厄介事の神様
今回は投稿に余裕がありました。
前の投稿が遅れたせいで期限が短いはずなのに、寧ろ早く終わるとはやっぱり作者はドMかもしれ(……。
「はぁ、お茶に呼ばれて来てみれば……ここに来たのが儂じゃなかったら誤解を生んでおったかもしれんのじゃぞ?」
「すいません……」
たしかに軽率な行動と言うか、この後を何も考えて無かったのは否めない。
「まあ、アルギウス君も悪意があったわけでも無く、反省もしておるようじゃから良いとして……問題はレスター先生の方なのじゃ」
「わ、私なのですか!?」
お、どうやら先生……レスター先生に白羽の矢が立ったようだ。ざまぁっ!!
「そもそも事の発端はレスター先生が承諾も無しに無理矢理生徒を自分の家に連れ込んだ事からなのじゃぞ?
……これだけ聞けば、かなり危険な犯罪臭がするの」
「ご、ごめんなさいなのです……」
うーん、その外見で素直に謝られると寧ろ俺が悪い気がしてくる。
「まあ俺としても良い話を聞けたんで良いですよ」
「……で、話を進めるがアルギウス君がレスター君に師事すると言うのは本当なのかの?」
「ええ、俺のしたい事とレスター先生の研究が合っていたので」
「ふーむ……レスター先生はどうなんじゃ?」
「私としても研究に参加はしてもらいたいのですが……魔物の研究がしたいそうなのですが、そうなるとやはり戦力面において不安になってしまうのです」
きた、この問題さえクリアすればもう師事したも同然だ。
「ふむ、たしかにレスター先生の不安はもっともじゃ。儂としても生徒を危険な目には極力会わせたく無いからの……」
まずい……これは劣勢か?
「そこでなのです!!学園長先生には特別手当てを出して欲しいのです!!」
ビシッとドヤ顔で言い放つレスター先生。
まあ、レスター先生の言いたい事は分かる。でもなぁ……。
「特別手当てじゃと?それをしてしまうと全ての教師に出さざるをえんからのぉ……簡単にはいかんじゃろう」
まあ、そうなるよな。俺達にだけ特別に金出せとか、都合が良すぎる話だ。
「……私の一生のお願いなのです!」
「それは……本気なのじゃな?」
えぇ!?学園長が真剣に聞くって、一体レスター先生の一生のお願いにどれだけの価値があるんだよっ!!
「はぁ……しかし遠征費用や施設を充実させるための費用はなんとか出せるが、冒険者を雇う金は流石に周りが黙っておらんじゃろう。
じゃがアルギウス君もこの歳にしては相当な実力の持ち主じゃ……アルギウス君が実力をつければつけるほど行動範囲が広がる。それで良いかの?」
「まあ、それでも良いですけど……」
正直、C組の問題はいつかは自然と解決するらしいし、とりあえずの目標はその症状の根絶ってだけだ。
時間ならある。
「よし、決まりじゃ。後は二人で詳細を詰めると良い。儂はゆっくり紅茶を飲ませてもらおうかの」
「あ、冷めてしまったのです……もう一度用意するのですよ~」
……え?もしかしてまた食虫植物茶?
「あ、俺はもうお腹いっぱいなんで……」
「そうなのですか……では二人分作るのです」
「レスター先生の紅茶は美味しいのじゃが……一杯くらいどうじゃ?」
「いえ、遠慮しときます……」
そうか、学園長は平気なのか。
……やっぱりそう言うのを気にしないのは大人だなぁ。
「……」
「……」
「そう言えば、アルギウス君は何の研究をしたいのじゃ?」
暫しの無言の後、時間を潰す為か学園長が質問をしてきた。
「ええ、C組の問題をレスター先生の研究から解決できないかと……」
「ほお、ほおほお!!なかなか面白い発想じゃの!!それならその問題も、もしかしたら半永久的に根絶できるかもしれないのじゃ」
なんか学園長の賛同を得られただけで、この研究が成功しそうな気がしてくる。
「紅茶ができたのです~。……えーっと、アルギウス君?は具体的にどれくらい強いのですか?それによって活動範囲が変わってくるのですが……」
「そうじゃのぉ、通常のゴブリンキングくらいなら一人でもギリギリ倒せるかの」
「おぉー!!期待大なのです‼」
へぇ~、それがどれくらいかは分からないけど、レスター先生が驚くくらいには強いと見て良いと思う。
いや、何の基準にもなってないな。
「アルギウス君」
「はい、どうしたんですか学園長?」
「君の実力だと学園の授業は物足りんじゃろう」
まあ、たしかにそうだ。正直、冒険者をやってた方が効率良いと思う。
「じゃから、別に毎日遠征や研究をするわけじゃないし、時間がある時はレスター先生に指導してもらうとよい。こう見えても昔のレスター先生は中々強かったんじゃぞ?」
「……本当ですか?」
このちょっと残念そうな人を恐れるか……想像できないな。
今も美味しそうに紅茶を飲んで、顔がフニャッとなってるし。
「……その顔は信じてない顔なのです。先生は昔、敵無しの強さだったのですよ!!」
そんなに強かったのに今では学園のこんな隅っこで一人研究をしてるのか。
それに、一人も師事してくれないとか……。
「うぅ……そんな哀れむような目で見ないで欲しいのです」
「後はそうじゃな……他にも生徒が師事すると言うのならいくら個人的な研究だとしても手当てを増やさざるをえないかの」
「本当なのですか!?」
おお……かなり食いつくなレスター先生。
「まぁ無理でしょうけどね」
「何故なのです!?」
「俺が入るまで何年も師事された生徒がいないんですよね?
