表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

第一話  ヨーロッパの真実

 異世界と、この世界を繋ぐゲート。

 そして、今のヨーロッパの覇権を持つ中央大正義議会政府。


 二つの均衡がようやく保たれ、人々に多大な平和を齎した異世界の人間。

 国と国との争いが長期に渡り続き、疲弊しきっていた民にとっては、まさに天国のような時代が生まれたと歓喜に浸った。


 だが、他の世界の人間が作った平和など、信じられるのだろうか。真っ平な偽りを装っているのではないのか。

 民たちは知らずとも、一部の者たちの政府への信憑性は、薄い氷のように割れやすいものであった。

 そして、次第に政府のとる政策や税金の取り上げが激しくなると、等々その不満を持った者たちが集約しある一つの組織が作られる、

  ───反政府組織、『A』。


 彼らの目的は、かつての中世の文化と世界を蘇らせ、異世界の住人や政府を全て追い出すこと。

 そして、王政と貴族制の復活を目論み、そこまで大々的な動きは見せないが、民に与える印象や気勢はあまりにも偽善者らしく、支持を得るにしてもかなりの劣勢であるし、今の民は貴族制などの差別化を、また招き入れるようなことは当たり前に拒絶していた。


 次第にこの組織は、あまりにも醜く孤高していると人々から嫌悪されるようになり、アグリードッグと呼ばれるようになる。


 しかし、だんだんとヨーロッパ以外の国から狙われるようになると、政府の基層に虚空が開き、そこを狙うようにして反政府組織は勢力を拡大した。あまりにも急進的すぎるので、民たちも恐れ政府もこの状況に追われるようになる。


 そして、最終段階へと踏み切ったAは一人の男を呼応した。

 それは未来永劫(みらいえいごう)悪役として受け継がれるだろう、ヨーロッパ史上最悪の敵であり、驚愕するほどの才と戦闘技術。だが、その形相は悪魔でも鬼でもない、ただの典型的(てんけいてき)な青年をAは何故か必要とした。




「全く、この私を呼び出す時は必ず車を手配しろと言った筈だ。何故、徒歩なんだ!!」


 大勢の人が行き来する中、一人の紅の瞳と見事な艶をした黒髪の青年が、文句を垂れている。



「お、落ち着いてくださいでふ〜!  あの方たちは今の文明をあまり尊重しない人たちなんでふから〜!」


 その隣にも黒髪であり、なんとも可憐で清楚そうな美少女がいた。少しおどけているが、見ているだけでまるで小鳥のさえずりを聞いているかの如く癒される。

 髪は長く、煌びやかにそれを上下に揺らしながら、青年に必死で付いてゆく姿もなんとも愛らしい。


「意味が分からん!  そんなくだらん中世魂など捨ててしまえ!」


「ふええぇ〜!!  酷いですよ〜!  私、中世出身なんですからもっと優しくしてふださい〜!」


「ふざけるな!!  私も元中世出身だ!!  貴様そんなことも忘れたのか!」


 もう既に会話自体成り立っていない。


「ふぇぇ〜!  もう意味が分からないのです〜!!」


 まるで兄妹が会話しているようだ。

 聞いていた通行人も、話し内容はともかく、歩みを小さくしながらその二人の姿を微笑ましい目で見つめていた。


 そして、やっとこのドタバタな会話に終止符が打たれると、先程よほど過激に話したのか、体力を消耗したのだろう、二人は息を荒くしながらお互いに向き合って、こんどは真面目に話し始める。


「従来、何度も国は世代を変わっている。だが、この異界政府がきてから…国は消失、そして私はまるで道具扱い。庶民にやる政策なんかは全部私に丸投げ。くだらん異世界人共だ」


「ぅうぅ〜それでもナーレ様はずっとやってきたではないでふか〜!何で今更〜!」


「私があのクソ政府を脱退したからだ!!」


 ただの綺麗事。


「ふ〜」


 

