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第二話  説話

  ──あぁ…なんて最低な気分だ


 嫌でも蘇らせられるあの記憶。

 自分がまだこの力を手に入れていない無力の時代。

 自らにかけていた、頼りない無力への呪縛が鋭い光によって明滅される。

 人々によって排撃(はいげき)される誤った強さへの私欲は、なんとも粘り強く背中に張り付く。

 守れなかった者たちの声が、瀑布の如く頭に降り注ぐような感覚。

 強くなるなんて、言うのは簡単だが実際にやってればそれは儚いと直感的に悟ることができる。


 だが、もう変わった。

 変わったんだ。

 この力があれば、失わない。


 優しい光に包まれる気分、そして自分の全てが解放されるなんとも言えない高揚感。

 遠大(えんだい)な虚空に滞りなく注がれ、満たされる。


「こ、これは!!」


『チィッ!!  厄介な力を解放しやがったな!』


 あの時のような、渦巻く紫の奔流。

 その中には紅の瞳を輝かせ、こちらを見つめる鋭い双眸(そうぼう)

 秀でるようなその覇気は、まるで普通の人間と同列に語ることも、比況(ひきょう)することも不可能だ。



 反射的に酷く動揺を見せたアルタスは、足と比例しない手をなんとか伸ばしこちらに指をさす。


『テメェがここで挽回しても!  この最強の力を手に入れた俺に敵うわけねぇだろうがァァァァァァァ!!!』


 外見ではかなりまだ余裕な素顔を見せているが、本能では酷く半狂乱している様子がよく伺える。


 無謀にも近くにあった死体を投擲(とうてき)してきたり、火炎放射器でこちらを近づけまいと悪足掻きを繰り返してくる。

 戦闘機能は見られない、どうやら都市の人間を殺したのは、この機体ではないようだ。

 だが、ナーレは一切に容赦を露わにはしなかった。

 慈悲なくそのアルタスが搭乗する機体に、ゆっくりと重い足取りで近づく。


「貴様がどんなに最低な奴で卑劣なやつかはこの私が充分に理解している。だからアルタス、貴様にもっとも相応しい制裁を、この私がくれてやろう!」


 不敵な笑みを満面に浮かべながら、手に意識を集中し始めると、隣のビルの何層をも貫く光粒状の剣が、ナーレの両手に顕現した。

 それは英雄のエクスカリバーの如く、主神オーディンのグングニールの破壊力の如く、万物をも切り刻む勢いでそれは君臨する。


「こ、これはっ!」


『セントレション=アース!?  テメェ!?  どうやってここまで進化させ…」


 言いかけた瞬間、その二つの強大な力を持つ剣を躊躇なく振り下ろした。

 強圧的なその勢いは、辺りを豪風で包みこみ、地面に破壊の象徴のような巨大な亀裂が切り込まれ、ビルの残り窓は全て割れ、激しい振動が辺りを揺らした。

 その場にいた、あの大男でもその勢いに呑み込まれ、捲れた地面をなんとか両手で掴んで耐えていた。

 その反動で起こる天変地異のような現象は凄絶なものであり、周りは焼け野原の様に廃墟になってしまった。


「アルタス、愚かな人間よ」


 そういうと、まるで力を使い果たしたかのようにふらつき始める。

 疲れがドッと脳に押し寄せたのだろう。

 辺りにみえていた死体とビルの群落(ぐんらく)は、次第に朦朧とし、ぼやけだした。

 そして視界が等々闇に閉ざされると、ナーレはその場に崩れ落ちた。


 あぁ、これで終わった。

 もう何もすることなく安堵した生活を送ることができる。

 




「終わる訳ないー、君はバカかなー?」


 その声に意識が戻った。


 ガバッと勢いよく起きると、激しい頭痛が襲った。


「っ!  まだ完全には回復できてはいないようだな。と、いうよりここは何処だ?」


 辺りの景色を、まだ朦朧とする視界で見渡した。

 あまりの唐突さに頭はまだ若干混乱はしているが、状況はなんとか整理できそうだ。

 どうやらここは先程のAの隠れ家、藁の一軒家の中だ。

 キツイ藁の匂いが鼻を満遍なく刺激する。

 だが、ここは部屋のようで誰もいない。

 しかも狭い。

 そしてあるのは寝込んでいたベッドと、自分自身。

 ならさっきの声は誰のものだったのだ?

