてラズさんはダイチさんの手を右手でがっしりと握った。
「これから協力して共に行こう、ダイチ。だが負けないからな」
二人は顔を合わせて笑った。
「ねぇねぇ、何してるの~?」
そんな二人の所にふわっと来たのはエリウスさん。
「わっ、いきなりでビックリしたじゃん!」
ダイチさんとラズさんは手を離してエリウスさんを見た。
にこにこと笑っているエリウスさんを見て二人は笑った。
「え、どしたの?変な顔してた、私?」
「いいや、いつも通りだ」
「そうそう、いつもと変わらないよ」
「じゃぁ、何?」
二人の今までにない雰囲気にエリウスさんは首をかしげた。
「男同士の秘密ってやつだよ」
「大人の話だ。エリウスには早いな」
「ぶー、意地悪。それにダイチは私と同い年でしょ~!!」
「お、俺に言われても…」
3人はとても楽しそうに会話をし始めた。
それを見て僕も少しだけ羨ましいなと思った。
美しい友情というのはあ言うのを言うのだろう。
…でもまだ僕にはやるべきことがある。
「あんた、私をはめたでしょ」
「いいえ。僕にそんな高度な業ができると思いますか?」
そう、メリッサさんとの会話。
エリウスさんがずっと二人を気にしていたのを見ていたので僕がメリッサさんに声をかけたのだ。
「弟は危険視してなかったわ…まさかだもの」
メリッサさんは僕を睨んだ。
「危険視とかしないでください。僕はただメリッサさんとあれからゆっくりお話ししてないなぁと思って…」
「ふ~ん。ま、そういうことにしておいてあげる。私もジェリオスに聞きたいことあったのよ」
そう言うとメリッサさんは急に真面目な顔をして僕を見た。
「山で合ったフードの男女、あいつらが最後に言った言葉聞いた?」
僕にだけ聞こえるような声でひっそりと言った。
それに僕は頷いた。
「エリウスに聞いても聞こえてないって言うのよ」
少し悲しそうな表情でエリウスさんを見る。
ダイチさんとラズさんと楽しそうに話をしているエリウスさんの様子はいつもと同じだった。
「あんた施設であいつらに会ってないの?」
「施設では会ってませんよ。彼女達が入社したのは僕がいなくなってからみたいです。女性の方に一度聞いたことがあるんです。そういえば初めて彼女に会った時もエリウスさんは何か知っていたような顔をしていたし…関係性があるのは確かですね」
メリッサさんは腕を組んでため息をついた。
「大事なことを話してくれないから、あの子は」
「メリッサさんはエリウスさんについて何か知っていることってありますか?」
「あんたが知らないで知ってること、ねぇ。…あの子はラズ様が山で遭難しているのを助けてセリアファクト騎士団に入ったの。家族のこととか、なんで山に一人でいたのかとか聞いても一切教えてくれなくて。でも人当たりいいし、優しいでしょ?だから皆はすぐに打ち解けたわ。それに人間が使えない天空魔法を使えるんだもの、一時期は天使様だ~って騒がれたこともあったわね」
僕は自分の知っている情報とそれらを合わせた。
「一人でってことは山にご家族はいらっしゃらなかったんですよね?」
「たぶんね」
メリッサさんは首を傾げて言った。
ふとグズル国王が言っていたことが頭を過ぎった。
エリウスさんにはお姉さんとお兄さんがいると言う話し。
…でも、それは疑ってはいけない気がする。
「ま、とにかくエリウスの見張りは私に任せなさい。もしあいつがウジ虫の奴だったら私が対処するわ」
「そんなこと、言わないでくださいよ。エリウスさんは仲間なんですから」
僕がこぶしを強く握りしめながら言うとメリッサさんは笑った。
「それもそうね。私だってあいつのこと気に入ってるもの。できればそう言うことはしたくないわ…ならなきゃいいわね」
そう笑うメリッサさんの顔は曇って見えた。
しばらく歩くと少しずつ森が開けてきた。
風が僕達の間を優しく通り抜けて行く。
「ねぇ、何か音しない?」
ラインさんがドバルの背中から身を乗り出して音の出所を探る。
僕も同じように耳を傾けてみると確かに何か音がする。
「…あ、この音は!」
エリウスさんがとっても嬉しそうな顔で走りだした。
