97 『エスタ』③(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
なんて奴!!
私は役人をギギッと音がしそうな感じで見つめてしまった。
役人は怯んだ。
悪いことに加担しているという認識があるのか!?
それなら、許してはおけん!!
でも、役人は少し声を落として言った。
「証拠は審査しなければ偽物とはわかりません。
ギルドの方に証拠の審査は依頼してあります」
ギルドの職員が進み出た。
「マダム、見せて頂けますか?」
「ギルドの名に懸けて、偽証しないと誓って頂けるかしら?」
「私どもはギルドの職員ですよ。
それに……、現在、この地に魔法塔のギルドマスターがいらしています。
使節団で御一緒されているのでしょう?」
ギルド職員が私とエドガーを見た。
「はい、クラーク様は使節団の仲間であり、魔法塔では私の保護者のような存在です」
私ははっきりと言った。
「そのような客人の前で偽証などできませんよ。
これでよろしいか?
では、見せて頂きますね」
マダムは微笑んで、首元から鎖に付けられた鍵を取り出すと金庫の鍵を開けた。
手紙などの文書類と、小さなノート、それに何かの魔道具があった。
私の結婚式の映像記録の小さめの奴みたいな感じだ。
ギルド職員が二人、テーブルの上にそれらを広げて確認していく。
そして、二人で何か相談しているような時間が……。
リンデウム伯爵が「早くしろ!」と怒鳴り、役人に「お静かに」と言われて怒っている。
令息はじっとテーブルの上を見ていた。
令嬢は部屋に入り込むと、壁紙や床のマットなどを見て「これ、イーシアの最高級品じゃない!?」とぶつぶつ言っている。今の状況、わかってるの?
そして、私を見た。
「まだ……子どもね。
売られてきたの?
かわいそうに……、うふふっ」
その口調が全然、かわいそうと思ってないのがよくわかる。
私とシドは顔を見合わせてしまった。
いや、エドガーとじゃなくて、なんでかシドとね?
「私の侍女にしてあげましょうか?」
その言葉にエドガーがとうとう切れた。
「私の妻に馴れ馴れしく話し掛けないでもらいたい」
「妻? 妻って!?」
びっくり顔の令嬢……。
その時、ギルド職員が顔を上げて宣言した。
「この手紙、文書、メモ書き、全て現リンデウム伯爵の筆跡と確認できました。
本物です。
前エスタの主人、タビーユ氏の覚書とも日付が一致、致します」
役人が『へ?』という表情で伯爵を見てから、「ということは?」と情けない声を部屋に響かせた。
ギルド職員が淡々と説明する。
「リンデウム伯爵が姪であるパトリシアを薬で眠らせて、ここエスタに送り込むので、この先、外に出さずに娼婦として飼い殺しにするようにと。
まずは7年の年季で、その金額700ギニーは伯爵家にということになっていますね。
金を受け取ったという正式な書類はありませんが、手紙にそのことが触れられていますので、リンデウム伯爵はご自分で姪であるパトリシア嬢をエスタに売り、その金を手にしながら、パトリシア嬢が行方不明になったと届けを出していたことになります」
「バカな!!
我々はパトリシアを探していたんだぞ!
自分でそんなことをしたのなら、ギルドに届けるわけがなかろう!!」
「あの届けでは探し出せませんよ。永遠に」
ギルド職員が薄く笑う。
「届けられているのは名前だけ。
髪色も瞳の色も年齢も体格も特徴も何も届けられていない……。
本気で探す気はなかったのでしょう。
むしろ、捜されて、エスタにいることがバレたら、困るのは伯爵というわけだったのでしょう」
役人は顔色を変えた。
ギルド職員は証拠を丁寧に金庫に戻すとマダムに返した。
「これは本物です。そして、この魔道具は……、起動させてよろしいのですか?」
「はい、お願いします」
職員がテーブルの上で起動させると、光がぐるっと壁を探し出して、止まる。
マルスがカーテンを閉めた。
あ、同じ!?