 一方の紅の瞳をした少年はナーレと言うらしい。

 そして二人はまた歩きだすと、路地裏に繋がる通路に一人のフードを被る聖職者のような人間がこちらを見つめる。


 あまりにも奇怪なため、用心深くそこを通りすぎようとするが。


「お待ち下さい。貴方様方がクリミナーレ=ストラス様、クリラネ=ジュリー様、とお見受け致しました」


 ピクッと二人はそれに反応を見せる。

 クリラネという少女はその光景にビクッと動揺する。


「貴様、何故私たちの名を知っている」


「クリミナーレ様の名は、顔は知られていなくともヨーロッパ全土に轟いております。悪魔のような悪業を繰り返したとして」


「…またその話しか」


 ナーレはなんとなく冷静さを装っているが、拳には冷や汗を握りながらプルプルと小刻みに揺れているのが確認できる。


 そのフードの男に振り向くことはなく、黒髪の二人は一直線に続く道を目を凝らしながら見つめている。


「さて、お戯れはここまでにしてもらい付いてきて下さい」


「貴様がAの刺客か」


「…」


 そのフードを被る者はそれから一切、喋ることはなかった。

 かなり怪しいがそれほど無難な存在とは捉えることはない。

 行く前には、暗殺を目論んでいるのではないか、政府の犬として公開処刑でもされるのではと推測していたが、あまりにもそのような形相を表には出さないので、むやみに野暮なことを発問(はつもん)するのはなるべく避けていた。


 淡々とその男についてゆくと路地裏から、今度は薄い暗闇に閉ざされた大通りにでた。

 人はほとんどいなく、このような所の実態は、野良犬や猫などが多く生活をする場所だ。

 そしてその先を眺望(ちょうぼう)していると、最奥部の隅に木材で作られた、一つの一軒家のような建物が見える。

 見た目はあまりにもボロボロであり、今にも崩壊しそうな雰囲気を漂わせている。


 目の前に到着すると、この建物は左右に二つの大きな柱が、ギシギシと物騒な音を立てながら屋根を支えている。

 外装は二つの柱以外全て(わら)であり、窓も一切ない。

 こんな所に入るのかと、少しうろたえ静観(せいかん)していたが、後々にそのフードの男から入れと指で指示されたので、仕方なくその建物に恐る恐る入っていった。


 予想通り中も(わら)で作られており、真ん中には先程左右を支えていたものの、数倍もある柱が建っている。


 そして奥にはその柱に張り付くようにして座る、一人の赤髪の少女とその周りに取り囲むようにして、何人もの男だちがズラリと並んでいた。


「其方たちが…我が野望に参道するために参った二人か?」


「はあ?  野望に参道?  なにをいって」


 と、言いかけたところ隣にいたクリラネが口を挟むようにして横から返事を返した。


「そうでありまふ。私たちは反政府組織Aに参道すべく参ったのでありまふ!」


「おい!貴様!なにを勝手に!」

 