「皆、早く行こっ!」
「待って、一緒に行く~!!」
ラインさんもドバルの背中から飛び降りてエリウスさんに続いた。
ドバルがそれを追いかける。
残った僕たちは顔を見合わせて後をついて行った。
走ること数分。
森の出口に僕たちはたどりついた。
そしてそこにはとても綺麗な風景が待っていた。
「おー、すっげー!!」
ドバルが目を輝かせてあたりを見た。
そこはあたり一面青の世界。
白い砂浜に光り輝く海。
雲ひとつない空。
海は沢山見たけれどここまで綺麗なのは初めてだった。
「ねぇ、せっかくだから泳いで行こうよ。たまには遊ぼう、ね♪」
砂浜があるのはここの下。
今僕たちがいる場所は砂浜よりもずっと上にある場所だった。
エリウスさんは飛んで下へと降りて行った。
僕たちは斜面が緩やかになっているところを探して降りた。
「店まであるぞ!!」
「ホントだ~!」
ドバルとラインさんがカラフルな布のテントで出来た出店を見つけて走った。
お店まで出ているということはちゃんとした海水浴場なのだろう。
僕達がエリウスさんとドバルとラインさんの所に着くと、3人はお店のおじちゃんと仲良くなっていた。
「ジェリー、水着貸してくれるって!!」
「僕はいいですよ。皆さんだけでどうぞ」
水着って肌の露出激しすぎると思うんですけど。
そんなの着れないし、着たくない。
ドバルが僕の手をがっちり掴んだ。
「そういうなって。みんな着るんだからさ」
ダイチさんもラズさんも頷いた。
女性陣はもう水着選びをしている。
「いいですよ、僕は…」
ドバルは頬を膨らませた。
そんな顔されても無理なものは無理なんだよ…。
「じゃぁ、見るだけならいいだろ?」
「…仕方ないですね」
僕が諦めてそう言うとドバルは僕の手を握ったまま笑ってお店の中に入った。
僕も、みんなみたいに普通の人間だったらよかったのに…。
「ジェリー、それなんだよ」
僕が店から出るとドバルが目を丸くした。
「いや、それはこっちのセリフなんですけど」
ドバルは海パンに水中ゴーグルを目と頭につけていた。
目にはメガネタイプ、頭にはダイバータイプ。
「正直言って…ナンセンスです」
「わかってないな~。これで目に海水がはいって痛くなることないだろ?」
ドバルは二つのゴーグルを装着して胸を張った。
馬鹿か、お前は。
「人のこと言ってるけどジェリーもセンスねぇと思うぞ、俺は!」
僕は自分の服装を見た。
ちゃんと海パン穿いてるし…どこが悪いのか。
「あなたがどうしてもって言うから着たのに…僕は水着なんて着るつもりなかったんですよ?」
「それは水着とは言わないっ!」
ドバルは僕を指さした。
その指は僕の胸を指し示していた。
「パーカーに何かついてます?」
僕は着ていた長袖のパーカーを見た。
別に問題ないと思うんだけど…。
ドバルはゴーグルを頭に戻して僕のパーカーに触れた。
「海でなんで長袖なんだよ!ここ太陽当たって暖かいし着る必要ねぇじゃん」
僕はドバルの手を取って距離をとった。
「いいじゃないですか、僕の勝手でしょう?」
「泳ぐ気あるのかっ!?」
「ありません」
僕がはっきりと言うとドバルはしゅん、とした。
そんなに僕に泳がせたかったのか…。
「ドバル、僕の分まで沢山泳いできてくださいね。ここで皆さんの荷物を見てますから」
ビーチパラソルの下に敷いてあるシートの上には皆の武器や荷物が置いてある。
今、この砂浜には僕達とお店の人しかいないけど放置はよくない。
ドバルは複雑そうな顔をしていたがいつものように笑って言った。
「じゃぁ、行ってくるわ。見張り交換して欲しくなったら言えよ~」
「了解しました。ドバルが沈まないかここで見てます」
「沈むわけねぇしっ!!」
ドバルは軽く僕に手を挙げて海に向かって走って行った。
僕はそれを見て元気だなぁ、と思いながらシートの上に腰を下ろした。
ライルさんはピンクの可愛らしい水着を着て浮き輪をつけて海を漂っている。
麦わら帽子がとてもよく似合う。
エリウスさんとラズさんは仲良く砂浜を歩いていた。
何か話をしているらしく、二人とも楽しそうに笑っている。
ダイチさんは…ってあれ?
