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【転生水滸伝】〜転生したら女の子になっていた俺は、侍スキルを駆使して宋国の滅亡を阻止してみせます!〜  作者: 奈津輝としか
第2章 南宋の建国と金国との攻防

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第88集 重大事件

 1135年、この年2つの重大事件が起こった。1つ目は、金の太宗・呉乞買(ウキマイ)が崩御したのである。既に諳班勃極烈《アンバンブォジーリィェ》(皇太子)となっていた完顔(ワンヤン)合剌(ホラ)が、金国3代目皇帝・熙宗として即位した。


 熙宗は自分を擁立した斡本(オベン)の養子であり、斡本(オベン)は権力を握る上で邪魔な粘没喝(ネメガ)の軍事権を奪う為に、上奏して粘没喝(ネメガ)を太保・領三省事と言う皇帝側近の名誉職に祭上げてしまった。兵権を取り上げられた粘没喝(ネメガ)は、この後次第に酒浸(さけびた)りとなり、失意のうちに1137年に59歳で病没する。金国の双璧と謳(うた)われた粘没喝(ネメガ)の晩年は、決して恵まれたものでは無かった。


 もう1人の双璧である斡離不(オリブ)はどうなったかと言うと、実は既にこの世を去っていた。1127年に北宋を滅ぼした後、宋の太后(タイホゥ)(つまり俺)との戦いで援軍に来た八字軍に撃退され、首都である上京会寧府に帰国した。斡離不(オリブ)は帰国すると傷寒を発症し、看病虚(むな)しくそのまま息を引き取った。傷寒とは漢方、中国医学で言う所の寒邪による急性発熱疾患の事である。


 2つ目の重大事件は、この年の4月に上皇である徽宗が崩御した。金国の首都である上京会寧府の更に東北千里の地にある五国城で亡くなったのだ。徽宗の死が宋国に伝わるのは1137年の春である為、更に2年の時を要する。しかし宋国に於(お)いて唯一、燕青だけがその事を知っていた。徽宗の様子を伺うためその時期に、単身金国に潜入していたからだ。



 現在、梁山泊の残党と呼べるものは3組ほど存在している。1つはこの登雲山組で、もう1つは飲馬川組の関勝や呼延灼、李応らの組で、呼延鈺と徐晟も今はここに居る。そして最後の1組は、李俊らの暹羅(シャム)国組だ。


 俺は、宋江から梁山泊を託された身だ。だから彼らを最後まで導く義務がある。死者と交わした約束だ。今さら死者に対して、「無理です。出来ません」とは言え無い。あの世にいる宋江に会いに行って、「すみません。約束は果たせません」とでも言うのか?それも無理な話だ。死者と交わした約束は重いのだ。それに、なるべくなら遺言を叶えてあげたい。そうすれば、あの世で眠る宋江達も安心して成仏出来ると言うものだ。


「ふぅ、となると…水滸後伝に沿って進み、宋江に代わって理想の国を建国し、民が平安に暮らせる政(まつりごと)を行う」


 俺は、そう心に誓った。水滸後伝を知っている読者であれば、この後の展開を想像出来るだろう。だが俺は理想郷を作って、はい終わりでは無い。その後、俺は取って引き返し金国を北に押し返して、宋国が失った領土の全てを取り戻して見せる。そして、岳飛を死に追いやった秦檜を殺す。これが、俺が求める最終目標だ。



「報(ポゥ)!(報告!)かつての頭領達が、飲馬川から此方(こちら)に向かっております」


 飲馬川組より公孫勝、関勝、呼延灼、李応、柴進、朱仝、戴宗、燕青、朱武、樊瑞、裴宣、皇甫端、蕭譲、蔣敬、穆春、楊林、蔡慶、宋清、聞煥章、宋安平、呼延鈺、徐晟らが加わり、これに喬鄆哥、吉孚、唐牛児らも小頭目としてついて来た。


 これにより登雲山は35人の頭領に3人の小頭目、そして太后(タイホゥ)の俺を併せて一大勢力となった。そして登雲山はただの山賊や、梁山泊の残党の寄せ集めなどでは無く、この太后(オレ)が率いる義勇軍と言う形式(かたち)を取る事によって、官軍の味方であると世間に公表した事になる。しかし世間の目は、太后(タイホゥ)の私兵と見ている。だが少なくとも山賊扱いされて、官軍の討伐を受ける事が無くなっただけマシであった。