 と、言いかけるがまたもや。


「良かったです…それではこれからのことについてご説明を…」


「待て待て待て待て待て待て!  どういうことだ!  この私が反政府組織に参加するなど聞いていないぞ!?」


 その突発な言葉に周りも少しザワザワと動揺し始めた。


「これは…ナーレ様には絶無にしていただき、私一人が独断でこの組織に干渉させていただいたのでふ」


「なんだと!?  貴様!  それでは我らは政府に喧嘩をふっかけているようではないか!」


 ナーレは唐突すぎることなので上手くまとめきれず、錯乱する思考を止めることがでかない。

 やっと政府から解放された自らを、また地獄に叩き込むなど笑止千万。

 是認(ぜにん)などできる筈がなかった。


「二人は確か、専属で政府で働いていたようだな。しかも全ての管理や行政も同じだとか」


「…何処でその情報を手に入れた」


 ギロリと獲物を狙うハイエナのような炯眼で、赤髪の少女を見つめた。


「実は私たちの所にもスパイというものがいてだな」


「チッ!」


 舌打ちをし、無理矢理話しを切らせると、後ろを振り向きわざと怒りを体で表現するため、ドスドスと音を立てながら扉へ向かう。


「何処へ行く」


「帰るに決まっているだろう?  何故貴様らのくだらん野望と、自らをまた奈落に突き落とすようなことをしないといけないのだ」


 天国と地獄。

 自分に紐帯するのは己が私欲であった。

 単純だ。

 楽を欲すか、苦を欲すか。

 自分は想像をも絶する苦を味わっている。

 それが倒錯(とうさく)すれば当たり前のように、撞着(どうちゃく)する。

 世の中を不条理さを悟ったようにして、ナーレは溜息をつく。


 だが等々、周りにいた一人の男がナーレの態度とその言い草に痺れを切らし、雄叫びをあげるかのような声で一喝する。


「ふざけるな!!我らはこれらを達成するため!何度も、何人もの仲間を失いながら元の中世を復興し取り戻すことを切望しながら!行ってきた!それがお前に分かるのか!?」


 その言葉に何故か、背徳感を感じた。

 本心の自分は何故か理解している。

 なのに承諾しないのは何故だ。

 思考の果てに曖昧な万感が積もりに積もる。

 まるで深い泥沼をもがき苦しみながら、爬行(きこう)するような気分だ。


 その悔しさの果てか、妙な怒りが込み上げた。

「当たり前だ!!  このヨーロッパを支配し、この平和を齎す為にどれだけの人数が死んだと思っている!?  第一に!  この組織は一体なんなんだ!?  まるで前車の轍を踏んでいるようではないか!!  また多くの人間が死ぬ世の中に戻すなど俺は認めるわけがあるか!!  ましてやそれに協力などふざけるのも大概にしろ!!」


 その言葉に圧倒され、悔し紛れに後ろへその男は後退りしてしまう。

 ナーレも感情的になりすぎたか、小さく咳をこむと赤髪の少女を暫く凝視した。

 二人はライバルのような形で睨み合っていると、虚無感が漂う言葉でナーレは呟いた。


「もう俺は、人殺しの先頭に立つのはうんざりなんだよ」


 そして、何かを言いかけるように何の躊躇もなく、扉を開き鋭い音を立てて閉める。

 それは、何かでせきとめられるように、ナーレの頭を巡るだけで、口からはでなかった。

 そして、その場にいたクリラネは止めようとはしなかった。


「本当にあれが…座標なのですか?」


「そうでふ。この世界の全てを変貌させ、ましてや支配した国々まで混迷とさせて悪党でふ」


「本当に、彼はこの組織に協力するつもりはあるのか?」


 少女は疑心暗鬼になりながら、興味がなくなったと言わんばかりの遺憾(いかん)を放っている。


「大丈夫でふ…彼の方はまだ知らないのでふ。政府を抜ければ自分がやった悪業が自らに降り注ぐことも何も知らないのでふ。だから、自分で覚えるのしかないのでふ」


 そこにいる全員はナーレが出て行った入り口をただひたすらに見ていた。




 一方ナーレは緩慢(かんまん)な足取りでその場を後にした。

 その場とは裏腹に何故か、また心におびただしい数の後悔が駆け巡った。

 非常に苦痛だったが、それ以前にこのような自分が邪魔だった。

 いつもいつも叩き込まれるようなこの情緒が、あまりにも不全なものだ。

 鬱陶しいと思いながらも路地裏を抜け、また人通りの多い町にでるといつもの光景が広がる。




 筈だったのだが、


「な、なんだよ…これ」


 そこには、半壊した建造物。

 血潮を噴き出しながら倒れる人々。

 泣き叫びながら漂う子供。

 それは、あの過去の記憶を蘇らせられるもので、妙な吐き気を覚える。

 またこの光景を根付けられるような感覚だ。


 何故、こうなっている?  なにがこの場所で起きた?

 この時間の間に一体、何が。

 あまりにも残虐的なことを前にして、思考を回すことができず、目を細めながら辺りを跛行して歩き続ける。


 次第に人々の死体が無くなると、今度は刺激臭がナーレの鼻の粘膜を刺す。

 ボーッとしていた意識が即座に覚醒すると、そこには累々と積み上げられた死体が燃やされていた。

 

 すると、その火炎放射を放っていたロボットがこちらに感づいたか、おもむろに重厚な機体を振り向けて、こちらに繁簡だという目を向けるように語りかけてくる。


『んんんん?  きみィはァ?  この都市の生き残りちゃんかな?』


 そのロボットは突然喋り出した。

 それに酷く驚愕したか、腰をついてしまう。


「なっ、なんなんだ!貴様はァァッ!?」


『んん?  あれ?  お前はまさか裏切り者か!?  ふっははははははそうか!  そうか!  やはりお前無残な敗者を庇護する情け者にまで堕ちたといことか!!』


「はあ?  なにいってるんだお前は?  というか誰なんだ!?」


 重い腕を上げながら身軽そうな足をこちらに必死に伸ばす。

 どうやら比肩があまりにも不釣り合いであり、まるで赤ん坊が初めて立ったかのようにふらついている。

 そして、勢いよくその場に転倒すると中身もポロッと見える。

 それをみて額に手をつけ呆れるナーレ。


「発明した奴もアホだが、お前も充分にアホだな、アルタス」


『ふ、ふざけるんじゃねぇ!  我ら大正義議会を裏切り!  物議しか論ぜぬ阿呆の民の仲間入りした貴様などに、アホ呼ばわりされる筋合いはねえ!」


 なんとも見苦しい格好で、こちらを罵倒し続ける残念な男。

 凝視すればするほど滑稽だ。


「前まで私より位が低かった者が、抜ければこんなにも不実になるとは。お前の精神は本当に変則的な思考を持つな。見てて息苦しい。そしてそのおめでたい頭をそろそろなんとかしろ」