ダイチさんとメリッサさんが見当たらない。
どこに行っちゃったんだろう…。
なんだか嫌な予感がしたが、きっと気のせいだろう。
僕はバックから本を取り出して開いた。
セリアファクトで購入した本。
題名は『人間の体と心の関係性』。
「…波の音がとてもいい」
僕は本に目を通しながら海の波の音に耳を向けた。
こんなにも充実した時間を送っても罰は当たらないだろうか?
そうこうしているうちに時間は経ち、僕は裏表紙を閉じた。
顔をあげて少し背伸びをしてから立ち上がると皆の姿はなかった。
「…あれ?」
波の音だけが耳に残る。
慌てて隣に置いてあったはずの皆の荷物を見る。
それは変わらずそこにあった。
少し安心しながら僕は少し海の方に近づいた。
じーっと波の行き来をみる。
なんだか吸い込まれていくようなそんな感覚を覚えながら手で海水に触れてみる。
思っていたよりは冷たくなくて、むしろ気持ちよかった。
ここは北だから冷たいかと思っていたのだが…つい先日まで雪山にいたからだろうか。
「ジェリー」
後ろから声が聞こえて僕は振り返った。
「何やってんだ?」
「あ、ドバル」
髪をびしょびしょに濡らしてドバルは優しげに笑った。
僕は立ち上がって濡れた手をドバルに見せた。
「思っていたより暖かかった…」
そしてその手を払ってドバルの顔に海水をかけた。
「わっ!?」
ドバルは僕のいきなりの行動に後ずさりした。
まぁ、条件反射だから当然なんだけど…。
「な、なにすんだよっ!!」
そうとうびっくりしたようでドバルは僕に言った。
「…なんとなくやってみたかったので」
特に理由はない。
ただ、幼かった頃にドバルにこんなことをされた気がしたから。
僕もやってみたかったのかもしれない。
そんな僕の言葉にドバルは笑った。
「なんだそれ。ジェリオスらしくないな~。てっきり、ドバルが馬鹿っ面してたので…とかかと思ったのに」
「ドバルの馬鹿面はいつもですから」
「失礼なっ!!」
「自分で言ったのに失礼もないと思いますけど?」
「うっ…お、俺馬鹿だけど、いや馬鹿じゃないけど顔は普通だしな!てかジェリオスと俺の顔似てるんだからお前も馬鹿面だな!!ジェリーのばーか」
突然勝ち誇ったようにドバルは胸を反った。
「顔が馬鹿面でも頭は天と地の差だと思いますよ?」
「あ、頭の話は今してねぇし!ばかばかばか!!」
「子供ですね~」
僕は鼻で笑い、周りを見た。
「そういえば他の皆さんは?」
むっとしていたドバルがいつもの表情に戻って首をかしげた。
「わかんない。俺が泳いでたら皆いなかったんだよ」
「ライルさんと一緒じゃなかったんですか?」
「最初は一緒だったけど途中でラインに代わって魚捕ってくる!ってどっか行っちゃったんだよなぁ」
そういってドバルは僕の後ろに広がる海を見た。
僕も振り返って見るが泳いでる人影は見つけられない。
「まぁ、ラインさんなら大丈夫そうですけど」
「俺もそう思う」
二人で頷き向き合った。
「他の人はずっと会ってないぞー」
「メリッサさんとダイチさんはたぶんラズさんとエリウスさんの近くにいると思いますよ」
僕の推測にドバルが首をかしげた。
その答えは簡単。
「そんなに気にすることじゃないですよ」
「よくわかんないけど、ジェリオスが言うならいっか♪」
