95 『エスタ』①(ミコト視点)
どうぞよろしくお願いします。
コステロはテントで野営すると張り切っていて、ライカンやギルド副長のゴードンがアドバイスしてあげてるみたいだ。
私は離れてよう。
シアとユミエラと一緒にお風呂を使わせてもらうことに!!
やーっ、さっぱり!!
いいな、お風呂!
あ、昨日のシーツ、ここで洗って干しても大丈夫かな?
お風呂上りにささっと洗わせてもらい、外の洗濯物干しをお借りして干してしまう。
「シーツ持参してるの?」
ユミエラに言われて、ギクッとした。
「あ、うん、その……、ベッドを汚さないように……」
「汚さない……。
あ、昨日、エドガーと?」
「……うん」
「そんなことまで気にしているの!?
掃除してる方だったから?」
「うん、それもあるかもね……」
「新婚さんなんだから、みんな大目に見てくれるわよ!」
あー、まあ、でもさ。
今夜は女子部屋って分け方なんだよね。
のんびり過ごそう。
はっ!
だから、昨日、したのか!?
騎士団を出発。
今日は私、エドガーの馬に乗せてもらった。
馬、面白ーい!
でも、ちょっとお尻と内股が痛くなった。
なんか落ちそうになったらエドガーが捕まえてくれるだろうから大丈夫と思うんだけど、つい力を入れてしまって、変な筋肉痛みたいな感じ。
途中で馬車に戻り、シアに訴えると「だらしがないわね」と笑われた。
シアは子どもの頃、乗馬を習っていたそう。
伯爵令嬢としての嗜みってやつだ。
筋肉痛だから、治癒魔法使っていいのかわからず、馬車でごろごろして過ごした。
ユミエラがディーの馬に乗りに行ったからね。
けっこう強行軍で進み、ケレスに到着。
もうマイルズ川を渡れば、シーザー王国で、カノンだ。
ユミエラとシアが少し緊張している。
髪型も化粧も服装も全然違うけど……。
知っている人に会ったらと思うと、こわいかな、やっぱり。
私は魔法使いのフード付きの上着を取り出して「ふたりとも着る?」と差し出した。
「ミコトは着ないの?」
シアに言われて。
「うん、私は逆に昔、隠してたから、たぶん平気だと思う」
「そうね。ミコトはすごく成長して顔つきとかもだいぶ変わったわ」
シアが微笑んで言ってくれた。
「借りるわ。どうしても『エスタ』に行って話を聞きたいの」
「私も借りるよ。
父さんが何か言ってきてないか、妹のことも気になるし」
ふたりとも上着を手に取り、被ってみる。
「どう?」
ユミエラが変なポーズをとるので笑っちゃった。
「何そのポーズ!?」
「うーんと。悪の魔法使いのポーズ?」
「何それ!!
私の上着で遊ばないでよ!
私がこわい魔法使いみたいじゃん!!」
私は夜、宿でフィオナの小石を取り出して、魔力を探す。
この前より近くに感じる。
でも近くではない。私にはわからないということは王都かな?
カノンならもう少し詳しく見えそうだし。
カノンについてから、もう一度探ってみよう。
次の日、正式なマイルズ共和国使節団として、大きめな渡し船に馬車ごと乗り込みマイルズ川を渡る。
もう、シドとイサクは王城に到着して、一週間は過ぎた頃後だろうな。こちらにエドガーがいることはわかっているはず。
気を引き締めていかないと!
久しぶりのカノン!!
とても、とても……、不思議と思ってたより素朴な感じがした。
あちこち見てきて、目が肥えたのだろうか?
シーザー王国からのお迎えが来ていて、歓迎される。
その中にシドがいた。
フィオナのことを頼むのは……、ちょっと違うかー。
宿舎として用意されたのはカノンの高級な宿で!!
一応、リゾート地だからね。
今回も女子部屋です。
ここなら部屋ごとに風呂あるのになー。
ほっと落ち着いたところで、ドアがノックされた。
エドガーとライカンとディーで!
エドガーが小さな声で言った。
「目立たないようにシドが馬車を用意してくれてる。
『エスタ』に行こう!」
私達はさっと目配せし合うと、上着をつかんで部屋を出た。
裏口から外に出ると、大きめのなんの印もない馬車の御者席にシドがいて「どうぞ、お姫様方」と笑った。
『エスタ』に着くとエドガーとディーが玄関から入って行き……。
マルスさんが走って出てきて、馬車の方に来た!
