第87集 熟練度ボーナス
「それにしても、兀朮の奴に勝てなかったのが意味分からん」
俺は腹立たしいやら情け無いやらで、ぶつけようの無い怒りで苛立っていた。
『ステイタス・オープン!』
ちょうど胸の高さに、12インチタブレットサイズの画面が空中に現れた。
「う~ん、刀コレクションが増えて来たな」
刀を得ると、それに纏わる流派を会得する。刀を得る事を「開花」と呼び、流派を会得する事を「開眼」と呼ぶと書いてあり、今更の様に知った。俺は自分の能力の事を、まだ何も分かっちゃいなかった。
流派を会得しただけでは強くはなれず、その得た流派を使い続ける事で熟練度が増して行く。熟練度が増すと、段位が上昇する。初伝から始まり、カンストすると皆伝となる。つまり、会得した流派は段位によって強さが変化するのだ。
「ははは…」
俺はまだ強くなれる余地がある。それを知れただけでも心が救われた気がする。
「ん?何だコレは…」
ステイタスや刀、会得した流派がコレクションの様に増えて行き、それを見るのが楽しみだった。いや、それにしか目が行かなかった。何故、今まで気付く事が出来なかったのか?
『熟練度ボーナス』
「これは…まさか…」
思った通りだった。会得した流派に、熟練度ボーナスを強制付与が可能だった。俺は侍と言えば、やはり最強のイメージが強い宮本武蔵を外す事は出来なかった。
「うおぉぉ!か、カンストしたぞ。二天一流、免許皆伝だぁ!!」
まだ残っていた熟練度ボーナスは、新撰組を舐めるなよって思い「天然理心流」と「薬丸自顕流」に注いでカンストさせた。それから「小野一刀流」も免許皆伝させた。
「小野一刀流」は、人斬りと呼ばれた岡田以蔵が使っていた剣術だ。2つ歳上の幼馴染である坂本龍馬から、「隼の様じゃのう」と讃えられた神速の斬撃を得意とした。
岡田以蔵の師匠である武市半平太と坂本龍馬は親戚であり、龍馬は武市半平太の道場に入り浸っていた為に、岡田以蔵とは幼い頃からの友人でもあり、弟の様に可愛がっていた。
尚、異名である「人斬り」とは、後世の小説家達が面白おかしく書き立てる為に創り出した創作であり、当時の岡田以蔵は「天誅の以蔵」と呼ばれていた。暗殺した遺体に、天誅と書いた紙を残すのが常だったからだ。
小説家達によるイメージで「人斬り」の代名詞の様な扱いを受け、「人斬り四天王」とも呼ばれて最強の様なイメージを抱いている人もいるだろうが、俺の評価では河上彦斎、中村半次郎の次に岡田以蔵で、最後に田中新兵衛と言った感じだろうか。
特に中村半次郎は、新撰組局長・近藤勇をして「自顕流の初太刀は決して受けず、何が何でも躱わせ!中でも薩摩の中村半次郎だけは絶対に相手にするな」と隊士らに訓戒していたほど恐れられていた事でも知られる。後に陸軍少将にまで昇進しており、強いだけでなく兵を統率する司令官としての才能も持ち合わせていた。
岡田以蔵も強かったには違いない(坂本龍馬の紹介で、勝海舟の用心棒をしていた事がある為)が、暗殺のほとんどが不意打ちで斬りかかって逃げるを繰り返したものであり、中村半次郎の様に正面から斬り合ったものが少なかったので評価が劣る。
河上彦斎は、我流の片手居合抜き逆袈裟斬りを得意とし、神速の地を這う様な下から斬り上げる抜刀術は、受けたり躱わすのは困難であったと思われる。岡田以蔵ではこの人に勝つのは厳しいと思われ、同じ居合抜刀術を得意とする中村半次郎とどうかと思われる。
更にスフィア盤と呼ばれるスキルツリーが存在し、俺が何もしなかった為に刀しか会得出来なかったが、他にも「槍」や「弓」、「鉄砲」が存在していたのだ。
「近接攻撃しか出来ないのは厳しいから、弓を会得してみよう」
スキルツリーの「弓」にポイントを割り振ると『京弓』を開花し、それと同時に『日置流弓術』を開眼した。
「あははは、やったわ。これで斡離不とも戦える。花逢春に弓を習おうかしら」
日置流弓術に残りのポイントを全て注ぐと、目録の段位になった所で使い切った。俺は自分がどのくらい強くなったのか確かめる為に外に出て、訓練所に向かった。ちょうど土中に丸太を埋めて作られた訓練用の案山子があり、気合い一閃して薬丸自顕流を放った。
すると、まるでバターを切ったかの様に軽く滑らかに案山子が斬れ、続く小野一刀流で丸太を真っ二つにして見せた。
「素晴らしい…まるで世界が違って見える。さっきまでの自分と、まるで比べ物にならない事が実感出来る」
もっと早く気が付いていれば、兀朮など相手では無かったのにと悔やまれた。大宗師のはずの自分が、どうしてこんなにも弱いのだ?と思っていたが、何の事は無い。全く成長させて無かったのだから、当然と言えば当然だった。
そして今度は的を狙って、弓術を試して見る事にした。狙いを定めて矢を放つと、3本中1本がど真ん中に命中し、他の2本も赤枠を捉えていた。
「お見事!」
澄んだ音色の様な声に、思わず振り返って見た。声の主は想像通り、花逢春だった。
「あっ、お恥ずかしい。私は弓が苦手で、今初めてまともに射たのです。良かったら、教えて貰えませんか?」
「初めてとはとても思えぬ腕前。心腹致しました。某などが初めて射た時は、的にも届きませんでした」
俺は花逢春の冗談だと思って笑い出すと、花逢春も一緒になって笑い出した。それから花逢春の教えで弓矢を射たが、「失礼します。もう少し肩の力を抜いて、構えはこの位置で…」と背後から両腕を回して的に狙いを定めて矢を放った。
俺は胸の鼓動が高鳴り、顔から火が出そうなほど火照って耳まで真っ赤にした。
(ダメだ。これ以上密着してると、本気で惚れてしまう…)
俺は花逢春にお礼を言い、疲れて休みたいのでお茶を飲みたいと言って休憩に誘った。しかし花逢春は、自分はもう少し稽古を続けると言ったので別れた。
「はぁぁ…。ヤバい、ヤバい、ヤバい。何て美人なの。トキメキ過ぎて、惚れるなって方が無理がある…」
王宣慰使の奴が惚れるのも無理は無いなと思い、彼はまだ花逢春が男だとは知らないのだし、男だと知っている自分でさえこの有様なのだからと、少しだけ王宣慰使の肩を持った。
弓の腕前も上々だろう。熟練度を上げてポイントを貯め、皆伝となれば更に強くなれる。俺は満足し、余韻に浸った。