そんなでいいのか?と思いながら僕は再びビーチパラソルに向かった。
後ろからドバルが付いてくる。
「泳がないの?」
「ええ。最初にも言ったでしょう、泳ぐ気はないって」
僕が日陰に入り座るとドバルは僕の前に立った。
「せっかくの海なのに手をつけるだけか~?」
どうも僕が海を満喫していないように見えているらしい。
僕としては海の匂い、音、大洋…それと皆の笑顔を見れただけで満足だった。
「あれ、もしかして海に入ったことないのか?」
ドバルが僕に言う。
「まぁ、ないですけど…」
「怖くないぞ?そうだ、俺のゴーグル貸してやるよ!海の中綺麗だったぞ?」
そう言って頭についていたダイバータイプのゴーグルを手に取り、僕に渡した。
「いいです。泳ぐつもりはありません」
それでも僕がかたくなに断るとドバルはしゃがんで僕の顔をじーっと見た。
「泳げないのか」
「いいえ」
即答すると今度はがっかりした顔で口を尖らせた。
「じゃぁいいじゃん。一緒に海見ようぜ~」
「すみませんが僕は泳ぐ気ないので。ドバルが感想教えてくれればそれで十分ですよ」
僕なりに気を使って言葉を選んでみたのだがドバルは不満そうだった。
何でそこまでして海に入れたがるのか…。
「もう二度と海にこれなかったらどうすんだよ~」
「?ドバルにしては後ろ向きな言葉ですね」
「そうか?…別に深い意味はなかったんだけど」
「それならいいんですけど」
返事のあと、僕はドバルの後ろに目が行った。
そこには崖があったのだが5人の人影が見えた。
そして一人が今まさに崖から落ちそうになっているのだ。
僕は立ちあがると走りだした。
誰かは分からないがあの高さから落ちたら危ない。
それに4人がその一人を追いこんでるようにも見える。
「いきなりどうしたんだよ!」
ドバルが走る僕の横に並び言った。
無言で崖を指さすとそれに気づいたようで真剣な顔になった。
「俺、先に行くよ!!」
「頼みました!」
僕より足の速いドバルなら何かあっても間に合うかもしれない。
そんな後姿を見て何か違和感を覚えた。
なんだろう。
……あ、武器忘れてる。
崖の上では見知らぬ男性がそれぞれ木の棒を持ってダイチさんを見下ろしていた。
「ダイチ!!」
ドバルが肩で息をしながら名を呼ぶと目をうるうるさせたダイチさんが正義のヒーローの出現を喜んだ。
「仲間に何してんだよ!」
「お前、こいつの仲間か?」
4人が振り返りドバルを睨む。
水着を着ている彼らは見たところ一般人のようだけど…僕たち以外にも客が?
それにしても皆顔が怖い。
ダイチさんが怒らせるようなことをしたのだろうか?
やっと追い付いた僕が今にも殴り合いを始めそうな彼らとドバルの間に入る。
「いったい何があったんですか?」
僕が落ち着いて聞くと彼らのうちの一人がダイチさんを指さして言った。
「こいつが俺らの獲った魚や貝を盗んで隠しやがったんだよ!!」
「だから俺じゃないって!!」
ダイチさんがすぐさま言い返すと、うるせぇ!と怒鳴った。
正直僕は呆れた。
…そんなことで?
ウジ虫かと心配したのに、相手の怒りの原因は窃盗。
しかもダイチさんはしていないという。
彼は嘘つく人間じゃないので犯人はダイチさんではないことは確かだ。
まったく、そんなことで一人を4人でいたぶろうなんて…小学生か?
