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とある勇者の昔話1

 お久しぶりです。


 半年間、本当に全然進まなかったのですが、昨日の夜中にいつものように書いては消しをしていたらこの半年は何だったのかと言うくらいに筆がノったので、ついさっきまでずっと書いて、とりあえず6千文字行ったので投稿しました。

「ある日、私たちは勇者召喚された」


 壁画の文は、その簡潔な一言から始まった。


 先生は淡々と読み進めていく。


 今話しかけても無駄なようだし、俺も無言で聞き続けるしか無さそうだ。


「全員が目覚めてすぐ、何も把握していない状態のまま兵士の人たちに連れられて、私たちは王様がいる謁見室に連れていかれた……」




















「よく来た、異世界から訪れし勇者の方々」


 王様の第一声、それは私にとって全く理解のできない内容だった。


 『異世界』『勇者』日本にいた頃の私は、読書はよくしていたがその手の本は読んだ事が無いし、ゲームも殆どした事が無かった。

 まあ、言葉と意味は知っている。でも、それと今の状況を結びつけるのは当時の私には無理だった。


「この度、勇者様方を召喚したのは我が国、ひいては全人類の危機を救っていただきたく…………」


 王様の話は、長かった。


 ……あれから4年が経ち、当時の細かい記憶は曖昧なので覚えているところだけを話す。


 ある日、一体の魔王が人族領域に進軍。この国は人族の領域の中でも辺境にあり、必然的に人族VS魔族の戦争の前線となった。

 

 だが、この国は人類領土の辺境の方に位置する国にして独立国。

 さすがに人類存続の危機の中、国境を超えた協力関係は出来上がったが、他の国から兵が来ても、国自体への援助は無い。

 いわば自分の国の近くで他国と魔族が勝手に戦争をしているようなものだ。しかもこの国を守る理由も無いので、魔族に押されれば簡単に身代わりにされて撤退されるはず。


 実際に近くの国は大抵そんな感じで魔族に滅ぼされた。


 今はまだ最前線の大国が抵抗しているが、いつ負けてもおかしく無い状況。だがそこに、神の神託によってこの国に勇者召喚を実行することになったと言うことらしい。


 

 事態をちゃんと飲み込んだ後だから分かったけど、王様の話が長かったのは、そこで勇者を味方にできなければ国が滅びるという責任から、慎重に話していたからだろう。

  

 結果としては、勇者として呼ばれた私たち全員はこの国の味方をする事になった。


 仕方無い。神の神託によって勇者召喚の方法は知り得たが、日本に帰る方法までは聞いていないので、魔王を討伐すればまた神の神託もあるはず……なんて事を言われたからには。


 たしかに戦争という恐怖はあった。


 でも、仮にも私たちはこの戦況を覆す為に喚ばれただけあって、全員に何かしらの特殊能力があったし、驚異的な身体能力や魔法という未知なるものを操れる力があった。


 それでも迷っている人には転移してきた私達の中にいた、見るからにザ・主人公と言った容貌の神田君と言う人が、一人一人親切に説得していた。

 後から神田君に聞いた話だが、あの場面で味方にならなかった人は、国に秘密裏に処分されていたかもしれないらしい。

 

 今思えば、神田君は日本では異世界で勇者になって活躍するような話が好きだったのだろう。

  正直、日本ではあり得ないような英雄願望を持つほど、劣等感を覚えるような性格では無さそうだったから意外だったけど。


 その後は皆、王城の近くにある大きなお屋敷に連れてこられ、一人に一室の部屋が与えられた。

 そのお屋敷は私たちの世話をしてくれるメイドさんがいたのだが、男性たちはメイドさんを見た瞬間に狂ったように歓喜していた。

 ……その中に数人、女性も混ざっていたような気がするが、その時はたぶん目が疲れていたのだろう。


 私たちが召喚されたのが日が殆ど沈んだ頃らしく、屋敷に着いて直ぐに夕食となったが、いきなり環境が変わったせいか食事に手をつける人は殆どいなかった。


 

