C組の問題
遅れてすいません‼
……家族の2人が先週誕生日だったのよさ。
学園内の端に位置する訓練所。現在C組全員でここに来ている。
因みに爺やは図書館に行かせた。前図書館に行った時に、まだまだ調べたそうだった様子だったので色々と理由をつけて行かせてあげた。
「は~い、皆さん準備ができたようなので早速始めましょ~♪」
いきなりだな……。
というか、模擬戦て、本当に模擬戦だけなのか?他にも色々あると思うんだけど……ほら、素振りとかさ。
「おい!早くやるぞ!!」
「ん?ああ、ごめん」
アッシュ君も既に臨戦態勢で俺を待ってくれていた。
その手には木を削ったナイフのような物が。……あれが武器か。
教室から出た時に持っていたからもしかしたらと思ったが、まさか本当に模擬戦用の武器だったとは……しかも手作りなのだろう。でこぼことしていて少し持ちにくそうだ。
「これにしといて正解だったな……」
対して俺が持っているのも同じように手作りの、こっちは木刀だ。
まだ村にいた頃、自分で作った一品なのだが、残念ながらスライム狩りで使おうにも魔法で事足りたので、素振り用にしかなっていなかった。
やっぱり相手も6歳だし、こういう単純な事で仲良くなれるかもという思惑があったりする。
我ながら汚い考えだなぁ。
あ、一応ミューナにはゴルバドさん謹製の模擬戦用の剣を持たせている。昨日の内に学園に登録しておいたのだが、まさかこんなに早く使うことになるとは思わなかった。
「って、無視するな!」
「おわっ!?」
咄嗟に木刀を前に出すと、ガツンと衝撃が走る。
どうやら、アッシュ君の堪忍袋の尾が切れたらしい。
「ちっ!さっきのは演技だったのか」
「いや、別に違うよ……」
「まだまだぁ!!」
「うおっ!!」
いきなりアッシュ君が連続で切りかかってきた!!
「おらぁっ!!」
「すげ……」
幸いアッシュ君の攻撃は全部受け止めれたのだが、最後に思いっきり切りつけてきた後にバク転で後ろに下がっていった。
やっぱあの運動神経は獣人って事と関係あったりするのかな?
「はぁ、はぁ……やるなてめぇ」
あら?もう認めてくれた?これはチャンス!!
「そうだろ?結構これでも頑張ってたんだぜ?1年前からレベル上げ、魔法の練習、筋トレに明け暮れて、右腕を犠牲にしてまで新スキルの検証……はっきり言ってそこらの奴らには絶対負ける気がしない!!」
どうだ!!必殺、自分の売り込みトーク!!これでアッシュ君ともライバル的立ち位置で良好な関係を……あれ?
「てめぇ……そうやって余裕ぶっこけるのも今の内だぞ!!」
どう見ても俺の発言にキレたアッシュ君。作戦は完璧のはずなのに!!
……もうわっかんね。
「おりゃあっ!!」
「ちょっと待て!!お互いに何か誤解があるようだし話し合わないか!?」
「直ぐにその余裕面に一発ぶちかましてやるっ!!」
「うわわっ!?」
アッシュ君の攻撃は切っては下がり切っては下がり。まさにヒット&アウェイって奴だ。
なんか口元から立派な牙も見えてるし、ちょっと理性が消えかけているようにしか見えないんだけどねぇ!?
「せ、先生……あれ止めなくて良いんですか?またいつもの……このまま貴族の方が押し負けたらアッシュ君にボロボロにされるかも!!」
聞こえてるよ~。
いつの間にか、クラス中の皆が手を止めて俺たち……というか変わり果てたアッシュ君を見ていた。
その中でフリージア先生に女子生徒が話かけてるが、フリージア先生はニコニコこっちを見ている。
先生が余裕そうに構えていても、全然安心できないけどな!!
「大丈夫ですよ~。見たところアルギウス君は本気じゃ無さそうですし、これを機にアッシュ君にもアレに頼る事を止めさせたいですからね~」
「グルルァウッ!!」
「おいおい……これ大丈夫か?」
アッシュ君の様子がどう見ても普通じゃ無い。まるで……まるで……獣みたい……?こんなに野生な獣は見たこと無いから分からん。 凶暴な獣とか、せいぜいペットショップで気性の荒い小型犬見たくらいだし。
ん?……だんだん毛深くなってきて、本当に獣みたいに……
絶対これは普通じゃ無いよな……ちょっとスキル見せてもらうぞ!!
