98 血の繋がり(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
「リンデウム伯爵家が裁判に掛けられれば、シアが気づいて戻ってくるかもしれない」
「トーレ?
何を言っているんだ?」
伯爵が息子のことを戸惑った顔で見ている。
「シアのことです。
あの時……、私に何と言いましたか?」
「……パトリシアはもう嫁には出せないから……」
「そうです。
あのような噂を立てて……、シアを嫁に出さずに家に留め置くためというから、私は手伝いました」
「仕方ないだろう!
子どもの頃のパトリシアを知っている……、アンドリュース侯爵が噂を疑って、本当のことかと、パトリシアだけを、本人と話をしたいと呼び出してきたのだ。
ひとりでのこのこと行かせられるわけがないだろう!!」
「……だから娼館へ?
あの時、修道院へと言っていたじゃありませんか!!」
「修道院では金をこちらから払わねばならん。
結局、閉じ込めておくならば、金もかからず、逆に金を得ることができる方がいいだろう!」
「私は、シアが戻ってくるのを待っていたんだ!
マルゴーを嫁に出して片付け、父さんから伯爵位を引継ぎ、そして、シアを迎える。
マルゴーの結婚のために金が必要となって、当てがあるとあなたにここに連れて来られた時に……、私は騙されていたことを知った。
シアは修道院ではなく、娼館へ売られていたのだと!!」
「結婚のためのお金?
持参金ってこと?」
私が呟くとマダムが言った。
「令嬢の持参金のために、パトリシアからもっと搾り取ろうと思ったのでしょう。
計算ではまだ年季が残っているし、こちらにも非合法なことを引き受けた弱味があるから外には出さないと思っていたのでしょうね。
パトリシアが既に自由になり、ここにはいないとわかったとたん、今度はエスタを脅迫することにしたのでしょう。
すべての悪事をエスタのせいにして公にしてやると」
そこまでしてお金が必要だったのか!?
「リンデウム伯爵家が王都で晒し者になれば、シアは心配して出てくるかもしれない」
「トーレ……、お前、そんなこと……。
父を裏切るのか!
お前達のために、兄夫婦の残した物を奪ったのに!
そうなったら、リンデウム伯爵家は取り潰しに、何も、なくなる!!」
「裏切ったのは父さんが先だろ」
「ト―レ兄様!
リンデウム伯爵家が取り潰しになったら、私の結婚がなくなっちゃう!?」
「マルゴー。いい加減に気づけよ。
持参金がなければ結婚できないってことは、相手の気持ちは、最初からお前にないってことだ。
こちらの足元を見て、金が無さそうだ、ならばと事を荒立てずに断る方便だろう。
伯爵家の財産はお前達が食い潰して、もうほとんど残っていないしな」
マルゴーと呼ばれた令嬢が父親である伯爵を見る。
「お父様!?
どういうこと!?
財産って、領地は?
そういえば、お母様……。
領地を見てくると出て行ったきりで……」
「お母様か。
伯爵夫人は消えたよ。
元伯爵令嬢ではなく、現伯爵夫人の方が男と駆け落ちして行方不明だ。
まあ、沈む泥船から逃げ出した手腕は見事と言うべきか」
「……お父様!
お金は!!
お金さえあれば、私はリーゼル子爵家へ嫁に出れます!
何とかして!
ビクトル様も持参金があればと!」
令息がバカにしたような笑いを浮かべた。
「没落子爵家のビクトルか!
奴は顔はいいが、金と家名でしか人を見ない。
マルゴー、なんとか持参金を工面して結婚までこぎつけたとしても、もうリンデウム伯爵家が取り潰しになった途端に、奴はお前を放り出すだろうな。使用人としてすら使えないゴミクズとしてな」
「な……、なんで!?
なんで!! そんなひどいこと言うの!」
マルゴーが怒ってキンキン声で叫ぶ。
なんていうか……、修羅場っていうのはこういうことなのだろうか!?
ギルド職員二人が、ふいに訪れた静寂に立ち上がり礼をして部屋を出て行った。
マルスが証拠の品が入る金庫に魔道具を入れ、マダムが鍵をして、マルスに返した。
役人が困った顔をしている。
「お取込み中のところすみません。
王都の役所に訴えるとなると、リンデウム伯爵家は無傷では済まないでしょう。
『エスタ』もそれなりに……。前の主人の代のことで、その……、陥れられた令嬢のためとはいえ……。
元伯爵令嬢の名誉のためにも、これは墓場まで持って行くべきことだと、個人的に思います。
とにかく……、私は巻き込まれたくないっ!
双方ともに訴えるなら、新しく申し出て下さいっ!
そして、私以外の役人を担当にすればいい!」
早口でそれだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。逃げたってことか。
マダムが微笑んだ。
「どうやら訴えても無駄なようですわね。
どうなさいます?」
伯爵は血走った目でマダムを見た。
「パトリシアは……、シアは、どこにいる!?
お前が匿っているんだろう!
この女狐め!
あいつに……、リンデウム伯爵家をなんとかしてもらわにゃいかん!
あいつのせいなんだ!
兄夫婦が死んで、何かおこぼれでもあるかと伯爵家に行ったら、身内だと迎え入れて……。
一緒に伯爵家を守って欲しいと!
あんなことを言って、弱そうな素振りを見せるから……、私も妻も、これなら乗っ取れると思って!!
そうだよ!
サルバトーレ、マルゴット!
お前達のために、父と母は!
おかげで伯爵令息と伯爵令嬢になれただろう!」
「伯爵令嬢でもお金がないのは困るわ」とマルゴーが言って首を竦めて見せる。
な……、なんて人達!?
結局、シアを、シアのことを何だと!?
姪だよね!? 血が繋がっている……、兄の娘だよ!
「父さんもマルゴーも、本当に汚いよ。
シアは美しかった!
心も姿もね!」
ト―レと呼ばれていた令息が叫んだ。
この人はシアを愛していたのだろう。
でも、結局、シアを貶める方に加担した。それは……。
ドアが開いた。
シアとライカンが入ってきて、ディーとユミエラがさっと壁沿いに私達の方へ来た。
「シア!!」
ト―レが顔に喜びの色を浮かべ、駆け寄ろうとするのをシアは手で制し、ライカンがシアを守ろうとするのを見て、ト―レは立ち止まる。
シアは怒っている。静かに……、でも怒っている。
「サルバトーレ、あなたも同じです!
叔父、叔母、そして従兄弟であるサルバトーレとマルゴット!
みんな、リンデウム伯爵家の名を汚し、私を……地獄へ叩き落した!
誰一人、許さない!!」
「わ、私は君が修道院へ行くと!!」
シアがト―レを見据えた。
「修道院へ行くのに……、なぜ私に薬を盛る必要が!?
私の純潔を踏みにじる必要が!?」
「君は私の物だからだ!
修道院から戻れば、愛人にしていいと!
だから、私の物だとその身体に刻みたかった!
愛してるから!」
「私は愛してなどいなかった!
家族として……。
父や母なら、身内にはやさしくするべきだと……。
私が世間知らずでした。
何故、父が弟をわざと遠ざけていたのか、考えるべきだった。
血の繋がりは……、時として他人よりも恐ろしい結果をもたらすことがある……」
「血の繋がりは、他人より恐ろしい……」
シドがそう呟いたのが聞こえた。
シドも父親である大臣に自分の血を引いているからといいように利用されてるといえば、そうだ。
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