 

 次の日から、勇者全員の訓練が始まった。 

 午前は王城の図書館で学者やこの国の知識人の人々から講義を受け、午後は基礎訓練とスキルの鍛練をし、たまに街から兵士の人達と一緒に出て、魔物を倒してレベル上げなんかもした。


 初めの内は、初めての魔法や、果ては日本にいた頃とは勝手の違う自分自身の身体能力に戸惑っていた。

 特に精神的にきたのは、初めて魔獣を自分達の手で殺した時だろう。あの時は皆、立ち直るまでに時間がかかった。


 それでも次第にこの世界に慣れていき日々の生活に余裕がで始めたので、国から貰った給金で皆が思い思いに異世界を満喫し始めた頃だった。





 この国の2つ隣の国が滅びた。



 まだ1つ国がある。とは、この世界の人類領土の地理を習った私達にはならなかった。

 

 魔族はこれまで人類領土に波状的な広い範囲から進出してきていた。

 これまで落とされた国は人類領土の端の端だけど、この国からは離れた所だった。

 確かにこの国も辺境の方ではあるけれど、これまで落とされた国からは少し距離がある。


 けど、今回落とされたのは本当にすぐ近くの国。

 しかもこれまで落ちなかっただけあって、辺境の割にはかなり大きな国だった。

 でもその隣、この国と魔族軍との間にある最後の国は、辺境にある国だけあって、かなり小さな国だった。


 ……残された時間は少ない。

 

 その時になって、急に『死』と言う言葉が現実味を帯びて私達の心に重くのしかかってきた。

 これまで戦った魔物はどれもレベルを上げる目的での戦闘であり、万が一にも勇者である私達が怪我をしないよう、細心の注意を払いながら私達のサポートをしてくれていた。

 そんな命の保証がされた戦いをしていた私達は、生き物を殺す事、命のやり取りをする事に慣れたんじゃ無い。ただ、段々ゲームのような感覚になっていただけだったと、その時になって気づいた。……気づいてしまった。


 それから、私や神田君なんかはともかく、勇者の半分程が日々の訓練に顔を出さないようになった。

 

 だが、悪い事は更に続く。


「勇者の方々、非常に由々しき事態になってしまった。先日、神からの神託によって、あなた方の身柄を聖王国に引き渡すようにとの御言葉を頂いた」


 これを聞いた私達の中で、殆どの人達は喜んでいた。そりゃ、戦線からかなり遠い聖王国に行けば、1年か2年くらいは戦争の脅威に怯えなくて済む。

 だけど、だから『はいそうですか』と頷けはしなかった。


 殆どの人は目の前の惨状で手一杯のせいで気づいていないようだし、王様を始め、兵士の人達も何も言わないが、この国を私達が出ていくと言う事は……後はこの国は滅びるのを待つだけという意味を持つ。


  それでも王様達が止めようとしないのは、自分の国ではなく、人類の存続を選んだ結果なんだろう。



 そして私は……私達は、この国を見捨てる事に決めた。 










 

 それから数日を経て、私達は聖王国着いた。


 あの後、国民に知られて動揺が広がらないように、迅速かつ内密に事が進んだ。

 城の関係者の方々も手伝ってくれたけど、その人達も、これから自分達に起こる事を分かっているはずなのに、普段と変わらない様子で私達を見送ってくれた。

 

 神田君は最後まで残ると言って聞かなかった。けれど、私達の中で今や一番強い神田君でも、魔族相手ではあまり時間稼ぎにはならないはず。それを一番理解できているのも、やはり神田君なので最終的には折れてくれた。



 

 聖王国に着いて直ぐ私達は、辺境の小国と人類最大勢力の国の違いを想い知る事になった。


 勇者歓待のパレードでは、触るのも躊躇われるような馬車に乗せられ、城の大きさに感嘆し、晩餐会ではその豪華過ぎる食事に、つい私も人目を憚らず夢中で食べてしまっていた。