『その言葉そっくりそちらにお返ししようか!!!』


 なんとも諦めの悪いやつ。

 まさか、今まで散々自分の中に溜まってた鬱憤を、ここではらしいるのではないかと考えてしまう。

 だが、今はこんなやつと馴れ合いをしている暇ではない。


「おい!  それよりアルタス!  一体一般市民を虐殺するとはどういうことだ、こんなの政府が黙ってはいないぞ」


 次の瞬間、アルタスはポカーンとナーレを見つめていたが、何故か下を俯きプルプルと震えだす。

 だんだんとその顔が浮上してくると、アルタスはなんとも憎たらしい笑みを浮かべて、爆笑し始めた。



『プッ!  ふははははははははははははははははははははは!!!!!  ヒィヒィィッ!!  腹いてぇよォ!』


 あまりにも予想外の爆笑だったので、流石のナーレも目を大きく開いて首を傾げる。


「な、なにがおかしい!」


『オイオイオイ!  元、統括元帥様よォ?  これはあくまでもテメェ自身が承諾したってことにまだ気づいてねぇのかぁ!?』

 

 その時、脳裏に鋭い光が通った。

 それは貫通するかの如く、無意識にナーレの焦心を煽らせた。


「な、なにを言ってるんだ貴様!?」


 言っている意味がまるで分からない。

 そして周りの景色を合わせてみると、余計に混迷としてしまう。


『わかんねぇならこのアルタス様が直々に説明してやるよォ!  テメェが政府建設当時に初めてやった政策が今また議会で可決されて実寸させてるんだよォ!!  我々は所詮異界から来た人間だ!  どんな兵器材料になるものがあるかははっきりとしねぇ!  それに作るとしても時間がかかる!  なら、と思わねぇかぁ?  逆に兵器だけの集中して創りあげて、実験台は本物の人間にやった方が実際の結果が得られるのさァ!  実証的なデータがある方がスムーズであり、諸国の脅威も防げるだろォ?』


 一体なんなんだそれは。

 まるで人民がモルモットのような言い草であった。

 平等であり、同種族と争いを禁じたヨーロッパの政府は、我正義と言いふらさんばかりにそれを破り、殺しを躊躇なく行っている。

 いや、政府ではなく軍部が秘密裏に行っていることなのかもしれない。

 と、いうより今更記憶を遡るとそれは自分がやっていた政策そのものではないか。


「な、なんということだ!  その私の政策に猛反対した右翼側は一体何をやってるんだ!!」


『今じゃ、左翼の革新派(かくしんは)が大きな勢力を保ってるからなァ!  大体!!  古い考えを尊重する右翼なんぞ参道する人間が少なすぎるんだよォ!?  それにテメェもどちかといえば左翼側に味方してたじゃねぇか!』


「そ、そうだが!  中世からある規律も守った方がいいとはお前は思わないのか!?  私はそれを考慮して結局は1ヶ月足らずでやめさせた!  なぜもっと民たちのことを考えない!!  民たちは貴様ら軍事の道具ではないんだぞ!」


 悪魔と呼ばれたその青年は、完全に右翼側の保守派(ほしゅは)の意見を言っていた。

 姿態から感じられるのは恐怖と困惑だけだが、自分の意見はどうやら保ち、言葉にはできているようだ。


『はあ?  んなもん戦争っていう民を戦場に出して戦わせるのと同じだろうが?  今じゃ、か弱い女を無理矢理軍隊にいれて戦わせるっていうのもあるんだぜ?  まあ!  これもテメェがとった政策だけどな!  ふははははははははははははは!!!  テメェも革新派(かくしんは)の時は、新しいことを始めようとかなり努力してたみたいじゃねぇかよォ?』