「ス、スキルスキル……これか?……絶対これだ!!」
とりあえず俺もそろそろ余裕が無くなって来たのでアッシュ君のスキルだけ見てみる。
スキルが意外と多くて困ったが、一つだけどう見ても他と異なるスキルがあったので直ぐに見つけれた。
それがこれ
【獣化】
うん、分かりやすいね。
他人のスキルの解説は見れないが(俺の【眷属化】の範囲内であるミューナと、まだ見れないが、一応ヘリスは別だ)名前だけで効果が大体わかる。
先生の言い方だと、よくこれを使用しているのだろう。
「問題は止める方法なんだけど……せんせーい!どうしたら良いんですかー!?」
フリージア先生の事だ。流石に生徒が困ってたら助けてくれるだろう。
「今のところ、気絶させるしか方法は無いですね~」
「え……!?」
無理無理、絶対無理!!アッシュ君の攻撃を受けるのに精一杯なのもあるけど、そもそも気絶ってどうやれば良いんだ!?
アニメやマンガで首チョンなんてのは見るけど、あんなのはできたとしても熟練者だけだ。
流石に異常な身体能力は見せたく無いから【原初魔法】は使って無い。
そのせいで余裕が無いのだが、それを使った状態で首チョンなんてしようものなら、ただの首チョンパになってしまう。
「む、無理です!!先生助けて!!」
ほんと、そろそろ木刀が折れそうなんだよな!!
これでも地球の普通の木刀よりは少しばかり硬いはずなんだけど!?
「アル君の実力も分かりましたし、アッシュ君の負担も考えて今回はこの程度にしときましょうか」
パリッ
「ガウッ!?」
乾いた音がしたと思ったら、アッシュ君が白目を剥いてしまった。
先生の魔法だったんだろうが、魔力眼を使って見とけば良かった。
知らない属性の魔法っぽいし。
「すご……うわっぷ!?」
ドシャッ!!
痛っ!?そう言えばアッシュ君、こっちに向かってくる最中だったな……。
思いっきり押し倒された形だが、一体誰得だ!!少なくとも俺じゃない……数人の女子生徒は黄色い悲鳴を上げているが、精神衛生上気にしてはいけないだろう。
「アッシュくーん?大丈夫ですか~?」
アッシュ君の身体中から生えてきていた毛がどんどん短くなっていく。
ああ、抜けるんじゃないんだね。掃除が楽そうだ。
じゃなくて……!!
さっきからアッシュ君の反応が無いが、まだ気絶したままか、もしかしたら先生がやり過ぎて……
「ぐごぉぉぉぉ……ぐごぉぉぉぉ……」
……寝てた。
「どかんかい!!」
「ぐごぉ……ぐごぁっ!?」
力任せにアッシュ君をどけて、素早く離れる。
先生を信じないわけじゃないが、まだ暴走状態だったらたまったもんじゃない。
「あ、あれ?俺は……」
どうやら俺が突き飛ばした時に頭を打ち付けたらしく、痛そうに頭を押さえながら起きてしまった。
「アッシュ君、また暴走しちゃったんですよ~」
「ほんとかっ!?」
「ほんとですね~」
突如慌てだすアッシュ君。この様子だと、少なくとも自分で発動したわけでは無いのだろう。
「それで、あれは何なんだ?皆当たり前のように受け入れてるけど……」
とりあえず、今は先生に話しかけられないし、ディルマ君に聞いてみる事にした。
……ミューナとリオは端っこの方でポツンと立ってるし。
「何も知らないんだな」
「まあ……」
ちょっとキツい言い方をされたが、ディルマ君の表情はちょっと悲し……そう?
「何かマズい事言ったか俺?」
「いや、そう言うわけじゃ無いんだけどね……この話って俺個人の判断で話しても良いのかと思ってな」
そう言う事か。仮にも理性が無くなるスキルが正体なんだ。人によっては近寄ろうとしなくなる奴くらい出ると思う。
そんな事を他人であるディルマ君が話すのはさすがに気がとがめるだろうな。
「んー、じゃあ聞かね。後でアッシュ君本人に聞いてみるわ」
「アルギウス……」
これでアッシュ君本人が話すのを渋るなら、それ以上深く追及しないでおくつもりだ。
俺にも話せない事はいっぱいあるもんな。
「違うんだ……」
「え?」
違うも何もアッシュ君の事なんだから別に本人に聞くのはありじゃないのか?