 

 一般人が興味本意で私達に接触できないよう、市街地からは少し遠い所に私達は泊まる事になったけど、そこもまた私達だけ貸し切りで使うのが申し訳ないくらいに大きな建物だった。

 と言っても、メイドさんや執事の方も大勢いて、その人達もその建物の用務員用の部屋に泊まるので、本当の意味で私達だけでは無い。けど、その使用人の方々も把握しきれないような人数がいて、全員が美男美女。

 更に、24時間いつでも好きな使用人を呼び出す事ができ、命令すれば大抵の事はしてくれると言うのだから現実感さえ無くなってしまう。


 私は疲れていた事や、最近になって覚えた心当たりの無いスキルなんかの確認の為に、使用人さんを呼んだりはしていなかったけど、他の人は神田君を除いて全員、それぞれ好みの使用人さんを部屋に連れ込んでいた。


「僕は……」


「勇者様、あまり自分を責められないよう……」


 神田君も、前の国を見捨てた罪悪感から立ち直れずに落ち込んでいたけれど、近くを通りかかったメイドさんが相談に乗ってくれたらしく、一緒に部屋に入っていくのを見た。



 今にして思えば、その時に私以外の全員は篭絡されたんだろう。


 

 ……次の日、王様との謁見をする事になったけれど、この国の王様はとある国教のトップが務めているらしく、謁見も少し儀式的なものだった。

 謁見自体は、勇者である私達の来国を歓迎しする旨と、これから人類の為に共に戦おうと言うものだっただけだったが、既に私以外が篭絡されてしまった状態の私達勇者の戦意は皆高かった。

 

 その日から勇者としての訓練が再開されたわけなのだが、皆、訓練の合間を縫っては昨日一夜を共にした相手と一緒にいようとする。私以外の皆が恋人ムードになっているのは正直言って少し、本当に少しだけ羨ましく思い、たまに声をかけてくる何人かの顔立ちの整った使用人さんに靡きそうになるけれど、今の私にはそれ以上に興味のある事があった。


 昨日の夜、私は身に覚えの無いスキルの検証をしていたのだけど、面白い効果がある事が分かった。スキルの名前からしてそれが本来の能力と言うわけでは無いはずだけれど、現在の状況でも私がそれだけに夢中になるには十分な能力だった。

 その能力とは『動植物と会話できる』と言うもの。 

 この能力を解明できたのは、正直言って運だったと言っても良い。庭にある木から、歌声のようなものが聴こえてきたから、ずっと耳を澄まし続けてようやく木自体が喋っていると確信を得たのだ。

 途中、部屋の窓を開けていたのだけど、下の部屋の勇者の1人が、窓を開けながら致していたらしく、行為が終わるまで窓を閉めきって待っていたりもしたけれど……。


 そんな事は置いておいて……今だから言うけど、とても小さい頃は色んな生き物と会話して友達になりたいと思っていた事があった。

 さすがに10年以上も経てば恥ずかしい話だけど、それでも動物は好きだ。会話してみたいとも思う。


 と言う事でさっそく行動に移す事にした。



 けど、街を囲った壁を1人で出歩きたいと言って、はいそうですかと許されるほど勇者と言う立場は軽くない。かと言って、一夜にして勇者全員を篭絡したこの国に疑念を抱いている私には、護衛を連れて行くつもりも無い。