「それが革新(かくしん)だ!  新たな考えを持ち!  子孫たちが不自由せぬ暮らしをする為に!  我々は古い考えを捨ててきた!  だが…その政策がこのようにして裏に回るなど、なんたることだ」


 自分が正しいと解釈してやってきたことが、まさかこれほどまでに非道的なものだったとは。

 なんとも理不尽であり、心が蒙昧(もうまい)としてしまう。

 後悔だけが渦巻き、言い表す術もなく沈黙する。


『けひゃひゃひゃ!!!  もうこれで終わりだなァ!?  政府にとってももうテメェなんぞクソみたいな存在だ!  ならここでこの俺様が苦痛なくあの世にいかせてやる!」


 重厚な巨体が、重い拳を太陽の光を遮るようにして空に掲げる。

 体が、身動きがとれない。

 逃げられない。

 それ以前になんだこの感情は。

 不に浸かりすぎてまるで訳が分からない。

 苦しいのか辛いのか。

 自分を攻めたいのか悪くないと言いたいのか。

 可決した政府が全て悪いというのか。

 それともこのような非人道的な政策を、思案した自分が悪いのか。


 纏まらない、いつものように自分に善意を持たせることができず、持論も考えられない。

 完全に思考が停止している。

 そしてナーレは覚悟を決め、全身の力を抜いて下に俯く。

 

『いさぎいいじゃねぇか?  自分の潔白さを証明する為に死ぬか?  それとも後悔に浸りながら死ぬか?  まぁ、んなもんテメェの勝手だけどなァ!!  死ねええええええええええええええええッッッ!!」


 振り下ろされる拳、完全に自分の全てが虚ろになっている。

 これは神から悪魔への天誅か。

 恬淡ともう一度俯く顔を上げた。


 その刹那であった。


『ぐおおおおおぉぉぉおおおおおッッ!?』


 なんと太陽をも遮り巨体が、一人の人間の力で、いともせず簡単に押し倒されるではないか。

 限りなく響く轟音に、静謐(せいひつ)しすぎて我を忘れた自分が戻ってきた。



「お前を守るのは俺の恥晒しだが、リーダーが守れというなら仕方ない」


 深い煙の中から聞こえる野太い声。

 姿は煙に包まれ、あまりはっきりとは映らないが、何処かで聞き覚えのある声であった。


「貴様は!  先程の!?」


 煙がはれると、その巨体はこちらを振り向く。

 なんという圧迫感と迫力なのだ。

 目の前に立つ巨大な斧を掲げる大男は、先のAの隠れ家らしき場所で、ナーレに反発した者ではないか。


「何故、この私を助ける」


 先程の様子を見れば、誰でも分かる。

 この男がかなりの不満を積もらせていることを。


「俺は、あまりにも短慮だ。ただの脳筋だし政治のことなんか一つも分からねぇ。だがな、血に飢えるような政府が俺らをこのようにゴミとして見てないことに腹立ててんだ。そしてこんな政策をした、お前も今でもすぐに殺してやりたい気分だけどな」


 当たり前だ。

 こんな情状になるまでの発端は、全て自分にあるのだから。

 不遜(ふそん)に操っていた筈の政府に、逆に操られていたとは思えなかった。

 多くのものを破壊し、殺し、私益を得る為だけに大罪を犯した。

 脳に津波のように押し寄せる多くの人々の怨念と不満。

 今にも破綻しそうな思考を、必然に猛然と抑え続ける。

 善意であり、それが正念だった。

 だがそれは真っ平な虚偽。

 その先も、この後も玉砕というのなら、漸次に蛇足で、老獪(ろうかい)な考えを逆に利用してやろうではないか。

 ならば苦しみも後悔もなく要約しよう。


 この罪への重圧にナーレは等々ある一つのことを決心する。


「…私のやったことが、この世の中で許されるはずなどない。貴様らがどんな事由(じゆう)でこの組織を立ち上げたのかも知らん。だが、自分の罪滅ぼしになるというのなら、全ての醜悪(しゅうあく)を認め背負い、この組織に参加しよう」


 すると紅の瞳を輝かせ、左手を太陽に掲げた。


天地開闢(てんちかいびゃく)(ことわり)を司りし全知全能たる神よ、些事たる人間に一縷(いちる)の願望と梟雄(きょうゆう)たる忌々しき狷介(けんかい)を解放し、我が険悪たる憐憫(れんびん)の体に顕現せしめたれ》



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