今回たまたま俺が入っただけで、生徒が師事しない現状は何も変わっていませんし」
「そう……なのでした」
かなり落ち込んでしまったな、完全に目が死んでるじゃないか。
「まあそう落ち込まんでも、少なくともこれまでよりは格段に良くなるんじゃから」
「……そうなのです、ここから一歩を踏み出すのですよ。おー!!」
「調子の良い奴じゃのぉ……」
はぁ……本当にこんな残念な先生に師事しても良いんだろうか?
なんか厄介事が増えただけな気も…………現実になりそうだからこれ以上考えるのは止めよう。
残念な人に師事と言えば……。
「そう言えば、レスター先生ってどこの担任なんですか?」
この人が担任のクラスとか、考えただけで疲れるんだが。
「私、クラスは持ってないのですよ?」
「そうじゃな。レスター先生は植物学の教授じゃ」
「あぁ、そうなんですか?」
まあクラスを持たない先生もいるよな。
「レスター先生はかなり優秀な植物学者なんじゃが、高等部の選択科目でわざわざ植物学を取る者も少ないんじゃ。
ここに家を構えて生活しているのも、正直言って儂とのコネじゃな」
「うぅ……その分お給料も少ないのですよ!!」
「うわぁ……」
ここまで残念な人だと、ちょっと引くな。
「はうっ……そんなゴミを見るような目で見ないで欲しいのです‼」
「いや、さすがにゴミを見るような目では見てませんよ」
まあ、自分では分からないがそれに近しい目をしてたかもしれないな。
「さて、そろそろ儂は戻るとするかの」
「あ、ならこれをどうぞなのです」
そう言ってレスター先生が持ってきたのは何か黄色いジェル状の物が入った瓶だった。
「おぉ、いつもすまんのじゃ。帰ってから食べさせてもらおうかの」
「いえいえ、材料の一部は自家栽培していますし、作り方も簡単なので一人分も二人分もたいして変わらないのです♪」
二人だけで盛り上がられると、ちょっと気になるな。
「その瓶の中身って何なんですか?」
「ああ、これは自家製のジャムなのです。疲労回復、特に目の疲れに効くので学園長がここに来たときにはいつもお裾分けしているのですよ」
「アルギウス君も良かったら教えてもらうと良かろう。学生の時も冒険者の時も使えるレシピじゃからの。」
おお、仮にも異世界の植物学者作のジャムだ。実感できるレベルで効果があるのだろう。
「それじゃあ儂は行くとしよう。レスター先生、アルギウス君の事は頼むのじゃ」
「了解なのです~」
学園長が去った後にふと気づいたが、さっきの集まりって外見だけ見たらおままごとをしている子供たちにしか見えなかっただろうな。
「先生、そろそろ俺も帰りますね」
今学園長が出ていった時に外が見えたが、もう日が暮れ始めていた。そろそろ戻らないと心配させてしまうだろうな。
「あ、じゃあ明日もここに来て欲しいのです。色々な準備や今後の予定も話し合うので」
「分かりました。じゃあまた明日」
とにもかくにも、俺の本当の学園生活は今日から始まったのだった。
「―――って言うことがあって、今日からその先生に師事する事になった」
あの後、部屋に戻った俺は先に帰っていた爺やに事の端末を話していた。
ミューナは向こうで何をしたのか、帰って来たと同時に疲れて寝てしまったようだ。
「レスター先生……そうですか、あの方なら実力はともかく人格においては安心して任せられますな」
「あれ?爺や、レスター先生の事知ってたの?」
「はい、面識だけですが、非常に穏やかな方であったと記憶しております」
まあ、レスター先生も何年も前から先生してたって言ってたから、別に不思議な事では無いか。
「それで明日の事なんだけど、授業が終わったら俺そっちに行くのと、帰るのが遅くなるかもしれない」
「承知いたしました。では明日は冷めても美味しい料理にいたしましょう」
「ありがとう」
今日の料理はポトフのようなスープと、一切れの肉をなんか高級感たっぷりにソースをかけた物、後は粉チーズのかかったサラダが出てきた。
サラダはともかく、ポトフは冷めても美味しかったが残念ながら肉は少し固くなってしまっていた。
まあこれでも十分美味しいんだがな。
「ああ、そう言えば……」
「どうした?」
爺やが思い出した、と言うよりは話す機会を伺っていた様子で話しかけてくる。何か重大な話なのだろうか?