「この大所帯となった今、登雲山では皆を養う事が難しい。そこで李俊殿を頼って、我らも暹羅(シャム)国を目指そうと思う」


 特に異論も出ず、暹羅(シャム)国を目指す事となった。飲馬川組が合流し再会を祝って、宴(うたげ)の席を設けた。


 宴席で呼延鈺らに、俺と別れてからの話を聞いた。金国に捕らえられて咄嗟(とっさ)に斉人を装い、兀朮(ウジュ)の軍師・阿黒麻(アヘイマー)に気に入られて小隊長となった事。それから鄆哥らと出会い、宋清を迎えに行く道中で梁山泊に立ち寄り、宋家村に着くと宋清夫婦は捕らえられており、助け出すには兵力が必要で登雲山に援軍を求め様としたが、その途中で戴宗に会い朱仝も捕らえられたと聞いたので、宋清と共に助け出す事件に巻き込まれたと話した。


 簡単な事では無かったはずなのに、自分達の力を誇示する訳でも無く、何でも無かったかの様に淡々と話す姿勢に好感を持った。偉そうに自慢話の様に話されては、ウンザリして来る所だが、寧(むし)ろ養父である呼延灼が息子達の活躍に誇らしそうにして酒を飲んでいた。


「ふふふ、自分の事よりも子供達の成長の方が嬉しいものよね」


 それでこそ良い父親の見本だと、俺も嬉しくなってついつい杯が進んだ。ほろ酔いで意識も混濁し始め、気がつくと周りには誰も残っていなかった。いや、正確には1人だけ残っていた。


 燕青だ。俺は元彼の燕青と一緒にいる事が気まづくて、意図的に避ける様にしていた。


「全く…姐姐(ジェジェ)(姉さん)の仕業だな?」


 顧大嫂の奴、変な気を回さなくて良いのに…と、燕青から逃れる為に立ち上がろうとして足の踏ん張りが利(き)かず、後頭部から床に叩き落ちそうになった。燕青は素早く反応して、俺を抱き止めてくれた。


「…ありがとう」


 暫くの沈黙の後、ようやく勇気を振り絞って声に出した。燕青は無言で、俺を抱き起こしてくれた。俺はお礼を言ったのに、どうしてお前は無言なんだ?と憤慨して燕青を睨(にら)んでギョッとした。


 燕青は、大粒の涙を流して泣いていたのだ。


「あっ、えっと…その…、助けてくれてありがとう。それから…ごめんなさい…」


 泣き続ける燕青を見て、俺まで貰い泣きした。そのまま1時間以上も泣き続け、ようやく落ち着いて来てお互いに昔話を始めた。


 他愛もない話だった。2人がまだ幸せだった頃、あの橋から眺めたあの花は綺麗だったとか、プレゼントされた櫛(くし)は本当はあっちのデザインの方が良かったとか、そんな話で盛り上がり酒を酌み交わした。


 話をしながら俺は、「ああ、本当に私はこの人とは終わったんだ」としみじみと感じた。燕青の方も未練と言うよりも、俺へ残っている気持ちへの踏ん切りを付ける為の様だった。


「そうだ。大事な事を伝え忘れていた。貴女の夫、上皇様が亡くなられた」


 俺はハッと思い出し、そうだ後宮を抜け出したのは徽宗に会いに行く為だった事を思い出した。もう1135年だった。俺は知っていたのに間に合わなかったと、床に崩れ落ちて泣いた。


 号泣する自分を、俯瞰(ふかん)して見る自分がいた。徽宗の死をこれほど悲しむなんて、半ば無理矢理に婚姻させられたのに愛する心があった事に驚いた。


 そう思うと、徽宗との想い出が頭によぎって来た。何度も危ない目にあったが、その度に助け舟を出してくれた事。「書」を学ぶのに、共に筆を取って字を書いたり、絵を描いた事。絵を描くのが趣味だったので、その絵を上手いと褒められて喜んだ事。一緒に美味しい料理を食べた事。それから、何度も愛して可愛がってくれた記憶が想い出され、それがもう2度と叶わない寂しさで更に悲しみが増した。


「ごめんなさい。間に合わ無くて、本当にごめんなさい…」


 俺は一晩中、泣き通した。

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