「何もアッシュだけの問題では無いんだ。これは……クラスの、殆どの人に関係ある話なんだよ」
「……なら、無理に聞かない方が良さそうだな」
思ったより大きな話だし……いや、やっぱりこのクラスでやっていくなら、そう言うのも知っていかないと駄目じゃないのか?
「なぁ、やっぱり―――」
「はい、とりあえず模擬戦を続けて下さ~い。
アッシュ君は私が連れていくので~、アルギウス君もパートナーがいませんし、一緒についてきて下さいね~」
「あ、はい……」
話は出来なかったが、まだまだチャンスはある。明日にでも聞けば良いかもしれない。
「アルー」
こっちに一人で歩いてきたのは……
「ミューナか、どうした?」
「えっとねー……」
何か歯切れが悪く、いつものミューナらしく無いな。
「……やっぱり後で良い!!」
「ああ、別に良いけど……」
本当にどうしたんだ?
……ってフリージア先生も待ってくれてるし、早く行かないとな。
「…………」
「…………」
……気まずい。
今、医務室……というか、先生用の控え室みたいな所にいるのだが、フリージア先生が「ちょっとアッシュ君の頭を冷やす氷取って来ますね~」と言って部屋を出ていってしまったため、部屋には俺とアッシュ君の二人きりと言うわけだ。
因みにアッシュ君は【獣化】の後遺症か、少し熱が出てるみたいで長椅子の上で布をかけられて寝転んでいる。
「さっきはすまん。こうなるかも知れねぇって分かってたけど、結局自力で押さえ込めれるって過信しちまった……ええっと」
「アルギウスっていう名前だ」
急にしおらしくなってしまったアッシュ君。
やっぱり根は良い奴なんだろう。
正直、嫌いな相手に自分から素直に謝れるのは凄い。俺の6歳の時には考えられなかったな。
「別に良いよ。怪我してないし」
「ああ……」
本当にさっきまでいきなり突っかかってきたあのアッシュ君か?もはや別の人格なんだが?
「氷取って来ました~……あら~?アッシュ君、熱が上がってませんか?」
そう言ってアッシュ君のおでこを手で触れるフリージア先生。
「……これは、ちょっと上がり過ぎですね~。明日は医務室でお休みにしましょうか~」
「はい……」
返事をしたアッシュ君は、直ぐに寝てしまった。
流石に疲れすぎてか、さっきみたいにいびきはかいていないが寝相は悪いようだ。もう服なんかが乱れている。
「さてアル君~、今回の事なんですが知りたいですか~?」
フリージア先生の唐突な質問。先生から聞いてくるとは思わなかったな。
「まあ~これに関しては生徒同士の話合いの方が良いかな~と思うんで、アル君も頑張って下さいね~」
「結局言わないんかい!!」
なんかフリージア先生って、天然マイペースかと思ったけど実は腹黒かったりするんじゃないのか?毎回話に入ってくるタイミングが良いからな。
「この問題はC組にとっては~あまり人に知られたいとは思わない繊細な話ですからね~。アル君は、学園長先生とこの私が太鼓判を押す生徒なんですから~もしかしたら期待以上の結果が出るかもしれませんね~」
「どんだけ俺の評価が高いんだよ!!……なんでこう、俺の評価が初めから高い人って難しい話を持ち込むんだ……」
何処かに初期新密度MAXのチョロインは落ちていないだろうか?
「まあ、やるだけやってみますけど……期待以上って、大体の目安はどれくらいなんですか?」
やっぱりゴールみたいなのは知っておきたい。
後は単なる俺に対する評価を知りたいっていう好奇心。
「……こんな事を言うのは先生失格かもしれませんが~、もし叶うならアル君には皆を救って頂きたいですね~……」
こんな時、なんて返せば良いんだろう。プチコミュ障の俺には分からないんだけど……。
はぁ……これも計算が内だとしたら恐ろしい担任だな。
「なんというか……とりあえず助けたくなったら助けますよ」
「助けられればではなく助けたくなったら、ですか~。とりあえず、アル君の自信に先生は賭けようと思います~」
そう言えば先生はとうだったんだろうか?