まぁ、思っていたより事は簡単に済みそうだ。
「本当に彼がやったんですか?確信は?」
僕が肩手を腰に当てて言うと彼は少し焦った顔をしながら言った。
「お、俺達が獲った物を入れたバケツが無くなってたんだよ…近くにこいつがいたからこいつしかいないだろ!?」
はぁ、理由もなんておこちゃまな。
僕は笑いたくなるのを我慢して言った。
「本当にダイチさんしかいなかったんですか?彼が窃盗をする所を誰か見たんですか?」
すると4人がごにょごにょと話し始めた。
「い、いや…女もいたような」
「女?」
ドバルが言うとダイチさんが少し困った表情で
「メリッサだと思う」
と小さな声で言った。
…メリッサさんが海産物を窃盗?
まさか、彼女は海産物なんて盗らない。
お金ならやりそうだけど。
「と、とにかく!!返してもらうからな!それが無理ならお金を用意しろっ!!!」
4人は最初の勢いを戻して言った。
あまりにも理不尽で一方的な要望。
流石のドバルも呆れているようで僕を見た。
「どうする?一発やるか?」
「いえ、ドバルが手を出すほどじゃないですよ」
僕が静かに前に出ると彼らは棒を構えた。
「そんなにやりたいなら相手してあげますよ?」
「え、偉そうに!悪いのはそっちだろ!!」
「証拠もないくせに、よく言いますね。一人を4人で脅し、過剰な請求をし、ダイチさんに怪我をさせたことの方が悪いと思いますけど…違います?」
僕が静かに首をかしげると彼らは目をそらした。
「あ、弱い犬ほど良く吠えるって言いますものね」
この言葉を聞いて彼らは怒りを爆発させて一斉に僕に殴りかかろうとした。
しかし木の棒は僕の前にある見えない壁に弾かれた。
「僕達の仲間を傷つけてなければ見逃してあげたのに…残念でしたね」
僕が表情を変えずに言うと彼らは真っ青な顔して後ずさりした。
「こ、こいつ…人間か!?」
「逃げ場ねぇぞっ!!」
僕は片手を上にあげた。
この人たちには魔法使うのすらもったいないけど…ダイチさんにつけた傷はやらなくては僕が納得いかなかった。
「この期に及んで謝罪もできない人の方が僕は人間じゃないと思いますね」
魔法を発動しようとした時、上から何かが落ちてきた。
「?」
その場にいた全員が上を見るとメリッサさんがなんとも言えない物凄い顔をしながら落ちてきた。
丁度僕と4人の間に不時着したメリッサさんはお尻を強打したようで痛そうに押さえている。
「ご、ごめん!!」
そしてもう一人上から降りてきたのはエリウスさん。
「…あんた、何してくてとんのじゃぁっ!!?」
メリッサさんは頭に角を生やしてエリウスさんにとっかかった。
「だ、だってメリッサが暴れるから悪いんだよ?」
「はぁ!?そもそもあんたが私を空に連れて行かなきゃよかったのよ!」
「歩くのめんどくさいって言ったのは誰さ~!」
二人は顔を近づけて言いあった。
えっと…何があったんだ?