 

「やっと起きましたか」


 すると、またもや何処からともなく声がした。

 今は意識が正常な為に、感覚で相手が何処にいるのかが伺える。


「?  天井にいるのは誰だ?」


「おぉっと?  よく分かりましたねぇ。やっぱり、貴方はただ者ではないようだ」


 スッと降りてきたのは、見たこともない姿をした女一人。

 口は布で覆い、長いマフラーを(なび)かせている。

 その風情からするに、とても若々しいイメージを漂わせる。

 誰何しようとすると、その女は頼んでもないのにいきなり自己紹介を始めた。


「拙者、ミツキと申すー。東洋の国の者でござりまーすある関係でこの組織Aに所属している所存ー」


「東洋?  と、いうと日の丸か?」


「図星ーィ。私は忍者という、西洋でいうスパイの活動をしておりました」


 スパイ、という言葉でナーレはあの時の会話を思い出してミツキに発問する。


「まさかとは思うが、私がまだ政府にいた頃につけていたのは…」


「そうでーす。私でーす」


 言い方に一瞬殺意が湧いたが、あまりにも衝撃的で、それどころではない。

 そして、なんとも浮かれている女だ。

 任務などの時もいつもこんなに怠惰そうにしているのか?

 そんなことよりも本当に一つだけ気になることがあった。


「どうやって我が政府に、しかもこの私の統括元帥の館まで侵入できたのだ?」


「え?  見張りは誰もいませんでしたけど?  だから楽に侵入もできちゃいましたー」


 両手にピースを掲げて、可憐な笑みでこちらを凝視してくる。

 なんとも愛らしいがナーレはそんなこと気には止めず、疑問という疑問に押し潰されていた。


「ど、どういうことだ?  普通なら、統括元帥の位は上層部の上に匹敵するほどの権力をもつ最上位人物の筈だ。そんな者を暗殺でもされたら政府にも甚大な被害が出る筈。見張りも多く、と、いうより最初から政府は私を殺すつもりだった…?」


 推測が脳の中で角逐しあっている。

 自らの中で冷静な持論を構築することができない。

 思考がオーバーヒートしそうな勢いに、才気縦横(さいきじゅうおう)な判断がとれくなってしまっている。

 


「確かにー強力な隠然を放っていたのは政府ですねー、表面にでていたのは貴方一人でありそれは独裁とされ、一切と政府は人民から恨まれたり不満をぶちまけたりしなかった」


「政府が、この私に責任を擦り付けていた…?」


 つまり、完全な捨て駒扱いを受けていたということだった。

 有能な思考を持つ者には政府は陰険であり、使い古されれば放棄される。

 先まで謙虚な語調で、様々な焦りや事実を知り、絶望に浸る自らを誤魔化しながら、歯を食い縛り話しを続けていたが、等々積もりに積もった悲壮が表面にでてしまった。


「な、ぜ。何故、死力を尽くしたはずの政府に、ここまでされなければならないのだ。しかも、独裁とされていた?  なぜ」


「現今、昔みたいに手柄を立てれば良い扱いを受けるなんて、そんな良識ある上層部の人間なんて、見たことないですからねー。ドンマイですー」


 人民から猜疑心(さいぎしん)のある目で見られていたのは自分だけ?

 独裁と言い放っていたのは政府?