映像が壁に……。
伯爵がもう少し若い。
そして、もうひとりおじさんが話をしている。
『パトリシアという若くてきれいな女だ。伯爵令嬢として大切に育てられてきているからマナーや知識などはどこに出しても恥ずかしくないものを持っている。
貴族の間では不良娘で駆け落ちしたと言われても皆が信じるような噂をすでに流して孤立させている。
絶対に大丈夫だ。
今週中にでも薬で眠らせてこちらにお届けしよう。
そうだ、私が関わっていないとわかるように、晩餐会がある日がいいかな!
頼むよ。絶対に最高級の娼婦になれると思う!』
『そうですか……。
それでは……お引き受けしましょう』
伯爵がほくほく顔で部屋を出て行く。
『タビーユ!
大丈夫なの!?』
声の後に映像に現れたのは少し若いマダム。
『ルールー、ここで私が引き受けないと、このお嬢さんはとんでもない苦界に落とされることになる』
『それは……、ここの方がまだマシなのはわかるけれど』
『いいね。
私が亡くなったら、彼女にせめて普通の娼婦と同じだけの自由を与えてやって欲しい。
罪は私に!』
『タビーユ!!』
『君ならば、彼女達を助けることができるだろう。
そして、この娼館『エスタ』を続けても閉じても自由だ』
『わかったわ……。
あなたの罪を私も一緒に背負います』
『君ならそう言ってくれると思っていたよ』
タビーユ氏は寂しげに笑った。
マダムが部屋を出て行く。
タビーユ氏がこちらを見て話しを続けた。
『というわけだ。
リンデウム伯爵は血を分けた姪である少女を地獄に、金のために落とすような男だ。
私もその片棒を担がされそうになっている。
この話を断ると、この少女はどんな非合法の店に売られるかわからない。
私もバカではないのでね。
この『エスタ』を守るためにこの映像を残しておく』
映像が消えた……。
みんなシーンとしている。
マルスがカーテンを開けた。
「この数日後、薬で眠らされたパトリシアが荷物のように運ばれてきました。
リンデウム伯爵家は彼女が男に入れあげ駆け落ちしたと。そして、形だけの捜索依頼をギルドに出し……。
もうみなさまもおわかりね。
では、お役人。
これをもって、王都の裁判所で披露いたしましょうか?
すごいスキャンダラスなことになりそうですわね。
ギルドはこれが本物であると認めて下さっていますし。
私はどちらでもいいのですわ。
ただ、こうも証拠があるのに、無理に言い立てるのは……、お役人としての未来はどうなるのでしょうね?」
ギルド職員のふたりは「ギルドはこの証拠が本物であると認めます」と言い、役人はよろめいた。
リンデウム伯爵は役人に「早く……、この者を……!」と言いかけるが言葉が見つからないようで目が泳いでいる。
令息は硬い表情をしていて、令嬢は「なに? この魔道具! すごーい!」と手を伸ばしてきたので私は慌てて魔道具を先に取り上げた。
「マルゴー、その魔道具を壊すんだ!」
伯爵が叫んだ。
「えー、よこしなさいよ!」
令嬢が私に迫ろうとして、エドガーが守ってくれる。が、後ろから伯爵が迫ってきてシドが守ってくれた。
私は魔道具を抱えてマダムのそばに避難した。
マルスさんが守ってくれるもんね。
役人が「これは……、虚偽の申告だったのですね……。リンデウム伯爵の告発は取り下げます」と宣言した。
「なっ?
では金がとれないではないか!」
「……伯爵、なかったことにした方が身のためです。
このことが王都で裁判になったら……、リンデウム伯爵家は取り潰しになるでしょう。
それでいいのですか!?」
「ぐぬぬぬ……」
伯爵が呻き、「えー、私の持参金はどうなるのよ!」と令嬢が叫んだ。
「訴えてもらった方がいいのでは?」
令息が妙に冷静に言って、私達はびっくりした。
読んで下さり、ありがとうございます。