「ミューナ様とヘリス様も、本日よりエリシア様により主に体術の訓練を受けるらしく、お二人方も暫く時間が取れない様子でございます」
「そうか……じゃあ暫くは別行動が続くと言うことか。それなら爺やは放課後はミューナについてやってくれ」
これがあの家庭内別居と言うやつか……いや違うな。
「それは良いのですが……」
「ん?何か問題あった?」
まさかミューナが爺やを避けてるとか?いやいや、別に爺やは加齢臭の臭う人じゃないし、ミューナもその程度で人を嫌うような……。
あ!ミューナってそう言えば嗅覚良かったよはずだが……!?
「お二人の行動範囲が女性ばかりの所が多くて……別に男性も入れるのですが少々、我々が浮いてしまうのです」
あー、そう言う事ね。たしかにそりゃ爺やもいづらいし、連れてきた3人も『何で連れてきた!』って目で見られるだろうな。
かと言って男がいる所に行くとナンパの嵐……かは分からないが少なくともイヤらしい視線が降り注ぐのは間違い無い。
そこにアズ某君みたいな奴がいたら最悪だ。
「ならミューナの送迎だけやって、後はそうだな……自由行動、それか俺について来てくれ」
「分かりました。では明日からはアルギウス様について行かせていただきます」
「分かった。じゃあ後は風呂入って寝るわ」
「分かりました。では布団の用意をさせていただきましす」
寝室へと向かう爺やを尻目に、俺は風呂場に向かう。
風呂場の作りは日本と少し違う。
まず浴槽が無い……まあこれは仕方ない、そこまで水を贅沢に使える場所じゃ無いしな。
シャワーも無い。当たり前だ、あの技術の一般化なんてまだこの世界の技術では難し過ぎる。
まだ作れもしないんじゃ無いだろうか?
それらの代わりにあるのが木製の大きいタライと、幾つかの青色の魔石らしき物だ。
青色の魔石を叩き割ると水が出てくるのだが、原理は謎だ。1日に一人につき3個支給されるのだが、金を払えば追加で買えるらしい。
たぶん貴族なんかが買っているのだろう。
後は排水口があるだけか。この水がどこに流れるかは知らん。
「ん~、そろそろガロム兄さんに会いたいんだけど……あの人色んな所に行ってるだろうし、カルロス兄さんにでも聞かないと分からないな」
魔力で水を強引に操り、頭や身体を半自動的に洗いながら明日からの事に頭を悩ませる。
こんな芸当ができるのは多分この学園の生徒の中では俺だけじゃ無いだろうか?
この技術もくそもない力業は、それほどまでに魔力のステータスと莫大なMPを要求する物だったりする。
「はぁ、さっぱりした。でもこの石鹸をなんとかしたいよな」
これまた、希望すれば石鹸を支給されるのだが、これを使うと髪の毛が軋んでしまうのだ。
明日レスター先生に相談して、植物由来の石鹸を開発するのも良いかもしれない。
朝いつものように登校中にヘリスに会ったのだが、何やら両腕を庇っている様子で歩き方もどこかぎこちない。
「どうしたんだ?ヘリス」
「いえ、昨日の特訓で筋肉痛になってしまったようでして……」
「……あんまり無理するなよ?」
そりゃミューナでさえ帰ると同時に爆睡するような訓練なのに、運動の得意そうじゃないヘリスがやってもつとは思えない。
こうしてお互いの話を交換し、ヘリスと別れた後は教室に向かう。
教室につくとアッシュ君に滅茶苦茶謝られたが、最後の方は何故かまた勝負しろと言う流れになってしまった……。
「アル……災難」
アッシュ君が去ったのを見計らって今度はリオがやって来たが、放った言葉はただの他人事なセリフだった。
「分かってるなら助けてくれよ……」
「それは……無理……誰とも話した事無い」
「おおぅ……そうでしたか」
そんな話を聞こうとしたわけじゃ無いんだが……変な空気になっちゃったな。
「とにかく……頑張って」
「ああ、できるかぎりな」
俺の言葉に満足したのか、席に戻るリオ。
午前中は模擬戦が無かったので、アッシュ君と稽古せずに済んだ。後で午後の時間割を確認しておこう。
あれ……もしかしてだけど、これから模擬戦の度に毎回暴走状態のアッシュ君と稽古しないといけないのだろうか?せめて獣耳か尻尾をモフらせてもらわないと割に合わない気がするな。
「アル、お前まだ学園に来て3日だぞ?いったいどうやったらそんなにめんど……忙しくなるんだ?」
昼食の時間、昨日と同じグランバード家メンバーで集まった時に昨日起こった事を相談すると、カルロス兄さんに何故か逆に質問されてしまった。
「それは俺も聞きたいよ」
もしかして、厄介事の神様なんかが既に妨害工作を始めてるんじゃないだろうか?