 あの良い顔は全くの偽装だった。

 どんなに他の参酌(さんしゃく)を照らし合わせて、自らを騙そうとしても今更であった。


「最初から、政府は貴方なんかを必要とはしなかったんですよねー。だけど、意外と利用すればあら不思議、あまりにも残虐かつ効率的で政府になぁーとも貢献できる類の策をいくつも提示してくるので解雇なんかできなぁーい。ならばひたすら利用し続けてやろうと思って3年も人民ひたすら苦しめて貢献して、はい自ら脱退ー」


「貴様!!  いい加減に!」


 ミツキの胸ぐらを、怒りのあまり勢いよく掴む。

 あまりにも混乱しており、息も荒くなるが、逆に鋭い目で睨みつけられた。


「ふざけないで下さい。貴方の可決した政策で私の友人も親戚も皆殺しにされてるです。あんまりしつこいと殺すぞテメェ」


 先程とはあまりにも違いがありすぎる形相と言い方で、こちらを見る。

 そこからは、殺意に燃える一人の女としか見れなかった。

 それは地獄の業火にも負けぬ、荒々しくも激しい復讐心が感じとることができ、ぐうの音もでない状況に陥ってしまう。

 そう、例え政府に騙されていたとしても実際に許可やその提案を出したのは自分だ。


 恨まれる対象は自分一人に絞られるのは、明確だった。


「っ!」


 その怒涛な勢いに、流石のナーレも戸惑うような素振りを見せる。

 前まで自らが犯した罪への軽視が、これを招いたのかと思うと、余計な重圧を受け縮んでしまう。


「っていうかー、話しは変わりますけどあの時ー貴方はなんとなく気づいてたんじゃないですか?」


「あの時?」


 自分の記憶を一生懸命に漁るが、気づいたという類の話しはあまり見られない。

 と、いうより、まさか自らの記憶力や自覚する能力がそれほどまでに欠落しているとしたら、あまりにも自信が無くなりそうだ。


「貴方が赤髪の嬢様に楯突いて出てった後ですよー、何が起こったか分かっていた筈ですー貴方のその力の影響で」


 まるで全てを知っているかのような言い方だ。

 その物言いから察するに、恐れているとはとれないが、その力に潰されそうな示威(じい)を感じてはいるように見える。


「この私の力は、魔法と呼ばれる神話では神や天使、そして悪魔が使う力、人知を超越した力だ。全ての人間の、喜怒哀楽の感情をエネルギーの糧としている。大通りに出る前、急に力が漲っていた時点でおかしいと感じてはいた。それに第一、私の力は感情を持つ相手ならば誰でも発動させることができる」


「あー、なら政府に殺されていいと思われるのも仕方ないわー」


「は?それはまたどういう」


 だが、また何かを言おうとするとこれも、無理矢理遮断させられた。

 迅雷のように唐突に横っ腹をついてくるので、なんとも生々しく貫かれる感覚が非常に鋭い。


「て、いうかーそんな全ての人間の感情なんか取り込んだらー、逆に耐えられなくなってパンクしちゃうじゃないですかー?」


「あ、あぁ、意外にこの魔法の機能というより便利性に何故か恵まれていてだな、よほど深謀深く無難に作っただろう、ある程度に溜まるとちゃんと私の中で緻密(ちみつ)に計算されて、力の溜まり具合を整理しているのだ。だから感情を持つ生物がいる限り、私の力は絶えることなく回復し続ける」


「わーおー!  なにそれすげー!!  しかも普通ならそういうのって欠陥とかあるじゃないですかー、それがないのも超すげー!!」


 欠陥はあるにはあるが、ここはまだ強さを装っていようとミツキのテンションに、何事もないように便乗した。

 すると、今度は扉がギシギシと古めかしい音を立てながら開いた。


「おう、起きたか新入り」


 そこに凛と立っているのは先ほどの赤髪のお嬢様だ。


「これでも政府にいた頃は最高幹部の座にいたのだ、新入りと言われるとなんとも腹ただしい」


「知らんよ、そんなこと。それよりも、入ったからにはあんたに重要な仕事やらを任せないといけなくなる。と、いうか自己紹介がだいぶ遅れたな。私はメルメッザ=オリシオ。適当に呼んでくれ」


 メルメッザ=オリシオ。

 かつてヨーロッパで、強力な覇権と勢力を持った王国の王女の名前だ。

 メルメッザ家はあまりにも古代の王との血が濃い。

 しかし、ナーレの行った策により王政も貴族制も廃止にされ居場所がなくなったが、家族の人間全てを集約し、この反政府組織に入ったのだという。


「クリミナーレ=ストラス。私は君を一度も恨んだことはないさ。まだ私と歳が近い君がこんな非人道的なことや、国を統治する王族を滅ぼして、混乱を引き起こすようなことをする筈がない。第一、そう信じたいのだ。だから、君の沢山の働き振りを見せてもらう」