 となるとこっそり出かけるしかないので、その日の夜に決行する事にした。


 夜、城全体が静かになり、数人の巡回兵が城内を回っている中、昼にシミュレーションした通りの道順を辿って行く。

 正直言って、窓から飛び降りた方が早いけれど、また昨日のような事になっていた場合はバレてしまう。

 だからわざわざ城内を通って行くわけなのだけれど、正直言って一般兵程度の監視の目をすり抜ける程度は造作無いレベルに、既に私は達していた。

 風の魔法で音を抑え、光の魔法で姿を見えづらくする。


 こうして自分でもびっくりするぐらい簡単に抜け出した私は、次は城の壁を越えなければならないのだが、これは昼に作った道具で簡単に切り抜けた。

 紐の先に引っ掛け針を着けただけの、所謂忍者道具と言うものだ。


その後は怖いくらいに静かな街中を勇者のステータスをフルに使って颯爽と駆けていく。

 そして壁まで来たらまた道具を使おうとして……壁の上まで届かない事に気づいた私は仕方なくよじ登る事にした。


 「んしょっ……ふぅ……」


 少し時間がかかったけれど、誤差の範囲だ。

 さっそく進もう。そう思い顔を上げると、近場の森の中に何やらぼんやりと白く光る物体が見えた。

 亡霊系の巨大なアンデッドかと一瞬思ったけど、なんとなく違う気がする。

 とりあえず行ってみないと。気がつくと私は、何故か頭の中がその考えで一杯になってしまっていた


 とにかく壁を登ったのだから降りるものだが、なんとなく飛び降りれそうだったので飛び降りてみる。 今思えば自殺行為だったけれど、夜中のテンションのまま街中を駆けたその時の私には怖いものが無かった。  

 結果は無事、脚が少しジンジン痺れる程度で済んだけど、20メートル近い所から飛び降りてこの程度だった事に、改めて人間離れしたこの身体……と言うより、勇者になった事を実感する。


 けれど、そんな事を考えている時間はあまり無い。行き道にかかった時間が帰り道にもかかると考えると、街の外にいれる時間は2時間程度だ。さっきの白く光る物体の所まで行くとなるとあまり時間をかけていられない。

 

 何かに追われるような足取りで私は森の中に入っていく。

 夜の森と言うには、今夜の月は明る過ぎるけど、どこか不気味な雰囲気を醸し出しているのは変わらない。

 多少の怖さは胸にあれど、それが足を止める前に好奇心が足を動かしていく。


 途中で足を縺れさせたり、自分の踏み折った小枝にびっくりしながら歩いていると、やがて月明かりを照らされた泉が見えてきた。


 泉は月明かりを反射し、とても幻想的な雰囲気を漂わせている。

 ともすれば自分は更に他の世界に迷い込んだかのような思いになってしまうような……。


 そんな、今なら黒歴史満載のポエムを量産できそうな状態の私を現実に引き戻したのは、泉の縁にある岩の後ろに見える人間の後ろ姿。

 ちょうど雲が月明かりを隠してはっきりとは見えないけど、こちらには気づいていない様子だった。


 さっきまでのあまりに無防備な自分を思い出し、冷や汗が出る。

 慌てて周囲を見渡すが、異常は無い。 

 

「すいません……」


 私が声をかけると、人影は始めから私がここにいるのを知っていたかのように、自然な動作でこちらに振り返る。


「……?」


「えと、私は―――って言うんだけど……あなたは?」


「…………」


 返事が無い。そもそも裸の人に、いくら同性と言えど話しかけるのが間違っていた。


 ……けど、その時の私は何を思ったのか―――例のスキルを使ってもう一度話しかけていた。


「あの……覗くつもりは無かったんです。ただ……」


 と言っても、出てきたのは情けない言い訳だったのだけれど、彼女の反応は大きかった。


「っ……私達の言葉が、分かるのか?」


 そう言った彼女の戸惑いとは他所に、雲と言う遮蔽物から抜け出した月がちょうど彼女を照らし出す。


「綺麗……」


「言葉を理解しているのか?していないのか……?」


 艶やかに濡れた純白の髪、均整の取れたプロポーション。 

 

この世界にもし美の女神なんかがいるのなら、彼女がその担当をしているのではないだろうか……。

 

 これが、私が初めて彼女に出会った時の感想だった。

 本当に過去形の話はやりにくい……アルギウスお得意の話をまとめると……を使う案もありましたが、かなり重要な話なんでまとめずに書きました……。

 感想待ってます( ´_ゝ`)

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