「こちらへ!
裏の方へご案内します!」
裏庭の方へ馬車を誘導してくれて。
私は馬車から一番に飛び降りると「マルスさん!」と飛びついた。
「ミコト!!
元気で!!
ああ、本当にミコトだ!
クルトと結婚したんだって!?」
「はい!!」
「早過ぎだよー。
お父さんとしては何とも言えないものがあるなー」
本当にマルスさんだ!
マルスさんはシアとユミエラを見るとすっと姿勢を正した。
「こちらに、女主人がお待ちです」
「マルス兄さん……」
シアが呼びかけるが、マルスさんはにこっと微笑んだ。
「もう生まれ変わったんだ。昔の名前で知り合いだとは言わないよ」
「はい……。ありがとうございます」
シアとユミエラは口をきゅっと結んで頷いた。
ライカンがマルスさんに目で礼をして、みんなで『エスタ』の裏口から入っていく。
アインさんの声が聞こえた。
「はい、ここは今施設点検中だから!
あっち通って!」
「えー、なに?
なんの点検よ!」
みんな、協力してくれてるの!?
誰にも会わずにマダムの部屋の前に到着。
ドアを開けると、マダムとエドガーとディーがいた。
マダムはにっこりと微笑んだ。
「おめでとう。話は聞いたわ。
それぞれ、自分の新しい人生を切り開いたのね!
おめでとう!!」
シアとミカエラは軽く礼をした。
私も一緒にね。
マダムに促されて私達はソファに腰かける。
ライカンとシアとユミエラが正面に。
その横の二人掛けのソファにエドガーと私が座り、マルスさんが持って来てくれた椅子にディーが座った。
「それで……、わざわざここに来たということは何か知りたいことがあるのね?」
シアが少し緊張した表情で話し出す。
「叔父がこちらに私を訪ねてきたようだと聞きました。
そして、過去にギルドに捜索願いを出していたことも知りました……。
リンデウム伯爵家はいったい、今、どうなっているんですか?」
マダムは鼻でため息をついた。そしてユミエラを見る。
「あなたも残された家族を気にしてきたの?」
「私は弟と妹のことだけが……」
「そうね。
話が早いのはミカ……、いや、ユミエラね。
ユミエラの方から。
弟さんは遠方の師匠の所から戻ってないわ。
きちんと務めているそうよ。
住所は知っているんでしょう。手紙を出してみたら?」
「でも……」
「大丈夫。弟さんはもうここにあなたがいないことは知っている。
きちんと清算して出て行ったことをね。
あなたが元気なのかと問い合わせがあったの。手紙でね。
知らせたら、ちゃんとお礼状が帰ってきたわ」
マダムがマルスさんを見ると、控えていたマルスさんが机の引き出しから封筒を2通持ってきた。
「ちゃんとお礼状を書ける、素敵な弟さんね」
「……ありがとう……ございます」
ユミエラがマルスさんから封筒を受取り、胸に抱いた。
「妹さんの方だけど……。
お父様から、一度だけ打診があったわ。
あなたの年季を増やしてもらえないかって」
それは……、ユミエラをさらに売るということ!?
「ええ、もちろん、あなたはもういないし、それはできないことのなのでね。
お引き取り頂いたけど、その時、妹さんがそろそろ14歳になるとか……」
「はい、となると……、もしかして妹を売るつもりなんじゃ……!」
「そうね。そんな気がしたわ。
その時は『エスタ』にご相談を! とは言っておいたけど……」
「もし、ここに売られたら……、すぐに私が買い戻します!」
「そうね。
そうなればいいけれど……。
あなたのことで、ここがあまり融通が利かない店だと思ったら、違う店に行ってしまうこともあり得るわね」
「そんな……」
ユミエラの封筒を握る手が震えだし、シアがユミエラを落ち着かせようと抱きしめた。
「今の所、他の店には来ていないようよ。
まあ、私の目の届くところはカノンの店だけだけど。
あの男としては、あまり王都で噂にはなりたくないでしょうし……」
マダムの言葉に私は驚いた。
マダムがユミエラの妹を気にして手を回してくれている!?
「ミカエラの妹だもの、きれいでしょう、きっと」
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