「先生じゃ皆の問題は解決出来なかったんですか?」
結構慕われている様子だし、正直俺よりも可能性ありそうなんですけど。
「問題自体は時を経れば大体直るんですけど、皆自分のその力に恐怖心を持ってしまってるんですよ~。
だからルイス君曰く『あの子は隠しているようだけど、アルの持っているスキルは一つ一つが扱いを間違えればとても危険な物ばかりだ』なんて言われている君に同じ目線で、問題を解決してもらいたい感じですね~」
ルイス君って……。
「父さんとはどういう関係で……?」
「はい~、元同級生で、元冒険者仲間と言った所でしょうか~?」
……マジか。
てっきり冒険者仲間はギルドマスターだけかと思ってたんだけど、たしかに長い間冒険者をずっと二人きりってのもおかしな話だ。母さん達とも冒険者として出会ったって言ってた気がするし。
……スキルに関してはバレてても仕方ない。スキル検証でつい先日右手がポッキリ逝ってしまったんだ。もっと昔にボロが出てたんだろうな。
「それじゃあ戻りましょうか~?アッシュ君は保健の先生に運んでもらうので、アル君は先に戻っておいて下さいね~」
「分かりました」
やっぱり保健の先生はいるのか。というか、こんなに大きな学園なんだから学園内に病院があっても驚かない……少ししか驚かない。
まあ何はともあれ、とにかく友達作りは結局必要だって事だな。
「この2個の果物と、こっちの4個の果物を合わせると全部でいくつになるでしょうか~?」
今は数学の時間。もう次は昼の休憩時間だ。
この学園の初等部は大体午前4時間、午後1時間構成の授業だが、さっきの授業も含めて丸2時間、考え事をしている。
いや、授業だから考えるのは当たり前なんだが、さっきのフリージア先生の話の方だ。
やっぱり友達作りがネックだよな……。
っていやいや、そもそもなんで問題解決が前提なんだ。そもそも俺がやらないといけない理由が無いだろ。
でもなぁ……さっきフリージア先生との話が終わった後、ミューナとの約束通り話を聞こうとしたら『リオがまだ話しちゃ駄目って言ってたの……でも、アルが絶対皆助けてくれるから心配しなくて良いって言ってた!』……なんて言われたし、やらない選択肢ってのはそれはそれで問題がある。
……順調に外堀が埋められているような気がするなー。
「はい、アル君。この問題を解いてみましょ~」
おっと、授業もちゃんと聞かないとな。
「えーと、6足す17?……23です」
「正解です~さすがですね~」
訂正。やっぱり数学は聞かなくても良いかもしれない。
カーンカーンカーン……
「ふ~漸くお昼休みですか~。先生、お腹が凄く空きました……」
「起立!礼!」
「「ありがとうございました」」
この学園ではジャパニーズ臭溢れる授業の終わり方だ。
学級委員長はディルマ君。俺に最初に近づいてきたのも責任感からだろうな……。
「よし、ミューナ。爺やが教室の外で待ってるはずだから一緒に行っててくれ。今日はちょっと用事があるから一緒には食べられない」
「えー……分かったぁ。リオも一緒に来る?」
「遠慮しとく……」
「今度一緒に食べようね!!」
「ん……機会があれば」
ミューナが教室から出ていったし、俺も行くとするか。
「アル……どこに行くの?」
リオが興味を持つのは珍しい。まあ、そんな大層な所にいくわけじゃないけどさ。
「そう言うリオはどこで食べるんだ?」
「一人になれる所なら……どこでも」
「そ、そうか……」
なんというか予想通り、リオはコミュ障のようだ。
もしかしたら俺よりも。
「で……アルはどこに?」
「ああ、図書館だよ」
「調べもの?」
「まあな。それと多分、そこに相談したい人がいるはずだし」
勿論、調べるのはこのクラスの問題を見つける為だ。
それと相談する人の話はカルロス兄さんに昨日聞いたのだが、その人って休み時間はいつもそこにいるらしいんだよな
「……知ってる人?」
まあ知ってる人というか、なんというか……
「クライン・グランバード。俺の兄さんだよ」
久しぶりの再開だが、元気だろうか?
後半、話が駆け足になりそうだったので、ならないように、ならないようにと頑張りながらも、早く投稿せねば!!と言う気持ちと板挟みになったので少し変になってるかもしれません。
……好きなキャラとかっています?