「アル、身体を壊してしまうのであんまり無理をしてはいけませんよ?」
「ありがとうヘリス。こんな言い方は駄目だろうけど、自分の事じゃないし気長にやらせてもらうよ。
……それに、それを言うならヘリスだって筋肉痛で寝たきりとかいう状況にならないようにな?」
「が、頑張ります……」
エリシア姉さんも何も言わないし、それぐらいは分かってくれるかな?……いや、あの不敵な笑みはダメそうだ。
ヘリスどんまい、お前の事は忘れないぜ。
「とにかく、アルはこれ以上厄介事を増やさないようにな。
大人しくしろってのは父さんと母さんの子供なんだから無理としても、お前は色々と特殊なんだから変な事はしないようにな」
「うん……」
さすが年長者。耳の痛くなるセリフだ。
褒めてはいない。
「こんな状況で新たな問題を追加するのもなんだが、貴族のルールには慣れておけよ?」
「いや、俺は冒険者になるしいいよ別に」
正直、貴族の人と関わり合いたくない。会長とかは余裕のある人だから話しやすかったけどさ。
「お前なぁ、父さんがこのまま名誉貴族から上流貴族の仲間入りをしてみろ、世襲制になるんだからその子供である俺たちも貴族との付き合いが本格化する。
俺やエリシア、クラインは既にできてるし、ヘリスも今のままならいけるだろうが……ガロムやアルは今のままじゃ無理だろうな」
……そう言えばそんな話もあったっけ。
「でもそんなのはカルロス兄さんが継ぐんだろ?俺は別に良いよ。幸い知り合いの貴族もアズ某君と会長くらいだしさ」
アズ某君はたしか子爵で、生徒会長は……あれ?聞いてないよな?
「会長って貴族だよね?あの人の家の爵位ってどれくらい?」
「アル……」
「もしかしてアル、気づいていないのかしら?」
「気づくも何も、俺ってばずっと野山を駆け回る生活してたんだから、何も知らないよ」
なんだこの空気は。会長の話ってそんな拗れてるのか?
「シルディア会長の姓は何だ?」
「会長の姓……えぇっと、シルディア・M・レルガンって名前だったっけ?」
なんか嫌な予感がするんだが……。
「そうだ。じゃあこの国の名前は?」
「レルガン……王国」
まさか……嘘だろ?
カルロス兄さんに懇願するような眼差しを向けるが、ゆっくりと首を振られる。
……なんだこの手術後の遺族と医者みたいな構図は。
「シルディア会長は、この国の第1王女だ」
やっぱりそうか……てことは、俺って知らないうちにこの国の第1王女と手合わせしてたのか?おいおい、失礼な発言とかしてないよな?大丈夫だよね?
「まあ、会長も暫くしたら俺の事忘れるだろうし、それまでは目立たずに学園生活を送らせてもらおうかな」
――そう、この時の俺は忘れていたんだ。俺の場合、“良くない”方にテンプレが働くのを……。
「残念だが、その第1王女様からグランバード家にお茶会の招待だ。後、アルとは是非話をしたいそうだ」
……どうやら学園3日目にて、厄介事がまた一つ増えたようだ。
会長の名前に気づいていた読者様はいらっしゃいましたか?会長の名前を書くとき、作者は国名を忘れていたのでわざわざプロット兼設定資料を見返しました。……レルガン、成金猫、覚エタ。
この人ってもしかして○○?とかの小さい事でも、感想欄にくれると作者は喜びます( ´∀`)