「働き振りで判断するのは人としてどうと思うが?」


 すると、ミツキは甘く軽視するナーレに小声で耳に語りかけた。


「いやいやーマジでこのお嬢さんはすすすすすすすす凄いっすよよよー。い、色々ともう激動な日々になると思いますすすー」


 明らかに声が震えている。

 しかも微妙に目を逸らしている。

 機敏そうなこの忍者も、かなり振り回されていたことがそれだけで察することが可能だ。

 ナーレは勢い良くゴクリと唾を飲むと、先ほどの悠長な喋り方とは一変する。


「さて、行こうか」


「ちょ!  ちょちょちょ!!  待ってくれ!  まだ!  まだ私にはやらなければならないことが ──」


 服の襟の裾を掴まれて、無様に連行されてゆく。

 助けることができず、部屋の裾でほよほよとひたすらナーレの姿をミツキは見つめていた。


「ごしゅーしょーさまでーす!」


 バタン!と扉が閉まると同時にそこからなんとも無惨な嘆きが、その隠れ家全体に響き渡った。


「もおおおおおおおおおおおお!!!  いやだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」





 その楽観的な雰囲気とは逆転して、ナーレが所属していた政府は、殺伐としていた。


「今後の方針はどうします?  クリミナーレ統括元帥が地位から、そしてこの政府から脱退してしまい、あまりにも我らは大きな戦力を失いましたが」


 円卓上の机に五人の、最高幹部たちが話しあっている。

 なんとも荷が重くなるようで、その圧迫感はとてもではないが典型的な民や議員たちには恐れ多く、耐えられないであろう。


「大丈夫だ。結局は奴は三月の前半には仕事をしなくなったし、丁度我らも潮時とお払い箱にするつもりであった。奴から抜けるなど、むしろ望んでいたことで手間が省けた」


「奴に見せる我らの笑顔など皮肉しかありませんからな」


「それに一つの情報によれば、もうクリミナーレは反政府組織についていよう」


 なんとも、幹部達は前から予測ができているかのような素振りであった。

 いや、すでにそれは政府全ての人間に知れ渡っていた。


「我らが奴に仕向けた民の義憤や怒りは凄まじいものですからのお。気づくのも時間の問題じゃったが、まさかここまで早いとは」


「どうする?  このまま静観するか?  それとも始末するか?」


 その疑問に、様々な意見が挙げられた。

 それはあまりにも多く纏めきれず、ここでまた激論になれば元も子もない。

 結局は多数決となってしまった。


 ここで逆に思考を変えてみると、人間の命をを多数決で可決するなど、政府の上層部がどれほどまでに自意識が高く、腐敗しているのかがよく伺える。


 投票が集まると一人の幹部が立つ上がった。


「結果…始末することを可決した」


 その言葉に拍手も声も上げることなく、手っ取り早く先に進捗させる為、次の議題になる。


「だがどうする?  奴は我らの科学力では証明ができなかった、魔法を扱う男だ。下手をすれば総力戦にして奴を完全に抹消せねばならないが」


 そう、例えこちらの科学力を持ってしても解明できないものに立ち向かうなど、政府の恥を晒すだけだ。

 ならば、跡形もなく消さなければならないし、敗北は一切許されない。


「ならば、魔法には魔法、というのはどうですかな?」


「魔法には、魔法?」


 その言葉に全員が動揺した。

 まさかと、戦慄する者も現れる。


「こちらにも、我らの世界から来た、たった一人の強力な魔術師がおりまする」


「それは、誰じゃ?」


 一人が睨みつけるように寸言した。

 他の幹部たちもそれには身に覚えというより、聞き覚えがなく、何を考えているのか、第一に結局は証明できなかった魔法を扱うもう一人の人間など、耳に入ったこともなかった。


「クリミナーレ=ストラスの妹…クリミナーレ=ジュリーでございます」


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