皆がきょとんとしていると僕らの後ろから足音が聞こえた。
「追いついた」
そこにはラズさんとライルさんがいた。
ライルさんがメリッサさんと共に落ちてきた袋を拾った。
そして4人の前に小走りで行き、その袋を一人に手渡した。
「あ、あの…これ私達が獲ったものですけど差し上げます」
彼らはその袋を開くと目を輝かせた。
ライルさんはそれを見て安心したように笑った。
「なくしてたんですよね?」
「こ、こんなにいいのか」
「はい♪たくさん獲れたので。それに皆さんの獲ったやつが波にさらわれて無くなったの見てて可哀想だと思って…」
波にさらわれた…。
ライルさんが何げなく言った言葉に全ての真相が含まれていた。
ドバルが指をぽきぽきと鳴らしてライルさんの隣に並んだ。
「…ってことはダイチは全くの無関係ってことだな♪」
「す、すみま…」
彼らが謝る前にドバルは勢いよく4人に回し蹴りを喰らわせた。
その一発で彼らは意識をなくして倒れた。
「ド、ドバルっ!?」
隣のライルさんが慌てる。
「これでも手加減したんだけど…」
困った様子でドバルは僕を見た。
「いいんじゃないですか?少しきつめのお仕置きしておかなきゃまた同じことするかもしれないですし」
何もわかっていない4人に僕は説明をした。
そしてその間にダイチさんの傷(打撲とかすり傷)をエリウスさんが治癒魔法で直した。
「あんた、突然いなくなったと思ったらそんなことになってたのね」
メリッサさんがエリウスさんとの討論を忘れた様子でダイチさんの首に手を回して苦笑いした。
「まじ散々だった…。お前には振り回されるし濡れ衣着せられるしさ」
「振り回されるって共犯でしょ?」
「その一言で変な誤解を生みそうなんで俺やってないとしっかりお伝えしますわ」
「ダイチがいなくなったってメリッサから聞いて探したんだよ…無事でよかった」
エリウスさんが両手を胸元に当てて目を閉じた。
「心配してくれたの?」
ダイチさんがメリッサさんを見る。
するとメリッサさんはダイチさんから離れて腕を組んだ。
「は?別に心配とかしてないから!…作戦が一人じゃ実行できないから仕方なくよ。まぁ、作戦も台無しだけど」
「…ありがとな」
ダイチさんは苦笑いしてお礼を述べた。
しかし作戦って…なんだったのか。
「そろそろ冷えてきたな」
ラズさんが海風に髪を揺らしながら言った。
「そうだなー。流石に海パン一丁じゃ寒い」
ドバルが笑いながら言った。
「それじゃ下に戻って暖をとりましょう」
「賛成です♪」
僕が歩きだそうとした時、崖の先っぽに何か光るものを見つけた。
「あ、皆さん先に行っててください」
「ジェリオス?」
僕がそれを取りに行こう足を出した瞬間、倒れていた彼らの一人が寝返りを打った。
そして彼の手は見事に僕が踏み出した先に置かれ、僕は足をくじいて転んだ。
「あっ」
僕はドバルがいつも転ぶように両手を頭の上に突き出して転んだ。
「だ、大丈夫か?」
ドバルが動かない僕の肩に手を置いた。
地面が岩場だったのもあり全身が痛いし、こんなことで転ぶ自分が情けない。
それに…恥ずかしかった。
僕はさっと立ち上がり衣類に付いた土をほろい落とす。
手がジンジンする。
「…大丈夫です」
少しむっとしながらドバルに言うと、彼は僕の手から血が出ていることに気づいてエリウスさんを呼んだ。
「今治すね♪」
手のひらと膝の傷は暖かな光に包まれて元通りに治って行く。
「ジェリオスが転ぶって珍しいな」
「僕も久々に転びましたよ…不覚」
ドバルが心配そうに見てくる。
恥ずかしいという感情を除けば怪我も治してもらったし何も問題はなかった。
でも転んだだけなのに心配しすぎでは?
最近ドバルは僕の事を心配しすぎな気がする。
それは…嬉しいんだけど、僕はドバルの方が心配。
無茶して突っ込むし、自分の事より人の事を優先することも多々。
それに頭が緩いところもとても心配だ。
「まったく…」
「ん?何か言った?」
「いいえ、下に行きましょう」
僕は光るものを拾い上げてそれが何かも詳しく見ずポケットに入れて皆のあとをついて行った。
ドバルの事を皆以上に心配してしまうのは兄弟の証なんだろうか?
もしそうなら、お互いにそうだとしたなら僕たちは本当の兄弟になれるんだろうか。
今からでも、一緒に…。




